2025年01月29日
Pちゃんの汁だくおでん
僕はときどき、近所のコンビニに、おでんを買いに行きます。
いや、買いに行くようになってしまったのです。
それも決まって、土曜日か日曜日。
なんで?
それには、こんな理由(わけ)があります。
昨年暮れの、ある日曜日のこと。
コンビニに入り、レジの前を通過しようとしたときでした。
「おでんですか?」
と、片言の日本語で声をかけられました。
見ると、外国人女性のアルバイト店員でした。
「えっ? ああ、帰りに買うね」
と応えると、満面の笑みで 「ハイ」 と言いました。
彼女は以前、僕がおでんを買ったことを覚えていたんですね。
でも、この日は、おでんを買うためにコンビニに寄ったわけではありません。
でも、彼女の笑顔が、あまりにもキュートだったので、結局、買ってしまいました。
帰り際に、僕は声をかけました。
「よいお年を」
すると彼女は、キョトンとした顔をしました。
「よい……お、と、し?」
彼女のまだ知らない日本語だったようです。
だから僕は教えてあげました。
「年が明けて新しい年がきたら、『あけましておめでとうございます』。でも、年が明ける前は 『よいお年を』 って言うんだよ」
すると彼女は、何度も 「よいお年を」 をくり返し唱え始めました。
「ありがとうございます。勉強になりました」
やはり、素敵な笑顔が返ってきました。
年が明けてからも、そのコンビニには何度か立ち寄りましたが、彼女の姿はありませんでした。
今思えば、平日だったのですね。
そして、とある日曜日の夜。
彼女がいました。
僕を見るなり、こう言いました。
「おでん?」
「うん」
即答しました。
「今日もお酒呑むの?」
「よく覚えているね。そう、おでんで一杯やるのが楽しみなんだよ」
「・・・」
「あなたはお酒吞まないの?」
「少し、ときどきね」
そして彼女は、こんなことも言いました。
「おでん、好きね」
「ああ、ここのおでんは、おいしいもの」
「おいしいの?」
「あれ、食べたことのないの?」
「ない」
「なんで、おいしいのに?」
「・・・」
おでんの具をトングでつかみながら、彼女は黙ってしまいました。
「国は、どこ?」
「ネパールです」
「ネパールには、おでんはないか?」
「はい」
「今度食べてごらんよ、おいしいから」
「・・・」
そのとき、彼女は土曜日と日曜日のみバイトに入っていることを知りました。
なので、それから僕は土日になると、おでんを買いにコンビニに足が向くようになってしまいました。
彼女の笑顔が見たいから?
いえいえ、おでんと日本酒で一杯やりたいからに決まっているじゃありませんか!(本当です)
先週の土曜日、僕はまたコンビニにおでんを買いに行きました。
何も言わなくても彼女は、大根と玉子とこんにゃくとちくわを器に入れてくれました。
そして、お玉で何度もすくい、汁をたっぷりと注ぎ入れました。
それと、からしが2つ。
う~ん、分かってるっ!
いつしか、僕と彼女は以心伝心の仲になっていたのです。
PS
ちなみに彼女の名前は、「P」 ちゃんです。
名札に、そう書いてありました。
Posted by 小暮 淳 at 11:28│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
一編のテレビドラマになりそうですね。
星新一のボッコちゃんのような……
いやいや違うな、
笠智衆(古すぎるか)、
あるいは宇野重吉と若い娘の小さなお話を撮りたいですね。
何でもない、他愛のない物語。
じいちゃん役ですね!
星新一のボッコちゃんのような……
いやいや違うな、
笠智衆(古すぎるか)、
あるいは宇野重吉と若い娘の小さなお話を撮りたいですね。
何でもない、他愛のない物語。
じいちゃん役ですね!
Posted by T課長 at 2025年01月29日 12:29
T課長さんへ
緒形拳でお願いします(笑)
無理なら志村喬で、黒澤映画風にね。
緒形拳でお願いします(笑)
無理なら志村喬で、黒澤映画風にね。
Posted by 小暮 淳
at 2025年01月29日 18:41
