2024年11月20日
本屋さんへ行こう!
東京都在住の読者 (60代男性) から、こんなことを言われました。
「私はネットでは本を買いません。小暮さんの本も、近くの書店に注文しています」
ありがたいお言葉ですが、彼は、こうも続けました。
「本屋さんを、これ以上、無くしたくないんです」
まさに令和の現在では、街の本屋さんは壊滅的な危機に見舞われています。
希少価値ゆえに、「リアル書店」 なんて呼ばれるほどです。
スマホでピッっと、ネットで便利に簡単に、探している本が手に入る時代です。
街の本屋さんは、駄菓子屋同様、昭和の産物なのでしょうか?
こんなデータがあります。
全国の書店数の推移です。
2003年には20,880店あった書店が、2023年には10,918店と減少しています。
なんと! 20年間で約半分になってしまったのです。
ちょっと計算してみてください。
すると、なななんと! 1日に1.3店のスピードで消滅していることになります。
これにより全国には 「無書店自治体」 というのが発生しています。
いわゆる書店が一軒もない市区町村のことです。
その数、なななんと! 27.9%!
3市区町村に1つは、無書店自治体なのです。
では、なぜ昭和の時代には考えられなかった現象が、平成から令和にかけて急速に進んでしまったのでしょうか?
答えは明確です。
書店で本が売れなくなったからです。
では、なぜ?
ネット販売が主流になったから?
どうも、それだけではないようです。
一番の理由は、「読書離れ」 です。
平成の世から 「活字離れ」 という言葉はありましたが、ついに 「読書離れ」 = 「長文離れ」 が始まってしまったのです。
あるリサーチによれば、「1カ月間に1冊も本を読まない人」 が6割を超えたといいます。
(当ブログの2024年9月20日 「長文を読めない令和人」 参照)
便利だけが原因ならば、ネット販売に移行するだけです。
でも、本自体が売れなくなっているのですから致命的な問題です。
“便利な社会” は、読書自体を “面倒くさいもの” に追いやってしまいました。
ただただ、悲しい現象です。
読んで残そう、紙の本。
みなさ~ん、本屋さんへ行きましょう!
2024年10月07日
「あとがき」 を読んで
「『上毛カルテ』 はありますか?」
後片付けを終えて、両手に荷物を抱えて、駐車場へ向かっているときでした。
男性から声をかけられました。
昨日、玉村八幡宮 (佐波郡玉村町) で開催された街頭紙芝居と 「ガマの油売り」 の公演終了後のことです。
午前1回、午後2回公演あり、僕は会場にブースをいただき、著書の販売をしました。
その男性は一度、午前の回に来られ、『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』 を購入して帰られました。
その時、「ちいきしんぶん」 の記事で、今日、僕がこの会場に居ることを知り、高崎から来たことを告げられました。
「ちいきしんぶん」 は高崎市内で配布されているフリーペーパーです。
その男性が、午後の公演終了後に、また会場に現れたのです。
「ありますよ。でも、どうされたんですか?」
僕が驚いて問うと彼は、こう答えました。
「あれから家に帰って、すぐに本を読み出したんですけど、『あとがき』 を読んだら 『上毛カルテ』 のことが書かれていて、面白そうだなと思って、買いに来ました」
『上毛カルテ』 とは、平成9(1997)年に出版した僕の処女エッセイです。
すでに絶版になっているので、書店では購入できません。
一部、ネット上で中古品が売買されているようですが、それ以外は、著者の手売りによる在庫販売のみです。
まあ、自分で言うのもヘンですが、読者にとっては、かなりレア本だと思います。
それを 「まだ会場にいるかもしれない」 と思った男性は、また、わざわざ高崎から買い求めに来てくださったのですね。
ありがとうございます。
著者冥利に尽き、ただただ頭が下がります。
で、「あとがき」 に何を書いたのだろう? と、改めて、著書をチェックしてみました。
<思えば私にとっての “謎学の旅” は、ちょうど30年前、タウン誌の編集者になった時から始まっていました。人手が足りなかったこともあり、入社早々、巻頭の特集エッセーを書かせてもらえました。(中略) その後、このエッセーは1997年11月に 『上毛カルテ』 (上毛新聞社) と改題され、書籍として出版されました。>
この一文を読んで男性は、再度、僕に会いに来てくださったということです。
著者として、大変貴重な体験をさせていただきました。
Tさん、ありがとうございました。
2024年06月12日
在庫薄! 「小さな温泉」 「新源泉」
「書店に並べておいて、黙ってても本が売れる時代じゃないよ」
昔、そう先輩作家に言われたことがありました。
以来、僕はその先輩を見習って、講演やセミナー、イベント会場で自分の著書を自ら販売するようになりました。
今までに僕は温泉関連本を10冊出版しています。
うち、最初(2009年)に出版した 『ぐんまの源泉一軒宿』(上毛新聞社) は、すでに絶版となっています。
ので、現在、書店で売られている温泉関連本は9冊です。
コロナが5類となった今年は、イベントや講演の依頼が目白押しです。
ということは、本も売れるぞ!
