2021年01月20日
温泉考座 (62) 「銭湯なのに温泉」
平成26(2014)年6月、「富岡製糸場と絹産業遺産群」 が世界遺産に登録され、群馬県内の観光は活気づいています。
大きな温泉地では県外からの誘客戦略として、富岡製糸場と温泉地をつなぐ観光バスの運行を始めたところもあります。
群馬の温泉が全国に知られる絶好のチャンスです。
これを機に、周辺の小さな温泉地や秘湯の一軒宿にも目を向けていただきたいと思います。
ところで、富岡製糸場から一番近い温泉地 (宿泊施設のある温泉) は、どこかご存じですか?
それは富岡市内にある 「大島鉱泉」 です。
鏑川(かぶらがわ)の支流、野上川沿いの山里にひっそりたたずむ一軒宿で、煙突から立ちのぼるけむりが秘湯情緒をかもし出しています。
地元では 「榊(さかき)の湯」 と呼ばれ親しまれています。
大正初期のこと。
村人たちが共同で井戸を掘ったところ、ゆで卵のようなにおいのする水が湧き出しました。
温めて浴すると腫れ物が治り、飲めば胃腸病に効くといわれ、長い間、地元の人たちに利用されていました。
戦後になり、先代が公衆浴場の許可を申請し、この井戸水を利用した銭湯を始めました。
昭和42(1967)年に現主人が旅館を併設して、3代目を継ぎました。
銭湯と旅館の玄関は分かれていますが、2棟は渡り廊下で続いています。
浴室の入り口にはのれんが掛かり、番台こそないものの雰囲気は銭湯そのもの。
総タイル張りの浴室には定番の富士山が描かれていて、桶もカランも町の銭湯と変わりありません。
でも、ここが他の銭湯と違うのは、湯が天然温泉であること。
県内で唯一、温泉を利用した銭湯として、全国から温泉ファンのみならず、銭湯マニアたちも訪れています。
湯は無色透明ですが、ほんのりと硫黄 (硫化水素) の香りがします。
アルカリ度を示す水素イオン濃度はpH9.2と高く、ツルッとした感触で肌にまとわりつきます。
現在の温泉法では、25度未満の冷鉱泉でも含有成分を満たしていれば “温泉” と表記できます。
なのに、あえて “鉱泉” と名乗っているところに、大正、昭和、平成と守り継いできた主人たちの湯守(ゆもり)としてのこだわりを感じます。
<2014年9月10日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:21│Comments(0)
│温泉考座