2023年08月14日
しばらく僕は彼女に会っていない
かつて僕は一度だけ、人間以外の “女性” に恋をしたことがあります。
今年の夏は、いつもの夏よりも猛暑が厳しくて、心配していました。
それでも “彼女” は人知れず木漏れ日を受けながら、可憐な花を咲かせていました。
別名 「森の妖精」。
“彼女” を表現するのにピッタリの呼称です。
僕が “彼女” に初めて会ったのは、もう30年以上も昔のことです。
季節は夏、西上州の山でした。
木々が生い茂る登山道の脇で、ひっそりと咲いていました。
“彼女” の名は、レンゲショウマ。
漢字では、蓮華升麻と書きます。
日本特産の1属1種の花。
キンポウゲ科レンゲショウマ属の多年草。
花が蓮、葉がサラシナショウマに似ていることから名づけられたといいます。
身長は80㎝ほどあり、スタイルは抜群です。
そこに直径4㎝ほどの薄紫色の花を咲かせます。
といっても全体が薄紫色なのではなく、純白の花びらの中心部分だけが紫色なのです。
まるで、うつむきながら頬を染めている貴婦人のよう……
僕は一瞬にして、恋に落ちてしまいました。
8月に入り、新聞の地方版などで “彼女” の開花を知らせる記事を見かけるようになりました。
「元気なんだ!」
と嬉しい気持ち半分、
「でも本当の “彼女” の姿じゃない……」
と、ちょっぴり寂しい気持ちにもなります。
だって、新聞に掲載されている “彼女” の写真は、すべて偽りの姿だからです。
人の手により植栽された公園内でのポートレートなのです。
以前、レンゲショウマを育てているという知人の家を訪ねたことがありました。
でも、そこにいたのは “彼女” ではありませんでした。
“彼女” によく似た別人だったのです。
背丈が違う、顔色が違う……
何より、品格が違い過ぎました。
やはり “彼女” は、人里では美しく咲けないのです。
標高1,000m以上の山の中でこそ、本来の美しさを見せるのです。
最後に “彼女” に会ったのは、いつだっただろうか?
10年前? いや15年前だろうか?
しばらく僕は、彼女に会っていません。
Posted by 小暮 淳 at 12:24│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
レンゲショウマ、清楚でいいですよね。
小暮さんと一緒で私にもも数十年前に出会って、今も心を寄せている女性がいます。
夏山の雪渓で会ったチングルマです。
健気でかわいいのです。
小暮さんと一緒で私にもも数十年前に出会って、今も心を寄せている女性がいます。
夏山の雪渓で会ったチングルマです。
健気でかわいいのです。
Posted by T課長 at 2023年08月14日 14:54
T課長さんへ
チングルマ、僕も尾瀬で会ったことがあります。
でも花でなく、すでに綿毛だった記憶があります。
誰にも忘れられない一輪の花の思い出というものがあるものですね。
チングルマ、僕も尾瀬で会ったことがあります。
でも花でなく、すでに綿毛だった記憶があります。
誰にも忘れられない一輪の花の思い出というものがあるものですね。
Posted by 小暮 淳
at 2023年08月14日 23:46