と、捕らぬ狸のなんとやらで、出版元へ行って、著書を購入してきました。
(もちろん定価ではなく、著者割引を利用させていただきました)
す、す、すると!
な、な、なんと!
出版担当者いわく、
「『小さな温泉』 は5冊まで、『新源泉』 にいたっては在庫が品薄のため、お出しできません」
だと~!
『小さな温泉』 とは、『群馬の小さな温泉』(2010年) のこと。
『新源泉』 とは、『新 ぐんまの源泉一軒宿』(2014年) のことで、絶版になった 『ぐんまの源泉一軒宿』 の改訂版です。
おい、オレは著者だぞ!
そこを、なんとかできないの~?
と言ったところで、ない本は出せません。
なので仕方なく、それ以外の著書を見つくろって仕入れてきました。
ということなので、読者のみなさ~ん!
『小さな温泉』 と 『新源泉』 は、現在書店で販売されている在庫がなくなり次第、売り切れとなります。
担当者いわく、
「たぶん増刷はありません。あるとすれば改訂版の方向で検討します」
とのことです。
まだ持ってない人は、今すぐ本屋へ急げ~!
2024年04月29日
サイゴンより愛を込めて
「この本を買いに来ました」
わざわざ、そのためだけに高崎市から来たという男性がいました。
昨日、玉村町 (群馬県佐波郡) で開催されたイベント会場での出来事です。
『ヨー!サイゴン』 (でくの房)
この本は、今から25年前に出版したベトナム旅行記です。
僕の本の中では珍しく、一度も書店で販売されなかった完全なる自費 により出版した著書です。
それゆえ、我が家には在庫が、たっぷり残っています。
「だったら売っちゃえ!」
と、3年前から参加している街頭紙芝居のイベント会場 (伊勢崎市) で、他の著書 (温泉や民話) と一緒に、さりげなく並べていたのですが……
もちろん、最初は全然、売れませんでした。
手に取ることさえなく、見向きもされませんでした。
ところが、昨年の秋ぐらいからです。
この本が、売れ出したのです。
なんで?
どうも、群馬県内の在住ベトナム人が増加していることが理由のようです。
特に伊勢崎市での人口増加が顕著なようで、街中にはベトナム料理の店が増えているといいます。
まあ、ベトナムを知る入門書として、買って行かれているようであります。
「ベトナムへ行ってきました」
先日、知人女性から唐突に言われました。
「えっ?」
「小暮さんの本を読んで」
「本当に行って来たんですか?」
「はい、本の中で」
「なんだ、実際には行ってないんですね?」
「でも、行って来ました。楽しかった!」
これぞ、著者冥利というものでしょうね。
本が持つ使命であります。
未体験を体験できるのが、読書ですものね。
まだの人は、ぜひ在庫処分に、ご協力をお願いします。
2024年04月16日
温泉もいいけど民話もね
「なぜ民話の本を書かれたのですか?」
最近、とみに訊かれる質問です。
みなさん、僕のことは、温泉専門のライターだと思われているようです。
読売新聞のコラムにも書いたのですが、温泉ライターを名乗るようになったのでさえ、“たまたま” だったのです。
フリーライターとして取材を重ねるうちに、温泉地の取材が増えていき、気が付いたら何冊も本を出版していたというだけのことです。
そして、いつしか 「温泉ライター」 という肩書きが、付けられていました。
先日のイベント会場で、こんな出来事がありました。
僕らは、伊勢崎市の神社で街頭紙芝居の口演を行っていました。
僕らとは、興行主 「壽ちんどん宣伝社」 の座長で、紙芝居師の石原之壽(いしはらのことぶき)くんと、作画担当の画家・須賀りすさんです。
僕は、地元の民話を題材とした紙芝居の物語の作成を担当しています。
口演中に紙芝居師が、そのことを伝えたからだと思います。
終了後、年配の男性が、僕の所へやって来ました。
「小暮さんって、温泉の小暮さんですか?」
「はい」
「ああ、お会いできて光栄です。いつもお世話になっています」
お世話?
