2021年10月22日
湯守の女房 (35) 「小さくても都会ではかなわない夢が見られる場所」
四万温泉 「なかざわ旅館」 中之条町
四万(しま)温泉は、エメラルドグリーンの水面をたたえる四万川沿いに宿が連なる。
5地区に分かれ、温泉街のある中心地が新湯(あらゆ)地区。
みやげ物屋や飲食店、カフェが並ぶ目抜き通りを見下ろす高台に、わずか7部屋の 「平成の旅籠(はたご) なかざわ旅館」 が立つ。
「これからは小さくてもプライバシーが保て、人とのぬくもりも感じられる宿が求められるはずです」
と2代目女将の中沢まち子さん。
高度成長期やバブル経済期は大きな旅館やホテルが人気で、小さな宿はどこもコンプレックスがあったという。
平成7(1995)年、全面改装を機に、宿名に “平成の旅籠” を冠した。
「温故知新といいます。昔と今の良い所を併せ持った宿でありたいと名付けました」
と話す。
昭和48(1973)年、東武バスの運転手だった父の孫市さんと看護師をしていた母の千世子さんが、四万温泉の老舗旅館 「積善館」 の当時の女将から勧められ、自宅を改築して 「民宿なかざわ」 を始めた。
女将は2人姉妹の長女。
「私も妹も小さい頃から家業を手伝っていました。大人になったら、私が宿を継ぐものだと思っていました」
経営がわかる女将になろうと、短大の経営学科に進んだ。
帰郷後は経理を実地で学ぶため、中之条町の税理士事務に就職した。
昭和59(1984)年、学生時代から交際を続けていた東吾妻町出身の浩さんと結婚。
出産を機に退職し、実家の宿を継いだ。
四万温泉の魅力について、こう話す。
「奥深い山に囲まれた小さな世界だからこそ、お客さま一人ひとりの個性を受け止め、その可能性を引き出してくれる。小さくても都会ではかなわない夢が見られる場所。それが四万です」
商店主や旅館の女将ら約20人でつくる四万温泉協会の 「地域づくり委員会」 の委員長を務める。
名勝 「摩耶の滝」 の散策路の清掃活動や空き店舗の活用、温泉街活性化のための飲食店スタンプラリー 「和洋スイーツめぐり」、四万温泉のテレビや映画のロケ地などを案内する 「四万温泉ガイド」 などを企画してきた。
短大時代に経営学の講義で学んだ言葉 『弱点は戦略になる』 をいつも思い出す。
「山奥の温泉地、わずか7部屋の小さな旅館。でも、それがうちの最大の魅力だと思います」
そう言って陽気に笑う女将は、生粋の “四万っ子” だ。
<2012年11月28日付>
Posted by 小暮 淳 at 10:16│Comments(0)
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