2022年09月04日
イワシの頭
テレビなどで、なにかと宗教のことが話題になっています。
正確には、悪質な商法などを行う宗教団体ですが……
僕のオヤジは、大の宗教嫌いでした。
なのにオフクロは、某宗教に入信していました。
なぜ、オヤジは止めかったのか?
なぜ、オヤジは許していたのか?
長年の謎でした。
謎が解明されたのは、長きにわたる両親の介護生活でした。
オヤジは最後まで何も言いませんでしたが、オフクロは 「お父さんには感謝しています」 と言いながら、入信のいきさつを話してくれたことがありました。
きっかけは、僕が産まれて間もない頃だったといいますから、昭和30年代の中頃です。
オフクロは、医者から乳がんの宣告をされました。
当時は今のように温存手術は選択肢にはなく、全摘手術を受けました。
子ども心に、「なぜ、うちのかあちゃんは、オッパイが片方しか無いんだろう?」 と、不思議に思っていた記憶があります。
今思えば、オフクロは、まだ30代前半だったんですね。
「生きる力が、無くなっちゃったのよ」
晩年のオフクロの言葉です。
その生きる力のよりどころとして、当時、知人から紹介されたのが宗教だったといいます。
「信じる力に救われた」
のだと言います。
でも、オヤジはオフクロと違って、自信の塊のような人。
フロンティア精神旺盛で、自ら人生を切り開くタイプです。
しかも、唯我独尊。
自分の信じるものしか信じない、ヘンクツ親父です。
おまけに根っからの宗教嫌いですから、当然、オフクロの入信を許すわけがありません。
「オヤジは反対しなかったの?」
「したわよ。猛反対! 『お前は俺が守る』 って」
オヤジの気持ちも分かります。
自分より宗教を頼ったオフクロを、許せなかったのかもしれませんね。
「でも、お願いしたの。『私を助けると思って』 って、頼んだのよ」
「そしたらオヤジ、OKしたの?」
「承知はしなかったわよ。ただ、『勝手にしろ! ただし』 ……」
「ただし?」
「そう、『ただし家族を巻き込むな』 って。『もし巻き込んだら離婚する』 ってね」
「それで入信したんだ?」
「だって、あの時は、ワラにもすがる思いだったから……」
その後も、“病気のデパート” と周りから揶揄(やゆ)されるほど、次から次へとオフクロを病魔が襲いました。
子宮がん、脳梗塞、脳出血……
それでも91歳の天命をまっとうすることができたのは、宗教のおかげだったようです。
今、なにかと話題の宗教ですが、信じることにより命と生きる勇気をオフクロに与えてくれた宗教の力に、感謝しています。
“鰯の頭も信心から”
信じる者は救われるということです。
「病気と寿命は別物だからね」
晩年、寝たきりのベッドの上で笑ったオフクロの言葉が、忘れられません。
南無阿弥陀仏
Posted by 小暮 淳 at 12:30│Comments(0)
│つれづれ