不思議なことを言うものだと思い訊ねると、なんてことはありません。
僕の読者で、著書を参考にして温泉めぐりを楽しんでいるのだといいます。
この男性は、この日、たまたま神社に参拝に来たといいます。
すると境内で、街頭紙芝居を行っていた。
何気なく見ていると、「小暮淳」 という名前が出た。
「あれ? 知っている名前だ」
と思い、声をかけたようです。
「小暮さんは、民話の本も書いているんですね。なぜ、民話なのですか?」
さて、困りました。
温泉同様、特別な理由なんてありません。
しいて言うならば、やはり “たまたま” なのであります。
ただし温泉同様、きっかけならあります。
それは、古湯と呼ばれる何百年という歴史を持つ温泉地には、必ず 「いで湯発見伝説」 があるのです。
動物であったり、偉人であったり、湯の数だけ奇想天外、摩訶不思議な伝説が語り継がれています。
その一つ一つを調べていくうちに、いつしか民話の世界に、どっぷりと浸かっていたということです。
そんなエピソードをいくつか話すと、男性は至極納得されたようで、「今日はありがとうございました。貴重なお話をありがとうございます」 と深々と礼を言って、帰って行きました。
もちろん、民話の著書をお買い上げいただきました。
ありがとうございました。
温泉もいいけど、民話もね!
今後ともよろしくお願いいたします。
2024年02月24日
なぜかサイゴン
1999年、春。
僕は友人の画家と、ベトナムへと旅立ちました。
2人は互いに、目的を持っていました。
それは、作品を制作すること。
帰国後、彼は個展を開き、僕は著書を発表しました。
『ヨー! サイゴン』
これが著書名です。
あれから25年。
この本は、今も人知れず我が家の使われていない和室に、梱包されたまま積まれています。
というのも当時、この本を出版してくれる所などなく、全額自費による出版だったのです。
販売ルートもなく、彼の個展会場で売ってもらうしかありませんでした。
よって現在も在庫は、すべて僕の手元にあります。
僕は3年前から仲間と、街頭紙芝居というイベントを開催しています。
場所は伊勢崎市の神社境内です。
会場では、ブースを借りて、著書の販売をしています。
温泉や民話の本がメインですが、こっそり、この本も置いています。
でも他の本に比べると、売れません。
たまに僕のコアな読者が、「これを買いに来ました。これで、小暮さんの著書はすべて揃いました」 と買っていくだけでした。
ところが!
ここに来て、異変が起きています。
昨年の秋頃からでしょうか。
来場者が、この本を手に取る頻度が多くなったのです。
そして、買っていく人が増えました。
なんで?
最初は分かりませんでした。
でも先日、理由が分かりました。
「これベトナムの本なの?」
「ベトナム人の友人がいるのよ」
「ベトナムのこと、知りたくて」
そう言っては、買っていくのです。
そうでした!
確か、群馬県内在住の外国人が過去最多になったというニュースがありました。
しかも、その数が県内で一番多いのが伊勢崎市です。
国別では、ベトナム人がブラジル人を抜いてトップになったと聞きます。
ということは、伊勢崎市は “リトル・サイゴン” ?
