2024年03月31日
うらやましき副業
「小暮さんは、増刷ありますか?」
「うん、3冊かな」
「いいなぁ~、僕はまだ1冊もないんですよ」
過日、ある会合で、東京在住の作家と同席しました。
彼は、まだ50代前半。
でも作家歴は長く、すでに20冊を超える著書を世に出しています。
ただ話を聞くと、かなりマニアックなオタク系の本ばかりです。
失礼ながら、僕も彼の名前は知りませんでした。
酒の力も借りて、僕らは互いの活動について、さらに深く語り合い出しました。
いわゆる執筆活動についてです。
彼は近々、また新刊が出るといいます。
「でもね、なかなか食えないんですよ」
「そんな~、そんだけ本を出していて?」
「増刷のない、初版消えの物書きですからね」
少し間が空いて、彼がポツリと言いました。
「だから副業をしているんです」
「副業?」
「ええ、週3日だけ」
週3日の副業って、何だろう?
僕の脳裏には、手軽にできるコンビニや宅配便のバイトが浮かびました。
「作家を続けるって、大変なんだな~」
と思っていると、彼の口から驚くべき事実が告げられました。
「ええ、医者やってるんです」
「い、い、いしゃ~!?」
「はい」
後日、僕は彼の名前をネットで検索しました。
すると大量の著作品が表示されました。
また確かに、プロフィール欄には 「医者」 の記述もありました。
今度は、医者としての彼を検索してみました。
すると……
ギェ、ギェギェギェーーーーーッ!!!!
なんと、そこには 「○○クリニック 院長」 の文字が!
○○は、彼の名字です。
これが、副業ですか?
生まれて初めて僕は、医者が副業の人と会いました。
でもね、彼にとって、もっとも情熱を注ぎ続けられる仕事が、本業だということなんですね。
「新刊が出たら送りますね」
一夜明けた翌朝、見送る彼に僕も手を振りました。
「楽しみにしているよ」
なんとも気持ちのいい、さわやかな男でした。
Posted by 小暮 淳 at 11:08│Comments(0)
│つれづれ