2021年04月10日
バッタリ昔の恋人に出逢ったような面映ゆい想い
<「おい、どうなんだ! 聞いてんのか!」
その言葉に気圧されるように、思わず本音が口を突いて出てしまった。
「は、はい。俺、歌手になります」
忘れもしない。その時、職員室中に沸き起こった嘲笑の嵐を──。>
(『上毛カルテ』 「まえがき」 より)
別に、アルバムタイトルを検索したわけじゃないんです。
とある人物を探していたら偶然、なつかしい青春の残像に出合ってしまったんです。
『扉の向こうで』 Tomorrow is Another Day
20歳の時に、仲間とリリースしたインディーズのオムニバスレコードアルバムです。
ジャケットには当時のメンバー6人が、扉の向こうで、にこやかに笑っています。
僕は後列の右。
肩までかかる長い髪が、時代を象徴しています。
<前橋駅からギターを抱えて乗り込んだ、上野行きの各駅停車。この電車は、いったいどこへ行くのだろうか。夢の大きさに、すべてを預けてしまった十九の春だった。>
平成9(1997)年に出版した処女エッセイ 『上毛カルテ』(上毛新聞社) に、若き日の情熱と不安の葛藤が書かれています。
エッセイの文章は、さらに、こう続きます。
<夜間の専門学校、昼間の書店や出版社倉庫でのアルバイト、週末のぬいぐるみ劇団のエキストラ……。そのかたわらでのライブ活動や自主レーベルでのレコード作り、数々のコンテスト応募……。鳴かず飛ばずの間に、五年の月日が経っていた。>
若さとは、なんて残酷なのでしょう。
なんの自信も根拠もなく、ただひたすらに夢を追い、そして叶えようとするのです。
ジャケット写真の中では、まだ挫折を知る前の僕が笑っています。
昨日、僕は、ふとE君のことを思い出したんです。
数年前に風の便りで、すでに亡くなっていることを知りました。
ジャケットに写っている6人のうちの一人です。
あれから彼は、どんな人生を歩み、どこで、どんな人生の終焉を迎えたのだろうか?
何か手がかりでもあればと思い、数々のキーワードを打ち込みながら彼の人生を追いました。
そして分かったことは……
東京と横浜あたりを点々としていたようですが、40歳を過ぎて東北に移住し、牧場を始めたようです。
そして、病魔が彼を襲い、帰らぬ人となりました。
その牧場に、たどり着き、彼の名前で検索をしたとき、突然、パソコンの画面にレコードジャケットが映し出されたのです。
いったい誰が? 何のために?
はるか43年前の、名もなき若者たちの、レコードを……
収録曲の中には、当時僕が作詞・作曲した2曲のタイトルも、きちんと記されていました。
しばらく画面を消すことができず、ただただ見つめていました。
バッタリ昔の恋人に出逢ったような面映ゆい想いで……
Posted by 小暮 淳 at 12:01│Comments(0)
│つれづれ