ベトナム料理の店も増えているといいます。
いつ、どこで、何が起こるか分かりませんね。
そして、どこかで、誰かが見ているということです。
なぜか今、伊勢崎市で僕の本が売れています。
ヨ―! (ベトナム語で 「乾杯」 の意)
ベトナムに興味がある人は、ぜひ、伊勢崎市にいらっしゃ~い!
2024年01月05日
今日の 「朝日ぐんま」 ~竜伝説スポット~
突然ですが、今日 (1月5日) 発行の 「朝日ぐんま」 で拙著が紹介されました。
※(「朝日ぐんま」 は群馬県内で購読・販売されている朝日新聞に折り込まれるフリーペーパーです)
新春号の一面記事として、大きく特集が組まれました。
タイトルは、「“竜” にまつわる群馬の伝説スポット」。
今年の干支 「辰」 にちなんだ企画で、県内に伝わる竜伝説を紹介しています。
この中で、僕の本は伊勢崎市の竜宮伝説で紹介されました。
<群馬在住のフリーライター小暮淳さんの著書 「ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台」(ちいきしんぶん) によると……>
という書き出しで、海なし県に伝わる浦島太郎の伝説を紹介しています。
「朝日ぐんま」 からは昨年暮れ、事前に掲載許可を求める電話をいただいていました。
ありがたい話です。
しかも新年早々の5日、しかも干支にまつわる記事に拙著が引用されるなんて、めでたいではありませんか!
この記事を読んだ人が、地元の民話に興味を持ってくださったら著者としても願ったり叶ったりであります。
こいつぁ~、春から縁起がいいわいの~!
記者さん、ありがとうございました。
2023年08月18日
想定以上の装幀
【以心伝心 (いしんでんしん)】
口に出して説明しなくても、心が自然によく通じ合うこと。もとは、禅宗における悟りの極意を教えるのに、言語や文字によらず、直接に師の心から弟子の心に伝えることをいう。
(旺文社 『四字熟語新辞典』 より)
僕は今までに十数冊の著書を出版してきました。
エッセイ、絵本、温泉、登山、民話……
それらの本には、すべて “顔” があります。
表紙です。
業界では、表紙や裏表紙、カバー、帯を含めて、表紙まわりのデザインのことを装幀 (装丁) と呼びます。
これらは装幀デザイナーの仕事です。
もちろん僕はデザインの素人ですから、一切口を出しません。
その時々の編集者やデザイナーに、お任せしています。
ざっと今までの著書を見比べてみると、写真あり、イラストあり、地紋などもありました。
それなりに愛着があり、手に取ると、取材や執筆中の苦労までもが、ありありと思い出されます。
僕にとっては一冊一冊が、記念碑のような存在です。
先日、今秋出版予定の最新刊の装幀デザイン案があがってきました。
A案とB案
手に取って、ハッとしました。
「なぜ、分かったんだろう?」
A案とB案は、よく似ています。
ほぼほぼ同じデザインです。
違うのは、文字の書体や微妙な配置のみ。
「どちらもいい……、でも、なんで分かったんだろう?」
装幀デザインを担当してくれたK氏は、僕の過去の温泉シリーズを手掛けた旧知のデザイナーです。
自らもイラストを手掛け、その都度のテーマにより変幻自在にデザインを操ってきました。
でも、今回は今までと制作方法が異なります。
まず、イメージを指示する編集者がいません。
(発行者と著者のみで制作を進めています)
また、著者からの希望やアイデアも告げていません。
何よりも今回の著書には、今までと決定的に異なる点があります。
それは、完全なる “随筆集” であるということ。
ということで、写真やイラストは一切ありません。
全ページ文字のみ。
いうなれば、温泉ライター小暮淳の集大成。
温泉についてのうんちくから取材で拾ったエピソードだけを、ただひたすらに綴った温泉大全であります。
よって装幀は、すべてイメージということになります。
本の内容もさることながら、著者の人となりについても知り得なければ、イメージすることはできません。
プレゼンされたA案とB案は、ともに完璧なものでした。
長年、仕事を共にして、小暮淳という人間を知り尽くした者だからこそ、発想することができたデザインだと言えます。
まさに、以心伝心。
恐るべし、K氏!
