2021年05月10日
湯守の女房 (5) 「炭酸泉には疲労物質を取り除く作用があるらしいんです」
下仁田温泉 「清流荘」 (下仁田町)
新緑に映える清流、栗山川のせせらぎ。
部屋の窓から眺めるホタルの舞い。
V字谷を染め上げる錦繍美。
綿帽子を頭にのせ首までつかる雪見風呂。
春夏秋冬、いつ訪ねても感動とやすらぎを与えてくれる。
“秘湯” の名にふさわしい一軒宿である。
車を降りて、橋を渡る。
7,000坪という広大な敷地には、池や小川が配され、本館から渡り廊下で結ばれた 「離れ家」 が7棟。
それに浴室棟と露天風呂が点在する。
玄関前には 「日本秘湯を守る会」(朝日旅行) の提灯が風に揺れていた。
「やはり秘湯ファンの方が多くみえます。全国から訪ねていらっしゃいますよ」
と2代目女将の清水恵子さん。
世情にあまり左右されず、温泉本来の楽しみを求めてやって来るという。
恵子さんは下仁田町の隣、南牧村の出身。
主人の雅人さんとは、高校の同級生だった。
卒業後は東京のホテルに勤務していたが、昭和61(1986)に結婚と同時に旅館に入った。
「大きなホテルとは勝手が違い、最初は難儀もしましたが、その分やりがいもあります。お客様が湯をほめてくださることが、何よりもうれしいですね」
泉質は全国でも珍しい大量の二酸化炭素を含む炭酸泉。
ヨーロッパでは、毛細血管を広げて血圧を下げる効果があることから 「心臓の湯」 とも言われている温泉だ。
「あまり熱を加えると炭酸が抜けてしまうので、浴槽内の温度はぬるめに設定してあります。うちは、お湯の分かるお客様が多いので、その辺は理解していただいています」
と “湯守の女房” としての心得を忘れない。
宿の裏手には散策路があり、自家農園やシカ園、キジ園、イノシシ牧場、ヤマメ池などをめぐることができる。
農園では随時20種類もの野菜が無農薬で栽培されている。
名物の 「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」 をはじめ、米以外の食材は、すべて自給自足。
完全な敷地内の “地産地食” にこだわっている。
「先代 (義父) が今でも畑仕事と家畜の世話をしています。汗だくになって働いて、毎晩、掃除をしながら温泉に入ります。炭酸泉には、疲労物質を取り除く作用があるらしいんですよ。温泉が元気の源ですね」
ヒノキ造りの内風呂と露天の岩風呂がある。
どちらも湯の中でジッとしていると、1つ2つと泡の粒が体に付き始める。
さらに刺激を求める向きには、“源泉風呂” がおすすめ。
ただし源泉の温度は約12度。
意を決して浴すれば、炭酸泉の醍醐味を堪能できる。
<2011年4月27日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:43│Comments(0)
│湯守の女房