温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2025年03月19日

春が来た!


 健大高崎 VS 明徳義塾
 ドジャース VS カブス

 選抜高校野球大会と米大リーグ (MLB) が、同日開幕だなんて!
 しかも、高校野球は地元健大、MLBには、みんな大好きオオタニサンをはじめ日本人選手が顔を揃えます。
 長年、野球オンチで生きてきた僕ですが、昨日ばかりは、ナンチャッテにわかファンになって応援しました。


 といっても、一人で野球観戦ができるような熱意も知識もありません。
 となれば結論は一つ!
 野球に詳しい常連客が集まる酒処 「H」 に行って、解説付きで野球を観戦することにしました。

 いやいや、午後4時前からカウンターには、ポツリポツリと暇な(?)男たちが顔を出し始めました。
 常連のKちゃんとAちゃんの名実況と名解説により、高校野球が10倍以上楽しめました。

 ハラハラ、ドキドキの同点で迎えた9回表、健大が追加点を入れて、見事に3対1で勝利。
 「カンパ~イ!」
 幸先良い呑み会のスタートであります。


 大谷翔平が登場するまでには、まだ時間があります。
 いつもの与太話をしていると、大きな紙袋を抱えて常連客が登場!
 中身は、なんと! “ふきのとう” です。

 「まだちょっと早かったみたいでね、すべて土の中から掘り出してきたよ」
 “山菜取り名人” と呼ばれる彼は、こうやって旬の山の幸を、季節ごとに店に差し入れてくれるのです。


 さっそく、ママが自慢の腕をふるいます。
 この日、カウンターに座った人だけのスペシャルメニューが登場!
 「ふきのとうの天ぷら」 と 「ふきみそ」。

 もちろん全員、今年初めて口にする旬の味です。
 「きー、うまい!」
 「香りがいいね」
 「ほろ苦さがたまらない」
 「子どもには分からんだろうな、この味」
 そして、
 「やっぱり、ふきのとうには日本酒だよ」
 と、それまでビールや焼酎を吞んでいた人も、みんなで冷酒グラスに持ち替えて、
 「カンパ~イ!」

 僕らにも、待ちに待った春がやって来ました!
 そしてオオタニサンもヒットを打ち、ドジャースの勝利。
 めでたし、めでたし。

 良き酒、良き肴、良き仲間。
 そして、WELCOME SPRING!


 が、一夜明けると雪景色に……
 
 冬来たりなば 春遠からじ
  


Posted by 小暮 淳 at 11:34Comments(0)酔眼日記

2025年03月08日

今夜のスターは 「あじまん」


 東京へ出るまで、「今川焼き」 という名称を知りませんでした。
 だって、前橋っ子が食べていたのは、見た目は同じだけど、「甘太郎焼き」 だったからです。

 “ご当地あるある” っていうやつです。


 朝目覚め、その日の気分で 「今日はオフ日にしょう」 と決めます。
 そんな日は、午後の早いうちからバスに乗って、行きつけの店に顔を出します。
 ご存じ、酒処 「H」 です。

 昨日も4時前に着いたんですけどね。
 すでに先客がいました。
 5時を過ぎた頃には、カウンター席しかない小さな店内は、ほぼ満席です。
 残りは、あと一脚……


 というときに、大きな包みを抱えた常連のK君が登場。
 「あじまん、買って来たよ~!」

 「あじまん? 何それ?」
 店内はざわつきましたが、僕だけは、
 「ええええーーーーー! もしかして、あの、あじまん!?」
 と、歓声を上げていました。

 「そうですよ! 昨日 『秘密のケンミンSHOW』 でやっていた、あの、あじまんです」


 ちょうど前の日、テレビで “ご当地あるある” を紹介していたのです。
 山形県では、今川焼きのことを 「あじまん」 と呼ぶことを。
 しかも、僕らが慣れ親しんでいる今川焼きとは、ちょっと見た目が違うこと。
 さらに、中のあんこの量が半端でないこと。
 そして、そのあんこが甘くないこと。

 食べてみたいけど、ご当地限定で、しかも冬季だけの期間限定商品だと番組は伝えていました。


 「K君、山形まで行ってきたの?」
 「それが、売ってるんですよ! 前橋でも」

 なんでも群馬県内では、前橋市と館林市の2カ所だけで、冬季限定販売しているとのことです。

 「でも、よく買えたね!? テレビで、あれだけ紹介されたら、買うの大変だったんじゃないの?」
 「はい、50分並びました」
 「ごじっぷ―――――ん!!!」


 ということで、ラッキーな常連客限定8名+ママだけが、その幻の 「あじまん」 を食せることになりました。

 「うまい!」 「おいしい!」 「すごい、あんこ」 「甘くなくて、ちょうどいいね」 「これなら2個は食べられる」
 と、左党の輩からも大絶賛の声が飛び交いました。


 一見、見た目はふつうの今川焼きです。
 でも、ちょっと高さ (厚み) が違います。
 山高帽のような形をしています。
 そのぶん、中はあんこがたっぷりなんです。
 薄くてフワフワの皮と絶妙なバランスで、口の中をバラ色に満たしてくれます。

 「田舎のあんこだね」
 「そうそう、ばあちゃんが作ったあんこの味だ」
 と、完全に今夜のスターの座は、すべて 「あじまん」 が持って行ってしまいましたとさ。


 まだの人は、ぜひ一度、ご賞味を!
 ただし期間限定です。
 3月いっぱいぐらいは販売しているらしいですが、行列覚悟でお買い求めください。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:54Comments(0)酔眼日記

2025年03月03日

目と指の至福


 あなたにとって、至福の時間とは?

 好物を食べているとき、寝ているとき、風呂に入っているとき、趣味に没頭しているとき……
 人それぞれだと思います。
 でも、至福の時間があるからこそ、それ以外の時間を過ごすことができるわけです。

 いわば、至福の時間は、自分から自分への “”ごほうび” ということになります。


 では、僕にとっての至福の時間とは?
 やっぱり、真っ先に思い浮かべるのは、酒ですね。
 1年365日、生きている限り欠かせない必要不可欠なアイテムであります。

 じゃあ、毎日、至福の時間があるかというと、そうでもありません。
 ほとんどの場合、仕事終わりに、ただなんとなく習慣で呑んでいることが多いですね。
 もちろん、“至福” だとも感じていません。


 僕にとって、至福の時間は、「酒+読書+音楽」 がマッチングしたときに訪れます。
 これって、週に一日あるかないかの貴重な時間です。

 読書には、ウィスキーが似合います。
 水割りの氷をカラカラと揺らしながら、好きなピアノ音楽をBGMに、本のページをめくります。
 その日読む本は、朝から決めてあります。

 最近買った新刊本だったり、何年も積んだままになっている文庫本だったり……
 小説だったり、エッセイだったり……
 時には、仕事で使う資料本だったりもしますが、なんでもいいんです。
 その日の気分に似合った本を用意します。

 酔いに任せながら、やがて眠りにつくまで、ゆっくりとゆっくりとページをめくる自分に酔いしれてるわけです。


 えっ?
 酒以外に、楽しみはないのかって?
 それが、あったんです!
 “しらふ” でも感じる至福の時間が!