ただただ、僕は驚いています。
今から書店に並ぶ光景を想像して、ニヤニヤしています。
2023年05月29日
今日は何の日?④
今日は5月29日です。
何の日か、ご存知ですか?
「こんにゃくの日」 なんですってね。
「こ(5)んに(2)ゃく(9)」 の語呂合わせのようです。
全国こんにゃく協同組合連合会と一般財団法人日本こんにゃく協会が、1989年に制定しました。
“こんにゃく” と言えば、下仁田名産であります。
われわれ群馬県人には、「上毛かるた」 の札でお馴染みです。
『ねぎとこんにゃく 下仁田名産』
僕は2018年に出版した 『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん) の中で、「下仁田ネギのルーツを追って」 と題して、なぜ下仁田ネギは 「上毛かるた」 に描かれなかったのか? その謎解きをしました。
でも僕は、それ以前の2014年に出版された 『下仁田ねぎの本』(上毛新聞社) という本の取材・編集をしています。
この本の中で、すでに下仁田ねぎの歴史をたどり、由来となるルーツにたどり着いています。
取材で印象的だったのは、下仁田町の人たちの 「ねぎ」 と 「こんにゃく」 に対するこだわりと愛情の深さでした。
たとえば、料理!
常に、ねぎとこんにゃくがメインなんであります。
「すき焼き」 の主役が、ネギなんですね。
あくまでも牛肉は脇役で、相棒をこんにゃく (しらたき) が務めます。
また、こんにゃく尽くしのフルコースなんていうのも食べました。
オードブルからメイン、デザートに至るまで、すべての食材がこんにゃくでした。
味もさることながら、この徹底ぶりに感服いたしました。
ということで、今夜はこんにゃくを肴に一杯やりたいと思います。
やっぱり冷酒には、「刺身こんにゃく」 ですかね?
ところで今日5月29日には、こんな記念日もありました。
●呉服の日 「ご(5)ふ(2)く(9)」
●幸福の日 「こ(5)うふ(2)く(9)」
●エスニックの日 「エス(5がSに似てるから)ニ(2)ック(9)」
ちょっと苦しいこじつけもありますが、読めないこともありません。
みなさんも探してみてください。
今日は何の日?
2023年05月14日
装丁会議
毎度、比喩的な表現で恐縮です。
僕は、本の出版は “山登り” に似ていると思っています。
原稿を書いている期間が、登山 (上り) です。
原稿がそろった時点が、山頂 (登頂)。
編集者やデザイナーを交えて、書籍の制作が始まった時点で、下山 (下り) となります。
よって、完成 (出版) は、下山後に制覇した山を仰ぎ見た瞬間に似ていると思うのです。
今年になってから、たびたびブログでも新刊の進捗状況を報告してきました。
1月、まだ原稿は全部そろってはいませんでした。
だから登頂前の八合目あたりに居ると記しました。
(2023年1月6日 「ただ今、八合目」 参照)
4月、すべての原稿がそろい、山頂に居ることを報告。
(2023年4月2日 「『あとがき』 によせて」 参照)
その後、出版関係者と打ち合わせをくり返し、ページ割を行い、本文デザインが仕上がり、着実に下山を続けてきました。
ただ、各人の諸事情もあり作業が遅れ、当初の予定であった今春の発売には間に合いませんでした。
ゴールデンウィーク明け、これまでの遅れを取り戻そうと、出版元の会議室に関係者が集まりました。
いよいよ、本の顔である装丁デザイン案であります。
本文の紙質を決めるとともに、表紙、扉、カバーなどの紙質や色が決められました。
そして肝心要の装丁デザインでは、いくつも意見が出ましたが結果、過去にも数々の僕の著書を手掛けているチーフデザイナーのKさんに、一任することになりました。
さて、どんなデザインが出てくるのでしょうか?
