2010年12月06日
マイバスに乗って
親孝行なんて、「したい、したい 」と思っていても、なかなかきっかけがないと、できないものです。
ところが、今日は、ひょんなことから、両親まとめて、親孝行をしてしまいました。
午前中、新聞社にて打ち合わせを1本済ませて、帰りに何の気なしに、実家へ顔を出しました。
「じいさーん、生きてるかー!」
これが僕のチャイム代わりの、いつもの訪問の仕方です。
すると、オフクロが出てきて、
「お前、いいところに来たよ。おとうさんが、駅を見せたいってきかないのよ」
と言います。
2人の格好を見ると、すでに外出モードです。
「駅が新しくなったから見せてやる。お店もできたから、昼飯をおごってやるって」
まぁ、みなさんは何のことか分からないでしょうが、僕には分かります。
オヤジの記憶は、前橋駅が新しくなった昭和50年代で止まっているのです。
「そーかい、そりぁ、すごいや。俺も一緒に行くよ」と僕。
「おお、そうか。前橋駅がキレイになったぞー」と父。
「お前、大丈夫なのかい? 忙しいんじゃないのかい?」と母。
「いいよ、いいよ。とーさんと散歩するなんて、久しぶりだ。行こう!」
ということで、何十年(それこそ40年くらい)ぶりに、親子3人で駅を目指して歩き出しました。
「ちょっと、待ってくださいよ。おとうさんたら、いっつもそう。私のことなんか考えないで、ずんずん行っちゃうんだから」と、オフクロがぼやくほど、オヤジは健脚です。
一見には、86歳のボケ老人には見えません。若い頃から山を登り、今でも日課の散歩を欠かさないからかもしれません。
「ほら、おとうさん、食事するお店なんてないでしょ!」と母は、駅の構内で父を責めます。
「あるかもしれないじゃないか、とーさん探してみようよ」と僕は、父の腕をとって歩き回りました。
不思議だな…といった表情で、構内をウロウロする老いた父が、なんだか幼子のようで可愛くもあります。
しばらくすると、「あった! あった!」と指さした先は、マクドナルドでした。
「おとうさん、あれ、ハンバーガーよ。若い人の食べ物。ここには食堂はないの!」
歩き疲れて腹も空いたオフクロは、イライラしながら少しきつめに父に詰め寄ります。
怒られたと思い、シュンとしてしまったオヤジ。
オヤジは自慢したかったのですよ。「俺は街のこと、こんなに知っているんだぞ」って。
でも、いつもいつも古い記憶しか出て来ないんです。
「そーだ、これから3人でバスに乗って街へ行こうよ。スズランで食事して、買い物して、またバスで帰ろう。昔、そうやって、家族で“おマチ”へ行ったじゃないか!」
僕の提案で、駅前から市内循環バスの「マイバス」に乗り込みました。
どこで降りても、どこまで乗っても一律100円です。
♪つぎはー、スズラン前、スズラン前……
「ほら、とーさん、押して押して」
♪ピンポ~ン、つぎ、停車します……
3階のレストラン街で食事をして、8階の催事会場を見て、地下の食料品売り場で買い物をして・・・
ああ、やっぱり、40年ぶりだよ。親子3人でデパートを歩くなんて。
前三デパートへ、よく行ったよね。
屋上に観覧車があって、ステージがあって、アントニオ猪木のサインをもらったよ。
レストランで、生まれて初めてカツカレーを食べた。今でもカツカレーが好きなのは、あのときの感動が忘れられないからなんだね。
でも、今日はあのときの、まったく逆だ。
僕がとーさんの手を引いている。僕がとーさんをデパートへ連れて行って、レストランで注文をしている。
「好きなもの食べな」「よく噛んでな」なんて。偉そうに……。
3人を乗せたバスが、また動き出しました。
人影まばらな、さびれた商店街の中を、ゆっくりとゆっくりと、まるで思い出を1つ1つ拾い集めるように走ります。
バスを降りると、オフクロは、すたすたと早歩きで家路を急いでいます。
「まったく、とうさんたら、いっつもそう。行きは元気なのに、帰りは疲れちゃって、歩くの遅いんだから。わたしは、先行くよ」
「ああ、俺が連れて帰るよ」
「疲れちゃったか?」
「ああ、…… どこへ行って来たんだ?」
「街だよ、おマチ!」
「何しに?」
「スズランで食事したんだよ」
「そうか、スズランでか」
「また、行こうな」
「ああ、また行こう」
マイバスに乗ってね。
ところが、今日は、ひょんなことから、両親まとめて、親孝行をしてしまいました。
午前中、新聞社にて打ち合わせを1本済ませて、帰りに何の気なしに、実家へ顔を出しました。
「じいさーん、生きてるかー!」
これが僕のチャイム代わりの、いつもの訪問の仕方です。
すると、オフクロが出てきて、
「お前、いいところに来たよ。おとうさんが、駅を見せたいってきかないのよ」
と言います。
2人の格好を見ると、すでに外出モードです。
「駅が新しくなったから見せてやる。お店もできたから、昼飯をおごってやるって」
まぁ、みなさんは何のことか分からないでしょうが、僕には分かります。
オヤジの記憶は、前橋駅が新しくなった昭和50年代で止まっているのです。
「そーかい、そりぁ、すごいや。俺も一緒に行くよ」と僕。
