2013年06月07日
月の女神
<ひらひらと、エメラルド色した羽を持つ蝶が、舞っていた。
蝶ではない。夜だから、蛾だ。
しかし、大きさと美しさに、息をのんだ。
その姿は、まるで森から現れた妖精のようだった。>
これは、2005年に発行された「月刊 ぷらざ」 という雑誌の9月号に掲載されたエッセーの書き出しの文章です。
この蛾(ガ) の名は、「オオミズアオ」。
チョウ目ヤママユガ科に分類される大型の蛾の一種。
日本では北海道から九州まで広く分布している。
そして、僕が最初に “彼女” と出会ったのが、8年前の夏でした。
場所は、丸沼温泉(群馬県片品村) の一軒宿 「環湖荘(かんこそう)」 に泊まった晩でした。
僕は、その夜のことをエッセーに、こう記しています。
<相変わらず外は雨である。
オオミズアオ……学名は 「月の女神」 の意味を持つ、
体長10cmもある日本では最も大きな蛾である。
森の妖精が会いに来た!
年がいもなく、そう思った。
明日は、きっと晴れるような気がした。>
会いたい
会いたい
会いたい
夏になると、毎年、そう、思い続けていた。
でも、その後、僕は “彼女” に会うことはありませんでした。
あれから8年・・・
先日の榛名湖温泉で行ったバーベキュー大会の夜のことです。
仲間がコテージに集まり、ワイワイとにぎやかに2次会の宴に酔っているときでした。
「あっ、オオミズアオ!」
僕は、突然、大声を上げました。
「えっ、何?」
と、みんな一斉に、僕が指さした窓の外に目をやりました。
でも、もう、何も見えません。
一瞬だったのです。
街灯の明かりに照らされて、青い羽が、ひらひらと舞ったような・・・
結局、その夜は、“彼女” との感動の再会はなりませんでした。
そ、し、て・・・
昨日の朝のことです。
僕はカメラマンとともに、前日から倉渕川浦温泉(高崎市倉渕町) の一軒宿、「はまゆう山荘」 に泊り込んで取材をしていました。
先にベッドを抜け出したカメラマン氏が、カーテンを開けて、こう叫んだのです。
「オオミズアオがいる!」
そう言って、すぐさまカメラのシャッターを切り出しました。
そうです。
彼は、8年前に丸沼温泉で一緒にオオミズアオに出会ったカメラマンだったのです。
僕も飛び起きて、窓辺に近づくと、確かに見まがうことなく “彼女” が、そこにたたずんでいました。
鮮やかなペパーミントグリーンの羽を広げて、朝の光の中で休んでいます。
会いたかったよ。
でも、どうして彼女は、夜のうちに森へ帰らなかったのでしょうか?
月が雲に隠されて、帰り道が分からなくなってしまったのでしょうか?
えっ? ………もしかして!
ぼ、ぼ、僕が気付くまで、森へ帰らずに、ずーっとここに居てくれたのですか?
Posted by 小暮 淳 at 17:23│Comments(2)
│温泉雑話
この記事へのコメント
なんてロマンチックな~~よかったですね・・・先生
Posted by しをちゃん at 2013年06月08日 11:22
しをちゃんへ
そうですね。ありがとうございます。
なんだか、昔の恋人に再会したような、そんなトキメキがありましたよ。
そうですね。ありがとうございます。
なんだか、昔の恋人に再会したような、そんなトキメキがありましたよ。
Posted by 小暮 at 2013年06月08日 20:33