 それは、原稿を書いているときです。
 その時は、酒も呑まず、音楽も聴きません。
 全神経をパソコンのキーボードに集中していると、あっという間に2~3時間が過ぎています。

 ある意味、僕にとっては “無” になれる時間なんです。
 書いている原稿の内容以外は、完全にシャットアウトして、その世界に没頭しています。
 脳内にアドレナリンが、バーって出ている感覚です。

 ランナーズハイよろしく、「ライターズハイ」 の状態が続き、どんどん気持ち良くなって行きます。


 で、書き上がったら当然、缶ビールが待っているんですけどね。
 結局、最大のごほうびは、酒ということです。

 でも、これがあるから僕は、この人生を続けられているのです。


 <人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ> 牧水
  


Posted by 小暮 淳 at 11:56Comments(2)酔眼日記

2025年02月21日

必殺技! 酔眼二刀流


 個人事業主およびフリーランスのみなさ~ん!
 確定申告は、お済みですか?

 僕は現在、鋭意進行中です。


 フリーランスになり、確定申告をするのも今年で30回目になります。
 まあ、慣れていると言えば慣れているんですけどね。
 でもね、毎年、イ~ヤな思いをするんですよ。

 いわば確定申告は、「大人の通知表」 ですからね。
 子どもの頃にもらった通知表は先生が書きましたが、「大人の通知表」 は自分で書くんです。

 これが、ツライ!


 だって、きっちり数字で現実を突きつけられるんですからね。
 「あれ、もっと売り上げなかったっけ?」 「なにか見落としてないかな?」 「あれ~、あの時の領収書はどこだろう?」
 なんて、毎回、てんやわんやの大騒ぎをしています。

 ところが今年は30年目にして、必殺技を生み出しました。


 いつもの年なら今頃は終えているんですけどね。
 今年は、なんだかんだと忙しくて、確定申告に当てる時間が取れないでいました。
 「このままでは、期間中に終わらないぞ!」
 と、慌てた僕は、名案を思い付きました。

 そう、酒を呑んでいる時間を使えばいい!
 だからといって、酒を呑まずに素面(しらふ)で行ったら、酒を呑む時間がなくなってしまいます。
 ならば、2つ同時に、やっちゃおう!

 ということで毎晩、晩酌の友に電卓を叩いています。


 ま~、これが、はかどること、はかどること!
 酒も進むし、計算も進むのです。

 ついに僕は、必殺技を生み出したのであります。
 題して、“酔眼二刀流”。


 その甲斐あり、収入と支出の計算は、すべて終わりました。
 あとは、記入するのみです。

 この作業だけは、素面のときに行いたいと思います。


 我ながら、うまい手を考えたと悦に浸っています。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:19Comments(0)酔眼日記

2024年12月18日

1.5倍の休日


 昨日は久しぶりのオフ日でした。
 「さて、どう過ごそうか?」 と前日から考えあぐねていました。

 といっても無趣味の僕です。
 スポーツやレジャーに出かけることはありません。
 まあ、定番は読書をするか、酒を呑むくらいです。

 ということで、午前は読書にいそしみ、午後からは呑みに出ることにしました。


 「いや待てよ、その前に風呂に行こう!」
 変形性膝関節症を患って以来、毎週、医者通いを続けています。
 治療の成果もあり、痛みも消え、難なく歩行できるようになりました。

 でもね、寒い日は時々、ズキズキとヒザが痛むのですよ。
 痛むヒザは、温めるのが一番です。
 ということで、呑みに出かける前に、風呂に入ることにしました。


 いつもだと、車でひとっ走りして、シニア割引が使え、料金が格安の日帰り温泉に向かうのですが、残念なことに、この施設は現在、長期のメンテナンス工事中で、休館なのです。
 「少し遠出をして、別の入浴施設を探すか?」
 とも思ったのですが、入浴後は、すぐに酒が呑みたくなる性分です。
 車での移動は、ご法度です。

 で!
 ひらめいた、ヒラメイタ、ヒラメがいたーーー!!!

 バスがあるじゃないか!
 行きつけの酒処 「H」 行きのバスは、その手前で、日帰り温泉施設の前を通過するのです。
 「決めた! 善は急げ!」
 と、いつもより1時間早いバスに乗り込みました。

 う~ん、やっぱ、市内循環バスはいい!
 どこまで乗っても100円というのが、財布にやさしいし、見知った景色の中をクルクルと回りながら走るのも楽しい。


 平日の真昼間。
 風呂に入り、マッサージ機にかかり、体はポカポカ、心はリフレッシュ。
 そのままの流れで、のれんをくぐりました。

 「よっ、ジュンちゃん! 久しぶり」
 まだ午後の4時だというのに、カウンターには常連客がいます。
 しかも、徳利と猪口が置かれています。
 「もう、日本酒ですか?」
 「こう寒いと熱燗からでしょ。ジュンちゃんも、どう?」
 「いや、僕はとりあえずビールで!」

 だって湯上りだもの、“とりあえず” をいただきたい。
 「カンパーイ!」


 いつもの休日だけど、なんだか1.5倍は得をしたような一日でした。
   


Posted by 小暮 淳 at 10:50Comments(3)酔眼日記

2024年10月18日

だから恋なんてしない


 15年、いや、それ以上前からだと思う。
 最初に、のれんをくぐったのは、いつだったのか?
 たぶん、絵本作家のN先生 (故人) に連れられて行ったのが最初だったと思う。

 酒処 「H」。
 たびたびブログにも登場する、我らのたまり場である。


 昨日、1カ月ぶりに、のれんをくぐりました。
 まだ午後4時だというのに、カウンター席には3人の客がいました。
 すべて見知った顔ばかりです。

 「あら、ジュンちゃん」
 「久しぶりだね」
 「忙しいんだって」

 いつもなら週に1回は顔を出していたのですが、なんだかんだと仕事とヤボ用が重なり、1カ月のご無沙汰ぶりとなりました。
 その後も、1人、2人と客がやって来て、狭い店内は、あっという間に満員御礼です。
 ここは、常連客が自称する “前橋一、繁盛している店” なのであります。


 「なんで1カ月も来なかったの?」
 「そうだよ、ジュンちゃんらしくない」
 「怪しいな」
 「ほんと、ほんと、絶対に怪しい」
 と、いつしか話題は、なぜ僕が1カ月も店に来なかったのか? に集中。

 ママまでもが、
 「もしかして、恋?」
 なんて言い出すものだから、常連客らに火がついてしまい、
 「恋だ、恋!」
 「え~、ジュンちゃん、恋しちゃってるの?」
 「相手は誰だれ? 私たちの知っている人?」

 「だから――ッ! 忙しかっただけだって!」
 と、ムキになって説明すればするほど、墓穴を掘っていきます。

 「ますます、怪しいな」
 「そうだよ、正直に話しなさい」
 と、詰め寄られ、しまいには、
 「店に入って来た時から雰囲気が、おかしかったんだよね」
 と、ママ。
 すると女性客の一人が、
 「そうそう、いつもと違った。なんか、ちょっとカッコつけていたよね」

 う、う、ウソだー!
 ねつ造だ! でっち上げだ! 冤罪だ~!


