2022年12月25日
ブラボー! ~文人かくありき~
腹から語り、腹から笑い、心底酔いしれた夜でした。
つくづく、酒は吞む相手によって、味が変わることを思い知らされた夜でした。
先日、早朝より東京方面より先輩作家が来県。
ともに県内某所を視察、取材して、最寄りの駅まで送り届けた時のことでした。
いつもなら、ここで、あいさつをして、改札口で見送るのですが、この日に限って先輩は違いました。
「中途半端な時間ですね」
時計を見れば、午後3時を少し回ったところです。
先輩の言葉に、のん兵衛の勘は、すぐに反応しました。
「軽く一杯、いかがですか?」
先輩も、その言葉を待っていたようで、そのまま2人はきびすを返し、駅舎を出ました。
でも、時間が早すぎます。
駅前の居酒屋へ行っても、「4時からです」 と門前払い。
「では僕の行きつけの店を訊いてみましょうか?」
と電話を入れてみるも、こんな時に限ってママは出ません。
「あそこの店、やってるんじゃない?」
と先輩が指さす先には、真昼間からネオンがチラチラ光り輝いています。
行ってみると案の定、オープンしていました。
「お疲れ様です」
「乾杯!」
「こうやって2人だけで呑むのは、初めてですよね?」
「だね」
「ありがとうございます。とても光栄です」
僕と先輩は、かれこれ7年の付き合いになります。
テレビ番組の制作を縁に知り合いました。
先輩は、いわゆる “放送作家” なのであります。
昔で言えば “ペン一本” で生きてきた、正真正銘の文人であります。
文章だけで生きていくことが、どんなに大変なことかは、僕が身に染みて知っています。
そんな先輩の 「なぜ作家になったか?」 に興味津々の僕は、矢継ぎ早に質問攻めとなりました。
失敗のエピソードや独立してからのこと。
バブル期の今では考えられない待遇など。
もう、腹を抱えて笑ったり、考えさせられたり。
楽しすぎて、「このまま時が止まってくれたらいいのに」 と、恋心に似た思いを抱くほどでした。
気が付けば、生ビールのジョッキが1杯、2杯……
日本酒のコップが1杯、2杯……
「こんなんじゃ、らちがあきませんね。ボトルを入れましょう!」
と、のん兵衛とのん兵衛の先輩は、何十年来の同志のように、ヒートアップしていったのでした。
「結局さ、人生は何をしたかではなく、どう生きたかなんだよね」
先輩の言葉は、昔、オヤジが僕に教えてくれた人生訓と、まったく同じものでした。
「何かをしたい、何かを残したいという作品主義の人は、プロにしろアマチュアにしろ大勢いるけど、“生きる” っていうことは別で、全然違うよね」
ズズズシーン! と心の底に響きました。
やっぱ、“ペン一本” で生きてきた人の言葉は、重いですね。
4時間にわたる永い永い熱弁合戦を終え、すがすがしい気分で駅へと向かいました。
北風に落ち葉が舞う歩道で、僕は立ち止まり、改めてお礼をいいました。
「今日は、本当に貴重な話をありがとうございました。先輩!」
すると、先輩は言いました。
「先輩はやめてくれ、“さん” でいいよ。いや、呼び捨てでいい! よっぽど小暮さんのほうが作品を世に残しているんだから」
「何をしたかではなく、どう生きたかですよね?」
「だったな!」
そういうと先輩は、ひと言 「ブラボー!」 と叫び、人ごみの中で僕を強く抱きしめてくれました。
「文筆を生業にする者は、こうあれ」
というメッセージに満ちあふれた、温かくて心にしみる 「ブラボー!」 でした。
Posted by 小暮 淳 at 13:04│Comments(2)
│酔眼日記
この記事へのコメント
素晴らしいですね!情景がひしひしと伝わってきます。
Posted by タカトシ at 2022年12月27日 16:23
タカトシさんへ
脳天をバットで殴打されたような、衝撃的な一夜でした。
いくつになっても、人生の師は必要ですね。
脳天をバットで殴打されたような、衝撃的な一夜でした。
いくつになっても、人生の師は必要ですね。
Posted by 小暮 淳 at 2022年12月28日 00:19