「おお、そうか。前橋駅がキレイになったぞー」と父。
「お前、大丈夫なのかい? 忙しいんじゃないのかい?」と母。
「いいよ、いいよ。とーさんと散歩するなんて、久しぶりだ。行こう!」
ということで、何十年(それこそ40年くらい)ぶりに、親子3人で駅を目指して歩き出しました。
「ちょっと、待ってくださいよ。おとうさんたら、いっつもそう。私のことなんか考えないで、ずんずん行っちゃうんだから」と、オフクロがぼやくほど、オヤジは健脚です。
一見には、86歳のボケ老人には見えません。若い頃から山を登り、今でも日課の散歩を欠かさないからかもしれません。
「ほら、おとうさん、食事するお店なんてないでしょ!」と母は、駅の構内で父を責めます。
「あるかもしれないじゃないか、とーさん探してみようよ」と僕は、父の腕をとって歩き回りました。
不思議だな…といった表情で、構内をウロウロする老いた父が、なんだか幼子のようで可愛くもあります。
しばらくすると、「あった! あった!」と指さした先は、マクドナルドでした。
「おとうさん、あれ、ハンバーガーよ。若い人の食べ物。ここには食堂はないの!」
歩き疲れて腹も空いたオフクロは、イライラしながら少しきつめに父に詰め寄ります。
怒られたと思い、シュンとしてしまったオヤジ。
オヤジは自慢したかったのですよ。「俺は街のこと、こんなに知っているんだぞ」って。
でも、いつもいつも古い記憶しか出て来ないんです。
「そーだ、これから3人でバスに乗って街へ行こうよ。スズランで食事して、買い物して、またバスで帰ろう。昔、そうやって、家族で“おマチ”へ行ったじゃないか!」
僕の提案で、駅前から市内循環バスの「マイバス」に乗り込みました。
どこで降りても、どこまで乗っても一律100円です。
♪つぎはー、スズラン前、スズラン前……
「ほら、とーさん、押して押して」
♪ピンポ~ン、つぎ、停車します……
3階のレストラン街で食事をして、8階の催事会場を見て、地下の食料品売り場で買い物をして・・・
ああ、やっぱり、40年ぶりだよ。親子3人でデパートを歩くなんて。
前三デパートへ、よく行ったよね。
屋上に観覧車があって、ステージがあって、アントニオ猪木のサインをもらったよ。
レストランで、生まれて初めてカツカレーを食べた。今でもカツカレーが好きなのは、あのときの感動が忘れられないからなんだね。
でも、今日はあのときの、まったく逆だ。
僕がとーさんの手を引いている。僕がとーさんをデパートへ連れて行って、レストランで注文をしている。
「好きなもの食べな」「よく噛んでな」なんて。偉そうに……。
3人を乗せたバスが、また動き出しました。
人影まばらな、さびれた商店街の中を、ゆっくりとゆっくりと、まるで思い出を1つ1つ拾い集めるように走ります。
バスを降りると、オフクロは、すたすたと早歩きで家路を急いでいます。
「まったく、とうさんたら、いっつもそう。行きは元気なのに、帰りは疲れちゃって、歩くの遅いんだから。わたしは、先行くよ」
「ああ、俺が連れて帰るよ」
「疲れちゃったか?」
「ああ、…… どこへ行って来たんだ?」
「街だよ、おマチ!」
「何しに?」
「スズランで食事したんだよ」
「そうか、スズランでか」
「また、行こうな」
「ああ、また行こう」
マイバスに乗ってね。
Posted by 小暮 淳 at 19:13│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
こんにちは、私はアロマやです。(某県内温泉ホテルで店長さんしてました。)
昨日のNHK、『朝いち』でも触れていましたが、アロマは痴呆症状を緩和改善することが、医学的にわかってきました。
香りは記憶を司る脳の海馬に働きます。
懐かしい香り、想いでの香り、心地よい香りがきっとお父様にも届くとおもいます。
昨日のNHK、『朝いち』でも触れていましたが、アロマは痴呆症状を緩和改善することが、医学的にわかってきました。
香りは記憶を司る脳の海馬に働きます。
懐かしい香り、想いでの香り、心地よい香りがきっとお父様にも届くとおもいます。
Posted by ぴー at 2010年12月07日 14:38
ぴーさんへ
いつもいつも、ありがとうございます。
僕は最近、オヤジといて思うんですよ。
赤ちゃんて、何でも覚えるじゃないですか。それは、これからの人生に必要なことだからですよね。
でも老人は、何でも忘れてしまいます。これって、残りの人生に不必要なことだからじゃないのかなって。
だって、必要なこと、大切なことは、しっかり覚えていますもの。
楽しかった思い出とか……。
いつもいつも、ありがとうございます。
僕は最近、オヤジといて思うんですよ。
赤ちゃんて、何でも覚えるじゃないですか。それは、これからの人生に必要なことだからですよね。
でも老人は、何でも忘れてしまいます。これって、残りの人生に不必要なことだからじゃないのかなって。
だって、必要なこと、大切なことは、しっかり覚えていますもの。
楽しかった思い出とか……。
Posted by 小暮 at 2010年12月08日 01:51