 さらに、ますます僕に対しての “いじめ” はエスカレートしていき、
 「髪型が変わった」 とか 「顔がほっそりした」 とか 「腹が引っ込んだ」 とか、肉体的な虐待(?)にまで及んだのです。

 「だ、か、ら、ただ仕事が忙しかっただけだってば―――!!!」

 なんとも他愛のない話で、小一時間も盛り上がってしまいました。


 でもね、もし僕が今、恋をしているとしたら、それはママにですよ。
 ママとママの手料理と、この店。
 それと、くだらない話を延々とできる気の置けない常連客たちです。

 思い返せば、僕はいつも、いいことがあった日や頑張った日に、自分へのご褒美として 「H」 に来ていました。
 よき酒、よき味、よき仲間たちに会いに……

 大好きだよ、みんな! 


 だから、よそで恋なんてしていないんです。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:02Comments(4)酔眼日記

2024年09月21日

神の話をしよう


 「散々、大谷翔平の話はしたからね。もう、しないよ」
 新しい客がカウンターに座るたび、僕とママと常連客は、そう告げるのですが、それでもまた店内は大谷翔平話で、ひとしきり盛り上がるのでした。

 いゃ~、マイッタ!
 50‐50 (50本塁打、50盗塁) という史上初の快挙を達成しながら、さらに、その上を成し得る人知を超えた男。
 期待と予想と想像を、見事に裏切ってきます。


 昨日は年に一度の検診日。
 朝食をとらずに、病院へ行く準備をしていました。

 その時です。
 テレビから50‐50達成のニュースが!
 しかも同日にホームラン2本と盗塁2つだなんて!
 ビックリ仰天するも、勇気凛々となり意気揚々と病院へ向かいました。

 もちろん受付の看護師さんとも、会うなり大谷翔平話です。
 「小暮さん、いい日に来ましたね」
 「だよね、俺って持っているかも」
 なんて、大谷翔平の偉業は、みんなを元気に明るくしてくれるのです。


 検診終了後、駐車場の車の中で思いました。
 「そうだ、今日はお祝いだ!」
 と、行きつけの飲み屋のママに、すぐさまメールを送りました。

 <大谷50‐50達成! パソコン復旧記念だーい!>
 と、夕方から店に行くことを告げました。

 すると……

 <もっとスゴいぜ! 51‐51で自記録すぐ更新したんだよ>
 という返信が。

 えっ?
 一瞬、何のことか分かりません。
 51だ?
 確かに家を出るときには、すでに盗塁は51でしたが……
 えっ、もしかして、あの後もホームランを打ったの!?

 1試合に3ホームランってか~!!!!


 そして、冒頭の会話になったのであります。
 6打数、6安打、3本塁打、10打点、2盗塁……
 いったい誰が想像できたでしょうか?

 「彼は、もはや人間ではない」
 とは、アメリカの実況アナウンサーの言葉。
 まさに人知を超えた “神” の成せる業であります。


 たぶん、昨晩は日本中の飲み屋で、繰り返し繰り返し “神” の話がされたことでしょうね。
 いえいえ、世界中かもしれません。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:21Comments(0)酔眼日記

2024年09月05日

ピンできるチン


 「先生、老後はまかせてください」
 「老後?」
 「はい、私が先生を介護します」


 一昨日、「弟子の会」 の会合に出席してきました。
 とは言っても、ただの呑み会であります。

 8年前、僕の講座や講演に参加した読者たちが集まり、「温泉の話をしながら酒を呑もう!」 ということになり、2カ月に1回、こうして飲み屋に集まっているのです。
 彼ら彼女らは僕のことを、勝手に 「先生」 とか 「師匠」 とか呼ぶものだから、いつしか 「弟子の会」 と名付けられました。


 会員の一人、Kさん (女性) は現在、介護師の資格を取るべく猛勉強中であります。
 「先生、安心してください。最期までお世話しますから」
 とかなんとか言われ、
 「おいおい、大げさな……」
 と言葉をかわしたのですが、よくよく考えてみたら他人ごとではないような気がしてきました。

 だって僕のオヤジは、亡くなるまでの10年間は認知症を患っていましたからね。
 介護する身の大変さは、重々承知しています。
 もし、自分にその時が来たら……と思うと、ゾッとします。

 できるものなら、まわりに迷惑をかける前に、ピンピンコロリとあの世に旅立ちたいものです。


 でも昔は、そう僕が子どもの頃には、まわりに認知症の老人なんていなかったような気がします。
 なんで現代は、こんなにも認知症の老人が増えたんでしょうか?
 これは素人考えなのですが、肉体の寿命が延びているのに対して、脳の寿命が追い付かなくなっているからではないでしょうか?
 まれに100歳過ぎてもボケてない人がいますが、それは異例中の異例のような気がします。

 肉体と脳がともに長生きしてこそ、本当の意味の “長寿社会” だと思うのです。


 「下の世話もしてくれるの?」
 「もちろんです。先生のオムツを交換してさしあげますわ」
 「もしかして、ピンされちゃったりして(笑)」
 僕が親指と中指で輪を作り、はじく真似をしました。

 するとKさんは、
 「ピンできるといいですけどね(笑)」
 人差し指をフニャリと曲げてみせました。

 そうか、脳より肉体の方が先に老いることもあるのですね。
 今から鍛錬を続け、ピンできるような肉体を維持しようと思います。

 Kさん、待っててくださいね。


 ※今日は珍しく下ネタでしたね。読者のほとんどは昭和世代でしょうから、どうか寛容に読み流してくださいませ。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:19Comments(4)酔眼日記

2024年06月06日

イチゲンさん


 知る人ぞ知る、酒処 「H」。
 いや、このブログの読者なら、毎度おなじみの店ですね。
 僕が、かれこれ15年以上も通っている吞兵衛たちのアジトであります。

 なんでも一時、「Hは、どこだ?」 と僕の読者の間では話題になったことがあったようです。
 「やっぱり、ここだったんですね!」
 と探し当てた客は、狂喜乱舞したそうです。

 では、なぜ、この店が 「H」 と分かったのか?
 はい、入店すれば、すぐに分かります。
 それは……

 答えが気になる人は、探し出してみてください。


 さて、その酒処 「H」 ですが、まあ、入りにくい店なのであります。
 大通りに面していて、暖簾も電照看板も出ているんですけどね。

 間口は、一間半ほど。
 外から中の様子は見えません。
 扉を開けると、うなぎの寝床のような細長い店内に、カウンター席のみ。
 しかも、8席限定。

 一見(イチゲン)の客は、それだけで尻込みをして、二の足を踏んでしまいそうなのに、さらに、そこにはクセの強い常連が早い時間から陣取っています。
 運よく、空き席に座れたとしても、試練は続きます。

 この店には、お品書き (メニュー) が一切ありません。
 ということは、料金が分かりません。

 すべてママの手作りお任せ料理で、料金一律です。


 たとえば、「今日行くよ」 とママにメールを送ると、「串カツなり」 とメールが来ます。
 その日のママの気分によっては、餃子だったり、シチューだったり、焼き魚だったり、和洋中どれが飛び出すか分からないのも常連の楽しみになっています。

 ということで客は、常連か、もしくは常連に連れて来られた客がほとんどであります。
 が、たま~に、勇気のあるツワモノが、ぷらりと現れることがあります。

 そんな時は、一斉に常連たちの鋭い視線の集中砲火を浴びることに!


