2025年05月06日
マンボウの島
「あっ、この風景……見たことある!」
新聞をめくる手が止まりました。
見開き2面の特集記事です。
そこには、大きくカラー写真が掲載されていました。
海を望む高台からの風景。
手前には白い鳥居が立ち、小さな漁港が見えます。
記事の見出しを見て、すぐに思い出しました。
<生誕100年 三島由紀夫の見た風景>
ここは 「神島」 です。
島の名を聞いて、ピンときた人は、かなりの文学ファンですね。
小説 『潮騒』 の舞台となった、伊勢湾に浮かぶ三重県の離島です。
名作は、たびたび映画にもなりました。
いずれも主演を務めた女優は、ビッグスターです。
吉永小百合 (1964年)
山口百恵 (1975年)
僕が、この島を訪れたのは約20年前。
まさか小説の舞台とは知らずに、船に乗りました。
(小説は読んでいましたが、作中では 「歌島」 だったので)
当時、僕はカメラマンとともに、三河湾に浮かぶ篠島という離島を取材していました。
(カテゴリー 「島人たちの唄」 参照)
時々、気分晴らしに近くの島々をめぐっていたのです。
その一つが 「神島」 でした。
小さな島でした。
名所は、小説の舞台だけ。
観光案内所には、映画のロケ写真が飾ってありました。
クライマックスの名シーン。
主人公が裸で、焚火の上を飛び越した 「監的哨跡」 を見て、宿に向かった記憶があります。
「あんたたち、運がいいね~! 網にかかったって、漁師が持ってきてくれたよ」
そう女主人が言って、夕食にマンボウの肉を出してくれました。
マンボウって、食べるんだ!?
水族館でしか見たこともない、摩訶不思議な格好をした魚をいただきました。
煮つけでしたが、そのお味は……
覚えていないくらいの味だったと思います。
まずくもなく、うまくもなく、記憶に残らない味だったようです。
マンボウを食べたのは、後にも先にも、その時だけです。
翌日、女主人に叩き起こされました。
「一番の船で帰りな! 午後から海が時化(しけ)るってよ!」
本当は、釣りでもしながら、もう少し島を楽しみたいと思っていたんですけどね。
「しばらく船は出ないかもよ」
と、せかされて、朝食を済ませると早々に港へと向かいました。
偶然、見かけた一枚の写真から、遠い日の島での出来事が一瞬にしてよみがえって来ました。
G.Wは、どこも行かなかったけど、記憶の中の離島を旅してきました。
Posted by 小暮 淳 at 11:17│Comments(2)
│取材百景
この記事へのコメント
「その火を飛び越して来い」文学全集で読みました。幼い少年には、挿絵が刺激的でした。
Posted by まいちゃ at 2025年05月07日 09:25
まいちゃさんへ
少年には、確かに刺激的なシーンでしたね。
監的哨跡は、映画の舞台そのままでしたよ。
まいちゃさんも、神島へ旅してみては、いかがですか?
三島の聖地巡礼をするのも、文学ファンならではの楽しみです。
少年には、確かに刺激的なシーンでしたね。
監的哨跡は、映画の舞台そのままでしたよ。
まいちゃさんも、神島へ旅してみては、いかがですか?
三島の聖地巡礼をするのも、文学ファンならではの楽しみです。
Posted by 小暮 淳
at 2025年05月07日 22:25