著者としては、提案されるまでのワクワクドキドキ感を楽しみたいと思います。
次回、関係者が集まるのは、帯会議です。
これまた、本の売り上げを左右する大事な会議であります。
読者の皆様、もうしばらくお待ちください。
制作が遅れてはいますが、確実に進んでいます。
夏には、出版されるかな?
著者も一緒に待ちたいと思います。
2023年05月11日
「高崎版 ロミオとジュリエット」 を朗読
人の縁とは、不思議なものです。
読者のみなさんは、昨年暮れのこんな話を覚えていますか?
20年以上前に自費で出版した僕の本に偶然出合い、その後、読者となり、仕事で僕の本を朗読したいという申し出が、ラジオパーソナリティーからあったという話です。
(当ブログの2022年12月31日 「こいつぁ~、暮れから縁起がいいわい!」 参照)
彼女の名前は、藤弓真千さん。
フリーナレーターです。
朗読(リーディング) の仕事をしています。
そんな彼女がパーソナリティーを務めるラジオ番組で、今年4月から僕の本の朗読が始まりました。
インターネットラジオ放送局 「ゆめのたね」
東日本第1チャンネルの 『喜ばせ屋の言の葉レシピ』
毎週月曜日 9:00~9:30
ネットラジオが不慣れな方のために、アクセス方法を明記いたします。
① 「ゆめのたね ラジオ」 で検索
② 東日本第1チャンネルをクリック
③ 番組表の月曜日、9:00~9:30をクリック
④ 藤弓真千さんの番組 『喜ばせ屋の言の葉レシピ』 が表示されます
朗読してくださっているのは、『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん) です。
先月は第1話 「木部姫伝説」 でした。
そして今月は、第2話の 「佐野の舟橋」 の朗読が始まりました。
「佐野の舟橋」 は、高崎市内を流れる烏川に架かる橋にまつわる悲恋話です。
川を挟んで東の佐野に 「朝日の長者」、西の片岡には 「夕日の長者」 と呼ばれる屋敷がありました。
互いの長者には、那美という美しい娘と小次郎という凛々しい息子がいました。
2人は出会い、恋に落ちますが、互いの親は仲が悪く、恋路の邪魔をします。
ある夜のこと、必死の思いで屋敷を抜け出した那美と小次郎。
ところが、2人を待ち受けていたものとは……
まるで、シェークスピアの名作 『ロミオとジュリエット』 のような話です。
ということで、僕は 「高崎版 ロミオとジュリエット」 とタイトルを付けました。
この話を、藤弓さんは、感情をこめた素晴らしい朗読をしてくださっています。
ありがとうございます。
著者として、この上ない喜びであります。
ぜひ、月曜日午前9時からの 『喜ばせ屋の言の葉レシピ』 を聴いてみてください。
2023年04月10日
ラジオから届いた言の葉プレゼント
読者のみなさんは、覚えていますか?
昨年暮れ、突然、フリーのアナウンサーを名乗る女性から電話をもらった話を?
※(当ブログの2022年12月30日 「こいつぁ~、暮れから縁起がいいわい!」 参照)
彼女の名前は、藤弓真千さん。
群馬県在住のフリーナレーターです。
主に、小説やエッセイなどの朗読 (リーディング) をされている方です。
あれから3カ月。
彼女とは何度か電話とメールで、やり取りをしました。
そして、ついに今月から彼女の番組で、僕の本の朗読が始まりました。
インターネットラジオ放送局 「ゆめのたね」
東日本第1チャンネルの 『喜ばせ屋の言の葉レシピ』
毎週月曜日 9:00~9:30 (第2・4は再放送)
今回、朗読してくださったのは、『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』 (ちいきしんぶん) の中から、「まえがき」 と 「木部姫伝説」 の一部でした。
いゃ~、不思議なものです!