 一昨日、見慣れない男性が入ってきて、戸惑うこともなく、堂々と空いている席に座りました。
 ママはソワソワ、常連は興味津々。

 「また、どうしてこの店に?」
 さっそく、常連の一人が身元調査を開始しました。
 「ええ、この通りで、ここしか空いてなかったもので」
 時間は、まだ午後5時前です。

 「初めてですよね?」
 「はい、前橋自体が……何十年ぶりです」
 「仕事で? 違うか?」
 見た目、年の頃は60代後半~70代前半です。
 服装もラフな格好でした。

 「尾瀬の帰りです」
 「えっ、車?」
 「いえ、電車です」
 「だったら高崎泊まりでしょう?」
 常連の飽くなき追求は続きます。

 なんで前橋の、こんなマニアックな店に、この男はたどり着いたのか?
 それが知りたいのです。

 「高崎は昨日泊まったので、今日は前橋に宿をとりました」


 このあと、常連客らの追求の末、住所と氏名を訊き出し、一応、怪しい人物ではないことを確認しました。
 なんでも定年退職後、日本のみならず、世界中を一人で旅して回っているとのこと。
 「死ぬまでに行ってないところへ行く」 のだそうです。
 それで、どの街へ行っても、一見で店に入れる度胸がついているのですね。

 Оさん、根掘り葉掘り訊いて、ごめんなさいね。
 これに懲りずに、またのご来店をお待ちしております。

 よい旅を!
   


Posted by 小暮 淳 at 11:36Comments(4)酔眼日記

2024年05月18日

救命酒


 <酒はこれ忘憂の名あり> 親鸞


 たびたび酒の話で恐縮です。

 行きつけの呑み屋でのこと。
 カウンターで、初老の男性と隣同士になりました。
 初めてではありません。
 何度か、お会いしています。

 でも、このところ見かけませんでした。


 「お久しぶりです。お元気でしたか?」
 僕としては、いたって普通のあいさつのつもりでした。

 「久しぶり」 =しばらくお会いしていませんでしたね。
 「元気?」 =その後、お変わりありませんか?
 という意味です。

 なのに、その男性は、こう応えたのです。
 「酒が呑めて、よかった。もし、酒が呑めなければ、私は死んでいました」


 なんとも意味不明な、ご挨拶です。
 でも、お顔を拝見すれば、確かに以前よりやせたような。
 顔色も、あまりよろしくありません。
 なによりも、声が小さい。

 「大丈夫ですか? 何か、あったのですか?」
 すると、こう言いました。
 「なにもないのです。毎日、何もすることがないのです」


 聞けば、いわゆる世間でいわれている 「定年五月病」 のようであります。
 定年退職後、毎日家にいるけど、新聞を読んで、テレビを観ること以外にやることがなく、やがて、生きている意味が見いだせなくなり、うつ病のような状態になってしまう。

 でも男性は、定年を迎えてからだいぶ経ちます。
 以前、お会いした時には、その後も忙しく働いているような話をしていました。

 でも今は……


 週に2回、臨時職の仕事に出かけるだけだといいます。
 「ほかの日は、何をしているんですか?」
 「庭を見ています」
 「庭?」
 「はい」

 それはそれで優雅な人生のように思えます。
 俳句を詠んだり、詩を書いたりと……

 でも違いました。
 「庭を見ているとね、死にたくなるんです。このまま死んじゃいたいと」


 そして、冒頭のセリフにつながるわけです。
 「酒が呑めて、よかった」

 男性いわく、週に1回、こうやって、この店に酒を呑みに来ることで、また1週間生き延びられるのだと。
 まさにこれ、“救命酒” であります。


 でもね、フリーランスで死ぬまで働き続ける僕らにしたら、それって 「ぜいたく病」 ですよ。
 老後を心配することなく、潤沢な資金があり、悠々自適な生活を送っている証拠です。

 酒よ、酒!
 あわれな民は、ここにもいるのですぞ!
 我の命も救いたまえ。

 働けど働けど、我が暮らし楽にならず。
 今日も一人、じっと酒を呑む。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:20Comments(0)酔眼日記

2024年05月04日

飛んで耳に入る夏の虫


 「それって、キャサリンのこと?」
 「キャサリン?」
 「違うの? うちらキャサリンって言ったよ」

 たまたま居合わせた人たちと、“蚊柱” の話になりました。
 夏になると、道の端や街灯の下で、小さな虫の大群 (主にユスリカ) が柱状に飛んでいる現象のことです。
 このことを関西出身の婦人は、「キャサリン」 と呼んだのです。


 「なんでキャサリンなの?」
 「知らない、でも子どもの頃から、そう言っていたよ」

 でも僕は知っていました。
 以前、テレビ番組で紹介していました。
 大阪の一部のエリアでは、蚊柱のことを 「キャサリン」 ということを。

 なんでも、昭和22(1947)年に日本を襲ったキャサリン台風に由来するそうです。
 この時の映像をテレビで観た子どもたちが、蚊柱に似ていることから名づけたようです。


 「へー、そうなんだぁ~」
 なんて、話している時でした。
 僕に、一通のメールが届きました。

 <チョッピリ 羽虫との戦いで 寝てなくて明日 大丈夫かなぁ…。明日起きたらメールするね>

 発信者は、行きつけの酒処 「H」 のママです。
 「羽虫との戦い?」
 いったい何のことでしょう?

 まさに、“虫の知らせ” とはこのことです。
 意味不明なメールではありますが、とりあえず一晩、待つことにしました。


 翌朝、ママからメールが届きました。
 <何とか 羽虫戦い 終戦なり お店 開店なり>

 おおー!
 何が起きて、何がどうなったのかは知らんが、無事、店を開けられるとのこと。
 ならばと、まだオープン前の陽の高いうちに、陣中見舞いへと出かけました。


 「ねえちゃん、大丈夫だったか!?」
 (僕ら常連は、ママのことを 「ねえちゃん」 と呼びます)

 「どうした? 蚊の大群が出たって? 店か自宅か?」
 僕の頭の中には、一晩中、キャサリンと寝ずに悪戦苦闘するママの姿があったのです。
 するとママは、笑いながら……

 「そうじゃないのよ、耳の中」
 「耳の中?」
 「そう、昨晩、寝ようとしたら突然、虫が左の耳の中に入っちゃったのよ」
 「虫って、羽のある?」
 「一晩中、ブーンブーン耳の中で鳴っていて、うるさいやら、怖いやら、一睡もできなかったのよ」


 まれに聞く話ではあるけど、実際に身近な人の耳の中に羽虫が入った話は初めてです。
 興味津々!

