2022年04月01日
西上州の薬湯 (12) 「万華鏡のように色を変える摩訶不思議な湯」
鳩ノ湯温泉 「三鳩樓」 東吾妻町
湯の歴史は古く、寛保年間(1741~44)と伝わる。
その昔、傷ついたハトが岩間に湧き出る湯に身を浸し、傷を癒やしていた。
それを見て、温泉の効能を知った村人が 「鳩ノ湯」 と名付けたという。
寛政5(1793)年、一人の行者が湯小屋を建て、営業を始めた。
「草津入湯のただれ一夜、二夜にして歩行自由になること神妙のごとし」
といわれ、江戸と信州を結ぶ裏街道にある奥上州の素朴な湯治場として栄えてきた。
≪鳩に三枝(さんし)の礼あり 烏に反哺(はんぽ)の孝あり≫
子バトは親バトより3本下の枝に止まるという礼をわきまえ、カラスは親に養ってもらった恩に報いるために、大人になってからは歳をとった親ガラスの口にエサを含ませてやるという。
宿名の 「三鳩樓(さんきゅうろう)」 は、礼儀と孝行を重んじる教え 「三枝の礼」 に由来する。
「あまりに歴史が古過ぎて、自分が何代目かは不明なんです」
と、現主人の轟徳三さん。
現在の宿は、明治時代に建てられたものを大正、昭和と増改築しながら代々の楼主が守り継いできた。
浴場へは、本館から板張りの床をきしませながら長い渡り廊下を下る。
浴槽に満たされた茶褐色のにごり湯には、黒い炭のようなかたまりや黄褐色の析出物が、無数に浮遊している。
ところが一夜明けると、湯は鮮やかなカーキ色に変色していた。
「白くなったり、青くなつたり、黄色くなったり、季節や天候によって、毎日変わる。まれに無色透明になることもあるんだよ」
と主人。
「これが自然の温泉の色だよ」 とも言った。
時々、にごった湯を見て 「汚れている」 「掃除をしていない」 と言う若い女性客がいるという。
「本物の温泉を知らないんだね」 と笑った。
館内の浴槽を全部清掃するには、毎日4時間の労力を要する。
含有する鉱物が付着して目詰まりをするため、2ヶ月に1回は給湯パイプの掃除も欠かせない。
今は都会でも、手軽に温泉が楽しめる日帰り入浴施設が数多くある。
湯を循環ろ過しながら塩素消毒をしている浴槽には、沈殿物もにごりもない。
でも、湯に手を加えずに本物の温泉をそのまま大切に守ろうとすれば、手間はかかる。
“湯守(ゆもり)” のいる宿とは、そういうものである。
<2017年11月3日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:08│Comments(2)
│西上州の薬湯
この記事へのコメント
大好きな温泉です。ご主人の人柄も、自分にはここち良いです。一人でゆっくり温泉三昧したいときに行きたい温泉です。
小暮先生のブログ読んだら、行きたくなっちゃいました。GWまでに行きたいな。
小暮先生のブログ読んだら、行きたくなっちゃいました。GWまでに行きたいな。
Posted by センネンボク at 2022年04月02日 22:31
センネンボクさんへ
いい宿だと思います。
ご主人の湯守としての信念を貫いている姿にも敬服します。
湯舟に入る時と出る時、浴客が自ら木の蓋を開け閉めするのが、いいですね。
湯を大切にする湯守の心が伝わってきます。
いい宿だと思います。
ご主人の湯守としての信念を貫いている姿にも敬服します。
湯舟に入る時と出る時、浴客が自ら木の蓋を開け閉めするのが、いいですね。
湯を大切にする湯守の心が伝わってきます。
Posted by 小暮 淳
at 2022年04月03日 10:37
