2024年05月15日
文豪たちの酒宴
<なんとも酒は、魔物である> 太宰治
以前、自分は活字中毒患者であり、かつアルコール依存症予備軍であることを告白しました。
(2024年5月2日 「中毒と依存症」 参照)
ゆえに、この世で一番の至福は、この2つが同時に満たされた時。
そう、酒を呑みながら本を読んでいる時にほかなりません。
もし、その時読んでいる本が、“酒” の本ならば……
さらなる極上のひと時となります。
僕は 「ぐんまの地酒大使」 を委嘱されている都合上、酒の本は読みます。
でも、それらは蔵元や醸造、銘柄に関する資料です。
いうなれば、これは読書ではなく、仕事の一環であります。
残念ながら、至福の境地には至りません。
読み物としての “酒” はないものか?
と探していたら、ありました!
これぞ、極みであります。
『文豪たちが書いた 酒の名作短編集』 彩図社文芸部 編 (彩図社)
坂口安吾、夢野久作、小川未明、林芙美子、岡本かな子、芥川龍之介、福沢諭吉、宮沢賢治、太宰治……
名だたる文豪たちの酒にまつわるエッセイや短編集が掲載されています。
まあ、みなさん、よく呑みます。
やはり文豪と呼ばれる人たちは、凡人とは酒の呑み方までもが一味も二味も違います。
読んでいて、酒のみならではの文章に出合え、惚れ惚れとしました。
太宰治のエッセイも2編、収録されています。
とても興味深い話なので、一部を紹介します。
<「新宿の秋田(※1)、ご存じでしょう! あそこでね、今夜、さいごのサーヴィスがあるそうです。まいりましょう」>
<その前夜、東京に夜間の焼夷弾(しょういだん)の大空襲があって、丸山君(※2)は、忠臣蔵の討入のような、ものものしい刺子(さしこ)の火事場装束で、私を誘いに来た。ちょうどその時、伊馬春部(※3)君も、これが最後かも知れぬと拙宅へ鉄かぶとを背負って遊びにやって来ていて、私と伊馬君は、それは耳よりの話、といさみ立って丸山君のお伴をした。> (『酒の追憶』 より)
※1 新宿にある呑み屋
※2 丸山定夫 大正~昭和の俳優
※3 劇作家、放送作家
いやいや、凄いでしょう!
大空襲の翌日に、戦火をくぐりぬけて、酒を呑みに行くんです。
その酒呑み根性が、文豪が文豪たるゆえんなんでしょうな。
嫉妬しながら、酒のピッチを上げながら、読みふけってしまいました。
他にも、福沢諭吉のらしからぬ酒のエピソード、宮沢賢治の摩訶不思議な酒の話など、珠玉の短編集です。
Posted by 小暮 淳 at 12:11│Comments(0)
│読書一昧