 「で、今も耳の中にいるの?」
 「いるわけないじゃん、駆除したわよ」

 聞けば、朝イチで耳鼻科へ行き、虫を取ってもらったとのこと。
 ただ、医者には怒られたようであります。
 なんでもママは、綿棒で突いて、羽虫を耳の奥まで押し込んでしまったようで、医者も難儀をしたようです。


 「でも、良かったね。中耳炎とかならなくてさ」
 「もう、怖くて怖くてさ。これからは耳にガードして寝ようかしら(笑)」

 本当に良かった。
 大事に至らず、その程度の笑い話で終わってさ。


 でも不幸だったのは、運悪くママの耳に飛び込んでしまった羽虫です。
 すぐに出ようと思っていたに違いない。
 なのにママったら、綿棒で突いて、余分なことをするものだから、奥へ奥へと追いやられてしまい、終いには、医者に器具を使ってかき出されて、ハイ、御臨終!(アーメン)

 「ねえちゃん、その虫、見た?」
 「怖くて、見れるもんか!」


 飛んで耳に入る夏の虫

 これからの季節、みなさんもご注意くださいませ。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:28Comments(0)酔眼日記

2024年04月07日

昭和おやじ VS 令和おやじ


 スマホを持たない僕ですが、スマホに囲まれた風景には、もう慣れました。
 最初は、違和感や嫌悪感もありましたが、これも時代の流れです。
 郷に従わないまでも、黙認しています。

 たとえば、駅の待合室や電車の中。
 十中八九の人が、老若男女問わずスマホをいじっています。
 「みんな、何を見てるのだろう?」
 と気にはなりますが、僕は、それを横目に新聞を広げています。

 たとえば、喫茶店やレストラン。
 若いカップルが向かい合いながら、食事をしています。
 が、会話はなく、2人ともスマホに夢中です。
 「せっかくのデートなのに、それでいいの?」
 なんて、お節介な心配をしますが、この光景にも慣れました。
 僕は、文庫本を開きます。


 スマホを見ようが、新聞を読もうが、それは個人の自由です。
 他人に迷惑をかけなければ、誰も文句は言いません。

 でもね、もし、それが、自分に害を被ってきたら、どうしますか?


 いつもの店の、いつもの席で、いつものように至福の酒を楽しんでいる時でした。
 カウンターには、気の置けない常連客が数人。
 僕は、隣の客と、たわいのない世間話をしていました。

 隣の客は同世代。
 “昭和あるある話” が大好きな、昭和 (を引きずった) おやじです。
 いつものように、昭和ネタで盛り上がっていました。

 「そうそう、○○○○の奥さんだよね!?」
 「ええと……、✕✕✕✕✕✕だ」
 「そうそう」
 なんていう他愛のない芸能人の話題です。

 「♪ チャーラララ、……次、何だっけ?」
 ✕✕✕✕✕✕のヒット曲です。
 「♪ チャーラララ? えーと、なんたらかんたら」
 どーでもいいんです。
 思い出せなくても、いいんです。
 所詮、昭和おやじの酒のつまみですから。

 「曲名、何だっけ?」
 「えっ、……」
 「あ~、思い出せない」

 すると、話を聞いていたママが言いました。
 「この、思い出しそうで思い出せないのが、いいんだよね。この間も芸能人の名前が出て来なくてさ、お客さんと大笑いしたのよ」

 それで、いいんです!
 我々、中高年は、この加齢による度忘れをゲームにして楽しんでいるのですから。


 すると、話を聞いていたカウンターの隅にいた客 (同年配) が、なにやらスマホをいじり出しました。
 イヤな予感がします。
 以前にも、お節介な客が、度忘れゲームを楽しんでいた時に、頼みもしないのに勝手にスマホで検索をして、正解を告げられたことがありました。
 これは、御法度!
 絶対に、やってはいけないルール違反です。

 推理小説を読んでいる人に、犯人を教えてしまうようなものです。


 察知した隣の客が、スマホを手にした客に向かって、言いました。
 「調べるのはいいけどさ。こっちに教えないでよ」
 聞こえているのか、いないのか、隅の客は無心にスマホをいじっています。

 「♪ チャーラララ……、何だっけ?」
 昭和おやじたちは、まだ、あきらめていません。

 と、その時です。
 スマホをいじっていた客が、ポツリとつぶやきました。
 「『△△△△△△△』 です」


 シーーーーーーーーーン
 一瞬、イャ~な空気が店内に流れました。

 あ~あ、言っちゃった!
 頼んでもないのに、言っちゃった!


 我々の完全なる敗北です。
 時代を読めない昭和おやじが、令和 (に馴染んだ) おやじに負けた瞬間であります。

 あなたの周りにも、いませんか?
 なんでもかんでも検索してしまう人?

 生きにくい世の中になりました。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:14Comments(0)酔眼日記

2024年03月14日

「イワナイコト」 とは?


 「あなたは幸せですか? 不幸ですか?」
 と問われれば、僕は、
 「不幸ではありません」
 と答えます。

 “不幸ではない” = 必ずしも “幸せ” じゃないような気がするからです。

 ただ、日々の中に、幸せを感じる瞬間ならあります。
 それらは、すべて、人と触れ合っている時です。
 家族や友人、知人、読者、聴講者……

 残念ながら、モノやお金で幸せを感じたことはありません。


 幸せを感じる瞬間の1つに、「弟子の会」 というがあります。
 かれこれ8年前に発足した、吞兵衛の集まりです。
 メンバーは、僕のことを勝手に 「先生」 とか 「師匠」 と呼ぶ温泉好きの面々です。

 発足といっても正式な会員規約などはありません。
 2カ月に1回、呑み屋に三々五々集まって、バカ話をして帰るだけです。


 最初の頃は、温泉の話もしていたんですけどね。
 最近は、ただのバカ話を延々としているだけです。
 それが、不思議と心地いいんです。

 テーマがツボにはまると、笑いが止まりません。
 死んじゃうんじゃないかと思うほど、笑って、笑って、笑い転げて、しまいには涙まで流れます。
 みんな笑い過ぎて、「腹が痛い」 「後頭部が痛い」 と、翌日になって後遺症が出る始末です。


 先日、今年2回目の 「弟子の会」 がありました。
 まぁ~、弟子たちですからね、みんな僕のブログは読んでくれているわけです。

 「じっさんずラブ、笑いました」
 「“ひかがみ” 知りませんでした」
 「カメの恩返し、面白かった」
 「今度、塩付きの樽酒、買います」
 なんてね。
 必ず毎回、ブログネタで盛り上がります。


 「先生、あれは本当に怖かった!」
 「イワナイコト?」
 「きゃー、夜中、トイレに行けなかったんだから」
 「でも本当の話だから」
 「先生が呪われて、死んじゃうんじゃないかと心配しました」
 「大丈夫だよ、ほら、こうして生きている」
 「はい、翌日のブログが更新されていて安心しました」
 (2024年2月16日 「トイレの怪」 参照)

 それからは、みんなで 「イワナイコト」 探しが始まりました。

 「いったい、何のことですかね?」
 「じっさんずラブじゃないんですか?」
 「先生、ちゃんと胸に手を当てて考えてみてください。やましいことは、ありませんか?」

 と言われても、まったくもって心当たりがありません。


 もしかして、イワナイコトとは、この 「弟子の会」 のことですかね?
 こんなにも楽しい仲間と時間を、一人占めしていることへの神様のやっかみですか?

