2020年12月16日
温泉考座 (54) 「名は半出来、湯は上出来」
全国には約3,000もの温泉地があります。
秋田県の乳頭(にゅうとう)温泉や強首(こわくび)温泉、長野県の白骨(しらほね)温泉、岐阜県の下呂(げろ)温泉など、ユニークな名前の温泉は数ありますが、群馬県の半出来(はんでき)温泉 (嬬恋村) も、珍名温泉の上位にランキングされることでしょう。
JR吾妻線の無人駅、袋倉駅のホームに降り立つと、正面に <半出来温泉 徒歩8分> の看板があります。
坂道を下り、高架橋をくぐり抜けると、また小さな看板が立っています。
矢印と <足元にお気をつけください> の文字。
雑木林の中を吾妻川の河岸へと下りて行きます。
最後に、ゆら~り、ゆら~りと揺れる細くて長い吊り橋を渡れば、そこが半出来温泉の一軒宿 「登喜和荘」 です。
開湯は昭和48(1973)年。
地熱が高く、冬でも雪解けの早い場所があり、養鶏業を営んでいた先代が掘削したところ、温泉が湧き出したといいます。
「半出来」 とは、源泉が湧く土地の小字名。
由来には、作物が半分しか収穫できない荒れた土地だからという説がありますが、2代目主人の深井克輝さんは異を唱えます。
「“半” の字は 『ナカラ』 とも読みます。群馬の方言にも、“なかなか” とか “かなり” という意味を表す 『ナカラ』 という言葉があります。私は、かなり出来の良い土地のことだと解釈しています」
その出来の良い土地に湧いた湯は、地元の人たちに神経痛や腰痛に効く温泉として愛されてきました。
源泉の温度は約42度。
ややぬるめですが、そのぶん長湯をすることができます。
泉質は、ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉。
マグネシウムやカリウム、鉄分などのミネラルが豊富で、飲むと胃液の分泌を促す作用があることから 「胃腸の湯」 ともいわれています。
源泉の注ぎ口にコップが置いてあり、口に含むと塩味のきいた中華スープのような味がします。
炭酸を含んでいるため、湯の中でジッとしていると、体に小さな泡の粒が付き出します。
昔から泡の出る温泉は、骨の髄まで温まるといわれ珍重されてきました。
名前は半出来ですが、湯はかなり上出来な温泉です。
<2014年6月18日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:37│Comments(0)
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