自分の文章を知らない人の声で聴くと、なんだか自分で書いた文章ではないような気持ちになります。
でも、思ったよりも案外、心地いいんですよ。
いつもは目で読んでいる文章を、耳で聴いてみると、まるで別物です。
きっと、読み手のテクニックなんでしょうね。
僕の稚拙な文章が、大作家先生の名著のように聴こえてきますもの。
藤弓真千さん、ありがとうござます。
今後ともよろしくお願いいたします。
2023年04月02日
「あとがき」 によせて
僕は、たびたびブログの中で、「本の出版は山登りに似ている」 と形容してきました。
企画から始まり、先方のアポ取りまでは、旅支度。
取材を重ね、原稿を書く工程は、登山です。
すべての原稿がそろった時点が、登頂となります。
でも、山頂に立っただけでは、本は出来上がりません。
ここから、肝心要の編集と制作が始まります。
下山です。
編集担当者とデザイナーと著者の “三人四脚” で、足元に注意しながら、コツコツと地道な作業を続けます。
推こう、校正をくり返し、ページ割やレイアウトへと進みます。
そして、下山直前の最後の大仕事、表紙まわりの装丁デザインが待っています。
何パターンもサンプルを出してもらい、関係者を集め、選考会議にて決定します。
そこからは、印刷→製本→納品をたどり、その後、書店へと配送されます。
この時点で、下山が完了します。
登山口に下りて、登ってきた山を振り返り見たときの達成感といったらありません。
それが、手元に本が届いたときであります。
で、この例えは、「書き下ろし」 の場合です。
これが、すでに連載された記事を集めた本の出版となると、工程が少し異なります。
とりあえず原稿はそろっているわけですから、登山で言えば、八合目からのスタートとなります。
僕は過去に、このパターンの著書を2冊、出版しています。
『ぐんまの里山 てくてく歩き』(上毛新聞社) と 『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん) です。
ともに一度記事になった原稿に、加筆・訂正を加え、新たな書下ろしを追加して、出版しました。
現在僕は、温泉ライターとしての集大成ともいえる温泉本の制作にかかっています。
今までに新聞や雑誌に連載してきたコラムやエッセーを一堂に集め、ジャンル別・温泉地別に分類しました。
その数、100話!
いわば 「群馬温泉大全」 と、いえるかもしれません。
現在僕は、山頂に立っています。
チェックした100話、すべての原稿が出そろいました。
そして、ついに昨日、最後の原稿となる 「あとがき」 を書き上げました。
ここからは、下山あるのみ。
チームワークの勝負です。
あせらず、ゆっくりと、着実に作業を進めたいと思います。
読者のみなさん、もう少し、お待ちください。
登山口まで下りましたら、また報告いたします。
2023年03月29日
温泉本、入荷しました。
僕は今までに、9冊の温泉関連本を出版しています。
すべて群馬県内の温泉地です。
内訳は、以下のようによります。
①全県本
『ぐんまの源泉一軒宿』 や 『群馬の小さな温泉』 など、群馬県全域に点在する一軒宿や小さな温泉地を集めた本です。
②エリア本
『みなかみ18湯』 や 『西上州の薬湯』 など、特定のエリア内にある温泉地を紹介した本です。
③温泉地本
『あなたに教えたい四万温泉』 や 『金銀名湯 伊香保温泉』 のように、1つの温泉地の全宿を徹底取材した本です。
これらの本は、書店で販売されているため、著者自らが在庫を所有することはありませんでした。
よって講演会やイベントなどで販売する本は、その他の自費出版本などがメインでした。
ところが最近、イベントに訪れた人たちから 「温泉の本はないのですか?」 との声が、多く聞かれるようになりました。
その都度、申し訳ない気持ちで 「書店でお買い求めください」 と答えるしかありませんでした。
せっかく来ていただいたのに、著者としては心苦しいばかりです。
イベント会場の販売スペースには限りがあり、温泉本すべてを用意することは不可能です。
でも少しでも読者の要望に応えたい!