 「イワナイコト」 とは?


 この謎解きは、まだまだ続きそうですね。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:03Comments(0)酔眼日記

2024年03月11日

山は富士、酒は……


 ≪酒の名のあまたはあれど今はこはこの白雪にます酒はなし≫ 若山牧水


 「おーい、ジュン! ちょっと、来い!」
 子どもの頃、晩酌をしているオヤジに、ときどき呼ばれました。
 居間に行くと、奇妙な恰好をしているオヤジがいました。

 片手の親指と人差し指で、自分の鼻をつまんでいるのです。

 「何してるの?」
 と問えば、
 「つまみが無いから、鼻をつまんでいるんだ!」
 と、立腹の様子。

 察するに、酒を呑み出したがオフクロの料理が、なかなか出て来ないことにイライラしているようです。
 そして僕に、こう言うのでした。

 「塩、持って来い!」


 台所に行って、オフクロに告げると、
 「まったく、しょうがないね。これを持って行って」
 と言って、塩が盛られた小皿を渡されました。

 オヤジは、この小皿の塩をつまむと、上手に手の甲に乗せ、ペロッと舐めました。
 そして、酒をキュー。
 たま、塩をペロッ。
 酒をキュー。

 子ども心に、大人とは不思議な生き物だと思っていました。
 が、大人になると、やっぱり僕も、その不思議な生き物になっていたのです。


 先日、スーパーマーケットに立ち寄った時のこと。
 日本酒の棚に、驚きの商品を見つけました。

 「白雪 樽酒」

 ほほう、牧水が愛した酒じゃないか~!
 と手に取ると、あまり見かけないコピーが書かれていました。

 <塩付きキャンペーン 実施中>

 なに?
 塩付きだ?

 と、コップ酒を模した容器のフタを、のぞき込むと……

 おっ、おおおおおおーーーー!!!
 本当だ、確かに塩の小袋が入っています。
 しかも、ブランド品の 「伯方の塩」。
 さらに、焼塩です。


 キャンペーンの但し書きには、丁寧にもイラスト入りで、こんなことが書かれていました。

 【ちょっとイキな飲み方】
 手に塩をのせて、少しずつなめながらお楽しみください。
 

 ということで即行、買って帰り、遠い日のオヤジを真似て、塩をつまみに呑み始めました。
 ペロッ、キュー、ペロッ、キュー……

 うまい!
 うま過ぎる!
 こりゃ、やっぱ、クセになるわ!

 もしかしてオヤジは、オフクロの手料理で呑む酒よりも、この “塩呑み” が好きだったのではないでしょうか!?
 きっと牧水さんだって、そう。
 世の吞兵衛たちは、一番おいしく酒を呑む術を知っていたんだと思います。


 まだの人は、ぜひ、お試しください。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:13Comments(0)酔眼日記

2024年01月21日

おーい!中村くん


 コロナ禍で翻弄された数年間。
 思えば、もう何年も新年会らしい新年会には、出席していませんでした。

 たぶん、4年ぶりだと思います。
 昨日、某社の新年会に出席してきました。


 会場は、古民家をリノベーションした、今はやりのダイニングバー。
 居酒屋慣れしている僕らシニア層には、勝手がわからず、戸惑うばかりです。

 貸切られた個室には、大きなテーブルが2つ。
 三々五々に集まった出席者が着座しますが、暗黙の裡に世代が分かれました。
 右は、40歳以上のシニアテーブル。
 左は、30歳以下のヤングテーブル。

 総勢15名の内訳は、老若男女とりあわせ、最年長は75歳、最年少は20歳です。


 さて、トラブルは、乾杯を前に発生しました。
 原因は、テーブルで分けられた世代格差にありました。

 メニューがなくて、乾杯のドリンクの注文の仕方が分からないのです!
 そうです、今はやりのQRコードをスマホで読み取って、オーダーするスタイルだったのです。
 ヤングテーブルは、すでに手際よくオーダーを済ませています。

 一方、シニアテーブルは悪戦苦闘。
 「店員を呼びましょうよ」
 「まったく、便利なんだか、不便なんだかわかりゃしませんよ」
 「これだから年寄りは、置いて行かれるんですよ」
 とかなんとか口だけは動きますが、一向に注文はできません。

 すると……

 「注文しましょうか?」
 と名乗り出た一人の青年。
 最年少20歳の中村君です。

 そう言うと、シニアの注文を聞き取り、手際よくスマホからオーダーしてくれました。


 「カンパ~イ!」
 「今年もよろしくお願いしまーす」
 無事に宴が始まりました。

 ところが……

 「おーい、中村くん」
 「おーい、中村くん」
 と、ひっきりなしにシニアテーブルから声がかかります。
 そうです、追加注文のたびにシニアたちは、重宝で使い勝手のいい中村君を呼ぶのです。

 そのたびに、笑い声が上がります。


 「何が、おかしいんですか?」
 と、キョトンとする中村君。
 「そういう歌があるの」
 と僕が教えてあげました。

 昭和33(1958)に大ヒットした若原一郎の 『おーい中村君』 です。

 当然、ヤングテーブルからは 「知らな~い」 の声が。
 まあ、昭和も昭和、かなり昔のヒット曲ですからね。
 知っていたのは60代以上だったですけどね。


 「今度、歌を覚えて、カラオケで歌ってごらん。ウケるよ」
 と僕。
 「はい、覚えます」
 と中村くん。

 「両親だって知らないかもよ? って、親御さん、いくつ?」
 「52歳と51歳です」

 聞いた途端、シニアテーブルからは 「ワ~!」 と驚きの声が上がりました。


 「おーい、中村くん! ビールね」
 「おーい、中村くん! こっちは冷酒」
 「おーい、中村くん! 箸と取り皿、注文して」

 歳の差55歳のなんとも不思議で愉快な新年会でした。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:25Comments(0)酔眼日記

2023年12月11日

せっかちなサンタクロース


 えー、世の中には、おかしな名前の人たちがいるものでして。
 キャンドルジャンだとか、タブレット純だとか、同じ “じゅん” として見過ごすわけにはいきません。
 なんで彼らは、そんな芸名(?) を付けたんでしょうな?

