2024年03月28日
浴室に浮かぶキツネの姿
猿ヶ京温泉 (みなかみ町) には、こんな民話があります。
<昔、旅の夫婦が大きな空き家に、一夜の宿を借りてから、そこに男の子が現れるようになりました。奥さんが、その男の子と遊んであげると、男の子は 「奥の座敷の床下を掘ってください」 と言いました。言われたとおり夫婦が掘ってみると、なんとそこには、大判小判の入った金瓶が埋まっていました。その後、夫婦はその家で暮らすようになり、座敷わらしに似た可愛い男の子をもうけ、末永く幸せに暮しました。>
(『座敷わらしの家』 より)
僕は2018年に 『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん) という著書を出版しました。
この本は、高崎市のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 の2007~18年に連載されたシリーズに加筆・訂正を加えたものです。
出版後、しばらくシリーズは休載していましたが、昨年12月より 『続・民話と伝説の舞台』 として、不定期ながら連載が再開しました。
ということで、新シリーズの取材で猿ヶ京温泉へ行ってきました。
訊ねたのは、民話に登場する夫婦から数えて19代目になるという子孫が経営する旅館です。
今でも旅館には、宿泊客から座敷わらしの目撃話が多く寄せられています。
「これを見てください」
取材開始早々、ご主人は何冊ものノートを持ってきました。
“自由画帳”
このノートには、宿泊客が書いたたくさんの感想が残されています。
当然、座敷わらしの目撃例も。
男の子を見た。女の子を見た。羽の生えている子もいた……
しばらくは、ご主人と座敷わらし談議で盛り上がっていました。
すると突然、
「あっそうだ! こんな書き込みもあるんですよ」
と、ご主人は一番新しいノートを開きました。
日付は、今年の1月です。
<浴室の窓にキツネが現れました>
若い女性のようで、イラストも描かれています。
大きな窓の中に立っている、鼻と耳がとがったキツネの絵です。
「で、これを見てください!」
ご主人は、タブレットを差し出しました。
「この書き込みを見て、すぐに浴室へ行ったんですよ。そしたらキツネの姿が、残っていたんです」
タブレットの画面には、女湯の内風呂から外を写した写真が、数点ありました。
「ほら、これ! キツネでしょう!」
一瞬、僕の背中に、冷たいものが通り抜けました。
まさに、ノートに書かれていたイラストそのものでした。
内風呂と露天風呂の間にある大きなサッシ窓。
外気との温度差により、内側は結露して無数の水滴が付いています。
その水滴が、見事にキツネの姿を描いているのです。
「本当ですね。これは誰が見てもキツネに見えます」
「でしょう! 見に行きますか?」
「えっ、いつでも見られるんですか?」
「わかりません。今日は休館日で湯を張ってないから、出ないかもしれませんけど……」
ご主人に案内されて、浴室へ。
でも、やはりキツネの姿はありませんでした。
座敷わらしとキツネ
なにか関係があるのでしょうか?
謎学の旅は、つづく。
Posted by 小暮 淳 at 10:18│Comments(0)
│謎学の旅