2022年06月04日
ぐんま湯けむり浪漫 (9) 鳩ノ湯温泉
このカテゴリーでは、2017年5月~2020年4月まで 「グラフぐんま」 (企画/群馬県 編集・発行/上毛新聞社) に連載された 『温泉ライター小暮淳のぐんま湯けむり浪漫』(全27話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
鳩ノ湯温泉 (東吾妻町)
傷ついたハトが教えた湯の効能
東吾妻町には2つの温泉郷があり、現在、4軒の温泉宿が営業している。
鳩ノ湯温泉は、浅間隠(あさまかくし)温泉郷にある一軒宿。
近くを通る草津街道 (国道406号) は、昔から江戸と信州を結ぶ裏街道として多くの旅人たちに利用され、鳩ノ湯は 『草津入湯のただれには、一夜二夜にして歩行自由になること神妙のごとし』 といわれるほど、奥上州の素朴な湯治場として親しまれてきた。
湯の歴史は古く、寛保年間 (1741~44) に旅の行者により発見されたと伝わる。
当時は集落にある寺の持ち物で、上の薬師温泉は 「上の湯」、下の鳩ノ湯は 「下の湯」 と呼ばれ、村人たちの沐浴(もくよく)の場として開放されていた。
また、こんな伝説もある。
その昔、傷ついたハトが岩間に湧き出る湯に身を浸し、傷を癒やしていた。
それを見て、効能を知った村人が 「鳩ノ湯」 と名付けたという。
《鳩に三枝(さんし)の礼あり 烏に反哺(はんぽ)の孝あり》
子バトは親バトより3本下の枝に止まるという礼をわきまえ、カラスは親に養ってもらった恩に報いるために、大人になってからは歳をとった親ガラスの口にエサを含ませてやるという。
宿名の 「三鳩樓(さんきゅうろう)」 は、この礼儀と孝行を重んじる教え 「三枝の礼」 に由来する。
ごまかしのない本物の温泉
「たぶん14代目か15代目だと思うんだけど、歴史が古過ぎて本当のところは分からないんだよ」
と、現主人の轟徳三さんが囲炉裏の前で茶をすすりながら話す。
玄関ロビーでは、古い柱時計が時を刻む。
年代物の使い込まれた箪笥(たんす)が黒く光を放ち、『三鳩樓帳場』 と書かれた文字看板が掛かり、江戸時代より栄えて来た湯治宿の面影を今に伝えている。
轟さんは昭和の終わりに脱サラをして、宿の経営を引き継いだ。
あれから30年、バブル前の不景気と、バブル全盛の繁忙期を経験した。
秘湯ブームも去り、真の温泉宿の価値が問われる時代がやって来たという。
「今うちに来ている客は、湯を知っている人たちだよ。本物の温泉を求めているんだね」
本館から板張りの床をきしませながら、長い渡り廊下を下る。
源泉は浴室直下の温川(ぬるがわ)のほとりから湧いている。
浴槽には、ごまかしのない上質な湯が、加水も加温もされず、惜しみなくかけ流されている。
「不思議な湯でね。白くなったり、青くなったり、黄色くなったり、毎日色が変わるんだ。まれに透き通ることもある」
と主人。
季節や天候、時間帯によって色を変える “変わり湯” である。
私が最初に泊まった晩は、茶褐色のにごり湯だった。
一夜明けると鮮やかなカーキ色に変わっていて、驚いたことを覚えている。
さて、今日の湯は?
古沼のような深い緑褐色の湯をたたえていた。
たぶん光の加減なのだろう。
湯の中に沈むと、茶色や黒色の無数の析出物が漂っているのが分かる。
訪ねるたびに色を変える、まるで万華鏡のような湯である。
<2018年4月号>
Posted by 小暮 淳 at 11:15│Comments(2)
│湯けむり浪漫
この記事へのコメント
万華鏡のような湯♨️
そのような表現を出来るようになりたいです(^-^)v
そのような表現を出来るようになりたいです(^-^)v
Posted by みわっち at 2022年06月06日 23:03
みわっちさん
群馬は “温泉の百貨店”。
そんな表現を使ったこともありました。
温度も泉質も色も浴感も千差万別、多種多様。
だから温泉って面白いんですよね!(^_-)-☆
群馬は “温泉の百貨店”。
そんな表現を使ったこともありました。
温度も泉質も色も浴感も千差万別、多種多様。
だから温泉って面白いんですよね!(^_-)-☆
Posted by 小暮 淳
at 2022年06月07日 10:50