 なーんて、陰であざ笑っていたら、火の粉が飛んできて、もらい火をしてしまいました。
 どこの、どなたか知りませんけどね、僕のことを 「ボクスイジュン」 なんて呼ぶ輩が現われたんですよ。


 「なんで?」
 「そりゃ小暮さんが、令和の牧水だからですよ」
 「牧水って、若山牧水のこと?」
 「ごもっともで」
 「いやいや僕は、あそこまで酒に意地汚くはありませんよ」

 というのが先日、呑み屋で交わされた会話です。


 まあ、歌人の若山牧水については、先月から高崎市のフリーペーパーで 『牧水が愛した群馬の地酒と温泉』 なんていうエッセイの連載がスタートしたばかりですから、嫌いじゃありませんけどね。
 しかも、酒と温泉が好きなところは、確かに似ています。

 けどね、あそこまでは呑めませんって!
 朝2合、昼2合、夜に6合=計一升を365日毎日たしなんでいたんですぞ!

 でもね、せっかく偉大な歌人の名前を冠にいただいたのですから、大切に名乗らさせていただきます。
 「ボクスイジュンと申します。 以後よろしゅうお願いいたします」 


 ていうか、気が付いたら僕の酒好きは、知れ渡っているようであります。
 今年一年間を振り返っても、日本酒、焼酎、ウィスキー、ビールが、ひっきりなしに届きました。
 ま~、すべて消耗品ですから、いくらあっても邪魔にはなりませんので、ありがたくいただくことにしています。

 と思ったら、つい先日も、ビールが届きました。
 それも銘柄は、このブログのプロフィール写真に写り込んでる “某社の某搾り” であります。
 見ている人は、見ているんですね。
 これまた、ありがたくいただきました。


 それにしても、せっかちなサンタクロースがいたもんですな。
 クリスマスには、まだ2週間もありますぜ!
 ひと足も、ふた足も早くクリスマスプレゼントが届いたことになります。

 え、なに?
 クリスマスプレゼントじゃない!?

 これ、「お歳暮」 っていうの!

 お後がよろしいようで……(ジャンジャン)
  


Posted by 小暮 淳 at 11:53Comments(0)酔眼日記

2023年11月08日

ぼんじりの秋


 『しらたまの歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり』 牧水


 めっきり秋らしくなってきました。

 秋といえば、酒です。
 (一年中ですが)
 酒といえば、やっぱ日本酒ですね。
 (毎日のことですけど)

 当ては、まずは、焼き鳥から始めるのが定番です。
 (やっと今日の本題に入りました)
 となれば、僕は決まって 「ぼんじり」 を注文します。


 「ぼんじり」 とは?
 一般には馴染みのない部位かもしれませんが、酒呑みにはファンが多い部位だと思います。
 鶏のお尻の骨まわりの希少な肉です。
 “鶏肉の大トロ” とも呼ばれ、脂がのっていて、噛むとブリッとした弾力があり、それでいて歯切れがよい。

 「ぼんじり」 という言葉の由来は、雪洞(ぼんぼり)のように “かわいい尻の肉” だからのようです。

 ちなみに僕は、カリカリに焼いて、塩をサッと振って、熱々のうちに食べるのが好きです。


 最近は街中のスーパーでも売っているので、未体験の人は一度、“味体験” してみてください。

 なんて話していたら、も~う、ヨダレが出てきました。
 夜まで待てそうにありません。

 牧水先生も日に一升、朝から呑んでいたといいますから僕もいいかな?


 『人の世にたのしみ多し然(しか)れども 酒なしにしてなにのたのしみ』 牧水
   


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2023年10月21日

酒乞食


 死んだオヤジは生前、自分のことを自ら 「麺乞食(めんこじき)」 と呼んでいました。
 それほどまでに無類の麺好きでした。

 こんなエピソードがあります。
 オヤジとオフクロが、まだ結婚する前のこと。
 オヤジがオフクロの家を訪ねると、オフクロの母親 (僕の祖母) が、うどんを打ってくれたといいます。
 オヤジいわく、
 「こんなうまいうどんが、いつでも食べられるんなら」
 と、プロポーズしたとのことです。

 真偽のほどは定かではありませんが、確かに、朝昼晩と麺を食べていたほどの麺好きではありました。


 そのDNAは、僕にも受け継がれています。
 でも僕には、麺類よりも好きなものがあります。
 はい、酒類です!

 “酒” とは言わずに “酒類” と言ったのは、酒ならば洋の東西を問わずに、なんでも好きだからです。
 1年365日、成人したその日から1日たりとも欠かしたことはありません。
 どんなに疲れていても、風邪をひいても、毎晩必ず酒を口にします。

 オヤジに言わせれば、「お前は酒乞食っていうやつだな!」 と笑われそうです。


 酒好きには、悪いクセがあります。
 それは、どこでもかまず、酒好きを自称してしまうことです。

 たとえば、このブログです。
 プロフィール写真を見てください。
 僕は、うれしそうにビールのロング缶を持っています。

 しかも、銘柄までハッキリと分かります。
 「一番搾り」

 だもの読者は、「小暮さんは、キリンの一番搾りが好きなんだ!」 と勘違いするわけです。
 もとい!
 勘違いではありません。
 事実ですが、ビールなら何でも呑みます。
 でも、この1枚の写真が読者の脳裏に刷り込まれるわけです。

 すると……
 お中元、お歳暮に限らず、宴の席でも僕のところには 「一番搾り」 が届くようになりました。


 ブログの力は偉大です。
 数年前から芋焼酎の 「赤兎馬(せきとば)」 が届くようになりました。
 これも、僕が好きな酒として、ブログに書いたからです。

 う~ん、まるでブログはアラジンの魔法のランプのようです。
 記すと、願い事が叶ってしまいます。


 以前、取材先で、生まれて初めてウイスキーの 「山崎」 を呑んだことを書きました。
 そして、忘れられない美味しさだったことも……
 でも、僕のような低所得者が、ふだん気軽に呑める酒ではありません。
 一本、何万円もする高級酒であります。

 ところが!
 読者の中には、奇特な人がいるものです。

 「小暮さん、ミニボトルですが山崎が手に入りましたので、お持ちします」
 との連絡がありました。
 「えっ、本当? 冗談でしょ? 酒乞食だと思って、からかってんじゃないの?」
 と半信半疑でいると……

 なななんと、本当に届きました!

 しかもラベルには、“1923” の文字が!
 1923とは、山崎蒸溜所が稼働を始めた年であります。
 大変貴重なビンテージ物じゃありませんか!


 意を決して昨晩、開封しました。

 うわわ~、この香り、たまら~ん!
 「し・あ・わ・せ」
 の4文字が、フワーっと口の中一杯に広がり、やがてスーッと喉の奥へと流れて行きました。


 ああ、酒乞食で良かった!

 読者のみなさま、今後とも、この吞兵衛を末永くよろしくお願いいたします。
   


Posted by 小暮 淳 at 10:00Comments(0)酔眼日記

2023年10月08日

秋の12時間飲酒マラソン


 4年ぶりに開催された “マラソン大会” に参加してきました。

 えっ、いつからランニングを始めたのかって?
 違いますって!
 マラソンはマラソンでも、頭に 「飲酒」 の文字が付く、僕が最も得意としている競技ですよ!


