2021年08月07日
鳴らない風鈴
世知辛い時代になりました。
令和の世の中からは、風流や風情というものが消えてしまうのでしょうか?
以前、「吊り忍」 について書いたことを覚えていますか?
江戸時代の植木職人が作り出した伝統工芸品で、夏の風物として庶民に愛されてきた観賞用の小さな盆栽です。
竹やシュロの皮などを芯にして、これにコケを巻き付け、その上に 「しのぶ」 というシダ科の植物をはわせた 「しのぶ玉」 を軒下などに吊るします。
※(詳しくは当ブログの2021年7月28日 「なぜか、吊り忍」 を参照)
風に揺れ、緑の葉が風にそよぐ姿が、なんとも涼しそうであります。
吊り忍の下には、風鈴を吊るすのが定番です。
それも江戸風情を醸すならば、ガラス細工に限ります。
そして絵柄は、“金魚” がいいですね。
<ジュンちゃん、金魚の風鈴が届いたよ~>
行きつけの酒処 「H」 のママから、うれしいメールが届きました。
ママとは夏の初めに、「吊り忍」 の話で大いに盛り上がったのであります。
さっそく、吊り忍と金魚の風鈴をそろえてくれたようです。
もう、「H」 に向かう道すがら、ワクワク、ドキドキが止まりません。
「あった~!」
店の数十メートル手前から、のれんの横でひらひらと揺れる赤い風鈴と青い短冊が見えました。
そして、その上には、まだ小さいけど、一丁前に枝葉を伸ばした 「しのぶ玉」 が飾られています。
「ママ~、すごいね! 素敵だね! これで商売繁盛だ!」
そう叫びながら店内に入った僕でしたが、ママの反応は微妙に期待外れでした。
「うん、吊るしたことには、吊るしたんだけどね……」
と、なんだか寂しそうなんです。
ちょっと、待てよ?
なんか変だぞ!
吊り忍と金魚の風鈴、確かに主役は揃っている。
なのに、何かが足りない……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!!!!! 音がない!」
そうなんです。
風に揺れている風鈴が、“無音” なのです。
「ママ、どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもないよ。わたしゃ、もうグレちゃうよ」
カクカク、シカジカ……ママが言うことにゃ、常連客から忠告をいただいたのだと言います。
その常連客が住む町内では、最近、回覧板が回ったといいます。
内容は、<風鈴を吊るさないでください> というもの。
その町内では 「うるさい! 迷惑だ!」 という、ご近所トラブルが発生しているというのです。
「でさ、鳴らないようにしたわけよ」
ゲッ、ゲゲゲーー!
そ、そ、そんな~!
いつから日本人は、そんなに了見が狭くなっちまったんですか!?
音の鳴らない風鈴だ?
聞くところによれば、盆踊りや花火大会にも 「うるさい!」 とクレームを入れる人が増えているんですってね。
ああ、江戸の庶民が聞いたら未来を嘆くぜ!
「はい、お疲れさま」
「カンパイ!」
カウンター席から表通りを眺めると、白いのれんの横で、ゆらゆらと赤い風鈴が風に揺れています。
聴こえます、聴こえますって。
ジッと耳を凝らしていると、ほらね。
チリン、チリン……チリン、チリチリン……
世知辛い時代になりました。
Posted by 小暮 淳 at 12:23│Comments(0)
│酔眼日記