2023年10月31日
死者に会える場所
「先生のお父様の知り合いだという人が見えてます」
昨日、高崎市の講演会場の控え室で、出番の準備をしていると、主催者が僕を呼びに来ました。
「オヤジの知り合い?」
「ええ、Aさんという方で、なんでも生前に大変お世話になったとかで、先生にごあいさつしたいと」
講演開始までには、まだ10分以上あります。
そーっと会場をのぞくと、すでに用意されたイスは満席でした。
本来、開演前に会場へ入ることはないのですが、オヤジの知り合いとなれば、ごあいさつをしないわけにはいきません。
「どの方でしょうか?」
「えーと、ですね。ああ、あの右通路の後ろから3番目の女性です」
僕は他の受講者たちに講師だと気づかれないように、そーっと、女性に近づきました。
「Aさんですか?」
肩越しに、声をかけました。
一瞬、その高齢の女性は驚いたようですが、すぐに笑顔になり、
「目元が、お父さんに、そっくりですね。お会いしたくて来ました」
聞けば、この女性も日本野鳥の会の会員だといいます。
オヤジは生前、この会の群馬県支部前橋分会長をしていました。
僕も子どもの頃からオヤジに連れられて、よく探鳥会に参加していましたから、なんとなくですが、Aさんの名前は覚えていました。
「確か、いつもご主人と一緒でしたよね?」
「ええ、本当は主人が来たがっていたんですけど、用事があって来られませんもので、私が代わりに来ました。とっても先生に会いたがっていました」
といっても、僕が小学生の頃ですから半世紀以上も昔の話です。
それから僕は2時間の講演を終え、また控え室に戻りました。
主催者たちと雑談をしていると、Aさんが、またあいさつに現れました。
「お話が大変お上手で、話し方が、お父さんそっくりでした」
オヤジも晩年は、県内の公民館や小学校をまわり、「野鳥のおじさん」 として講演活動をしていたのです。
「なんだか小暮さんにお会いしているようで、うれしくなりました。ありがとうございます」
と、丁寧にお辞儀をすると、部屋を出て行きました。
講演は、オヤジに会える場所……
実は、これが初めてではありません。
以前も、講演終了後に高齢の男性が現れ、
「生前、お父様に世話になったものです。ぜひ、お墓参りをしたいので、場所を教えてください」
と、声をかけられたことがあります。
この男性は、息子である僕の講演会に行けば、オヤジの墓地を聞き出せると思ったようです。
オヤジが亡くなって4年半が経ちます。
それでも、こうやってオヤジのことを忘れずに、会いに来てくれる人たちがいます。
オヤジ、オヤジって、人望が厚いじゃん!
金も名も残さなかったけど、徳は残したよな!
ありがとう、オヤジ。
こうやって、オヤジの面影に会いに、わざわざ息子の講演を聴きに来てくれる人たちがいるんだよ。
うれしいね。
Posted by 小暮 淳 at 10:54│Comments(0)
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