 コロナ前までは毎年、秋に開催されていた某社の 「秋のバス旅行」 です。
 今年、4年ぶりに再開しました。
 参加のお誘いをいただいたときから、僕はもう、イソイソ、ソワソワしちゃって、日々のトレーニングを重ね万全の体調にて当日を迎えました。

 このバス旅行、別名 「飲酒マラソン」 と呼ばれています。
 目的地なんて、どこでもいいんです。
 バスのシートに座った途端に、スタートの号砲が車内に響き渡ります。


 午前7時。
 バスは一路、新潟県を目指して、高崎駅を出発。
 「カンパ~イ!」
 Y社長の発声とともに、出場選手は一斉に缶ビールを呑み始めました。
 いよいよ、恒例の “12時間飲酒マラソン” がスタートしました。

 最後部座席は、プレミアムシートです。
 そう、優勝候補の招待選手の面々が座っています。

 「おお、小暮さん、お速いですね。もう2本目ですか?」
 僕は毎回、ペース配分ができません。
 とにかく、先手必勝とばかり、バスが高速道路に乗る頃には、2本目のプルタブを引いていました。


 さー、隣の席のTさんも負けじとばかりに、2本目に手を出しました。
 負けてはいられません。

 「そろそろ日本酒に行きますか?」
 と、Y社長。
 「まだ9時前ですよ?」
 「いいじゃないですか! 4年ぶりの開催なんですから」
 の言葉に、
 「では、では」
 と紙コップをを差し出す僕。

 なんと、注がれたのは群馬の名酒 『群馬泉』 であります。

 「これはウマい! ウマすぎる!」
 バスの揺れに合わせて、五臓六腑に染みわたります。

 「そんなに美味しいですか?」
 ふだんは、あまり日本酒を呑まない2つ隣の席のK君が訊いてきました。
 「やってみれば?」
 「では、いただきます」
 と雰囲気にのまれたのか、日本酒に手を出しました。


 最初の目的地、弥彦神社に着いた頃には、すでに全員、出来上がっていました。
 「昼は、どうしますか?」
 とTさん。
 「ビールで、胃の中を少し薄めますか?」
 「そうしましょう」
 と、寺泊の昼食会場では、各人にジョキの生ビールが配られました。

 いよいよ、午後は各自、ラストスパートをかけて、さらにピッチを上げてきます。


 「それでは、ここで恒例の ”小暮淳さんのワンマンショー” をお願いしたいと思います。今回は、ビッグニュースの発表があります」
 と、バスの前方から幹事の声がして、僕はマイクを取りました。
 毎年、僕は帰りのバスの中で、コーナーをいただいています。
 本を出版した時は、クイズやゲームをして、正解した人にはサイン入りの著書をプレゼントしてました。

 今回は、「ビッグニュースの発表」 というテーマで、某テレビ番組に出演した時のエピソードトークと、カラオケに合わせて、お約束のオリジナル曲 『GO!GO!温泉パラダイス』 の歌唱を披露しました。


 午後7時。
 バスは無事、高崎駅に帰ってきました。

 いったい、どれくらいの量の酒を呑んだのでしょうか?
 あまりにも呑み続けた時間が長すぎて、逆にヘベレケに酔っぱらっている人は一人もいません。
 たぶん、午前に呑んだ酒なんて、とっくに覚めているんでしょね。

 バスから降りると、ほてった肌に秋の夜風が心地よいのであります。


 「小暮さん、この後は?」
 Y社長が声をかけてきました。

 「いや、別に何も」
 「では、もう少し行きますか?」
 「はい、お供いたします」

 ということで、“追い酒” をしに夜の街へと歩き出しました。


 2023年12時間飲酒マラソン、完走!
    


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2023年09月17日

ボーダー


 「小暮君ってさ、ときどき、“あちら側” っていう言葉を使うよね? あれって、何?」
 「……」
 「あちら側もこちら側も、ないんじゃないの? みんな同じ人間なんだから」

 20代の頃、女友達に問い詰められた記憶がよみがえりました。


 いつもの居酒屋でのこと。
 いつもの席で、ひとり手酌で呑(や)っているときでした。

 「ジュンちゃん、隣いい?」
 ママに促されて、一人の客が隣の席に座りました。
 初めてお会いする方です。

 「こちら○○さん、よろしくね」
 「小暮です」
 袖すり合うも他生の縁、であります。
 まずは、出会いに乾杯しました。

 「小暮さんは、この店、長いんですか?」
 「15年くらいかな」
 「常連さんだ。私は、つい最近通い出したんですよ」
 その人は、僕より年上に見えました。

 「私、こういう者です」
 居酒屋では珍しく、その人は律儀に名刺を出しました。
 すでに定年退職している身分のようで、名刺に書かれている肩書きは、自治会の役員名でした。
 仕方なく、僕も名刺を渡しました。
 僕の名刺の肩書は、“writer” です。

 「……」
 読めなかったようで、顔をしかめています。
 「ライターです」
 「ライター?」
 「しがない売文業ですよ」

 すると、会話を聞いていたママが、助っ人に入ってくれました。
 「ジュンちゃんはね、こういう本を書いている人なの」
 と、カウンター内の棚に置かれている数冊の僕の著書を指さしました。


 ここまでは、今までもたびたびあったシチュエーションです。
 「へー」 とか 「あら、すごい方なんですね」 とか、話の流れでお世辞を言ってくれたりして、その場は難なく過ぎ去るのが常でした。

 ところが、その人は違いました。 

 「えっ、その仕事で、食べていけるんですか?」
 と、言ってきたんです。
 しかも、たった今、会ったばかりの初対面の僕に対して。

 ビックリするやら、あきれ返るやら、一瞬、僕は言葉を失い、なかなか二の句を継げずにいました。
 やっと出た言葉が、
 「食べられない時期もありましたよ」

 すると、今度は、
 「じゃあ、どうしてたんですか?」
 と無礼にも、さらに突っ込んでくるものだから、言ってやりました。
 「食べませんでした」

 きっと、その人にとっては答えになっていなかったんでしょうね。
 「えっ? えっ?」
 と、見るからにパニック状態です。
 思考回路の中に無い言葉が出てきたため、完全に脳がショートしてしまったようです。


 あちら側の人間……

 忘れかけていたフレーズをが、記憶の奥から湧き上がってきました。


 「あちら側」 とは、僕が若い頃に夢中になって読んでいた漫画の主人公のセリフです。
 『迷走王 ボーダー』
 (狩撫麻礼/原作、たなか亜希夫/作画)

 見えない常識に支配された一般的な世界のことを 「あちら側」 と呼んでいました。


 「あちら側もこちら側も、ないんじゃないの? みんな同じ人間なんだから」
 追って、遠い昔に聞いた女友達の言葉もよみがえってきました。

 だよね。
 分かってるって。

 でもね、やっぱり、この歳になっても “あちら側” の人って、苦手だな(笑)。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:51Comments(3)酔眼日記