2025年03月07日
生涯画家
<久保繁はデザイナーでもあるが、画家でもある。彼の父親は名のある洋画家である。父親が情熱的な極彩色で天衣無縫な生きざまをキャンバスにぶつける画家であるならば、彼の絵は 「動」 を 「静」 の中に包み込む淡彩の世界である。>
(拙著 『ヨー!サイゴン』 より)
昨年秋から変形性関節症を患い、整形外科クリニックに通院しています。
ある時、待合室の壁に、見慣れたタッチの絵が飾ってあることに気づきました。
それも1点ではなく、何点も……。
診察室へ続く廊下の壁にも、展示されていました。
「これ、久保の絵だ!」
と思い、受付で訊いてみると、
「ちょっとお待ちください」
と看護師は、席を立ちました。
やがて、品の良い婦人が現れました。
その女性は、院長婦人でした。
「この絵は、久保繁の絵ですよね?」
「ええ、久保先生の絵が、私も主人も大好きなものですから」
それから長い立ち話が始まりました。
<久保繁は中学時代の一年間だけクラスを共にしたことのある同級生である。卒業後は別々の人生をたどり、音信もまったく途切れていた。今から三年前、偶然居酒屋で再開した。実に二十三年振りの再会であったが、その日以来、何かにつけて公私を共にする付き合いが始まった。>
(同著より)
1999年春、僕と久保はベトナムを旅をした。
目的は、個展と本の出版。
ライターとして、画家として、同じテーマで作品を制作しようという試みでした。
帰国後、僕らは2つの夢を叶えました。
そんな畏友の画家、久保繁の個展が開催中だというので、顔を出してきました。
「おう!」
「おう!」
互いに手を挙げて、まずは生存確認。
そして、互いの白髪頭を見て、笑い合いました。
まず会場に入って、驚きました。
絵がデカい!
僕には、何号という詳しいことは分かりませんが、以前のサイズとはケタ違いにサイズが大きくなっていました。
タッチも違う!
以前の漂うような水彩画ではありません。
大胆かつ、洗練された色彩に変貌していました。
「変わったな~! 油絵?」
「いや、アクリルで描いた」
「へー、心境の変化か?」
「なんだろうね、描いてて楽しいからかな」
絵については、そこまでで終わり。
すぐに近況報告に話の花が咲いた。
彼も孫ができて、おじいちゃんになったという。
めでたい、めでたい!
思えば中学の同級生だった僕らも、前期高齢者です。
定年退職した同級生の話になれば、
「俺たちには退職金なんてないもんな」
「国民年金で、しかも介護保険料引かれているし」
「ああ、お互い、死ぬまで書 (描) くしかないな」
「だね」
生涯画家、生涯ライターを誓い合って、僕は会場を後にしました。
久保繁展 RICOMINCIA 旅・色彩の記憶
●会期/2025年3月4日(火)~9日(日) 11:00~17:00
●会場/詩季画材 2Fギャラリー 前橋市南町4-47-6
●問合/詩季画材 TEL.027-224-5196
【くぼしげる】
1959年生まれ。日本大学芸術学部デザイン学科卒業。
<個展> 画廊翠巒 (前橋)、ギャラリーアートもりもと (銀座)、大塚文庫 (自由が丘)、ギャラリーg/ 鎌倉彫会館など。
Posted by 小暮 淳 at 11:16│Comments(0)
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