という切なる願いから出版元に相談したところ、出荷してくださることになりました。
ということで現在、僕の手元には3冊の温泉本の在庫があります。
『尾瀬の里湯』 『西上州の薬湯』 『金銀名湯 伊香保温泉』
次回、4月9日(日) に伊勢崎神社で開催する 「神社かみしばい」 の会場より販売いたします。
もちろん、サインもいたします。
ご来場、お待ちしております。
2023年03月24日
本は買ってください
僕の職業は、ライターです。
日本語で分かりやすく表記するなら、“売文業” であります。
読んで字のごとく、文章を売ることを生業としています。
収入源は、大きく分けて2つ。
新聞や雑誌などに寄稿、連載をした「原稿料」 と、書き下ろした著書の 「印税」 です。
(連載が書籍として出版されることもあります)
「印税」 と聞くと、誰もが必ず口にする言葉があります。
「よっ、夢の印税生活!」
でも、文字通り、そんなことは “夢” であります。
いや、シビアに言うなら、夢のまた夢です。
その夢がかなう人は、出版界でも、ほんの一つまみ。
何百万部と売れるベストセラー作家だけです。
印税は、本体価格の数~十数%ですから、たかが知れています。
しかも無名な作家ならば、初版は数千冊の印刷がいいところです。
たとえ増刷されて、数万冊売れてたところで……(計算してみてください)
その作り上げるまでの手間ひまを時給で計算してみると、よっぽどコンビニでアルバイトをしたほうが収入になります。
だから著者にとって著書は、血と汗と涙の結晶であり、一冊でも多く売れてほしいのです。
「小暮さんの新刊、さっそく図書館にリクエストしました」
以前、そんなコメントを読者からいただいたことがありました。
ありがたいことです。
嬉しいんですよ。
でもね、本音を言えば、「書店で買ってよ~」 なんであります。
確かに、図書館が購入すれば、そこで1冊分の印税は著者に入ります。
でも、その後、何人に読まれても1円も入っては来ないのです。
「ブックオフで買いました」
という人もいます。
こちらも図書館同様、本を買って手放した人の印税は入りますが、その後に古書店で買っていただいても入っては来ません。
ま、僕も図書館と古書店は、よく利用していますから、大きな声で文句は言えませんけどね。
利用する側と本を出版する側では、立場が変わってくるということです。
えー、読者のみなさんに、お願いがあります。
図書館で借りていただいても、古書店で買っていただいても、読んでいただければ著者は大変うれしいのです。
もー、そりゃあ~、感謝以外の何ものでもありません。
が、もし、少しでも慈悲の心がおありでしたら、新刊を書店にて、お買い上げください。
そのことにより、我が家の夕飯のおかずが一品、増えるかもしれないのであります。
わがままなお願いであることは、重々承知しております。
そのうえで、お願い申し上げます。
どうか、恵まれない売文業者を助けると思って、本は新刊を買ってくださ~い!m(__)m
2023年01月08日
なぜ今 『ヨー!サイゴン』 なのか?
「今日、小暮さんに会えるというので、改めて 『ヨー!サイゴン』 を読み返してきました」
Tさんにお会いすると開口一番、そう言われました。
Tさんは70代前半の男性。
現在は定年退職され、悠々自適な生活をされています。
『ヨー!サイゴン』 とは、24年前に僕が自費出版したベトナム旅行記です。
なぜか今になって、この本が、たびたび話題に上がります。
昨年暮れにも、某アナウンサーとの電話で、この本が話題になりました。
※(当ブログの2022年12月30日 「こいつぁ~、暮れから縁起がいいわい!」 参照)
「コロナが終息したら、ベトナムへ行こうと思います。ぜひ現地で、生のアオザイを見てみたくなりました」
アオザイとは、ベトナム女性の民族衣装です。
僕は著書の中で、こう記しています。
<アオザイは完全オーダーメイドである。バスト、ウエスト、ヒップ以外にも、数十箇所を採寸して作られる。体のラインおよび下着のラインまでもシルエットとして強調されるこの衣装は、余程のボディラインの持ち主でなければ着こなせない。>
「いゃ~、読んでいて興奮しました。絶対にベトナムへ行きます!」
Tさんは定年退職後、日本語教師の資格を取り、60代は中国へ渡り、日本語学校で働いていました。
「私の人生はね、クソみたいな60年間だったんですよ。ただ生活のために働き、上司に頭を下げ続けた人生でした。『いつか辞めてやる』 と、いつも思って生きていましたが、ついに定年まで勇気がなかった」
そして、こうも言います。
「こんな意気地なしの自分と、残りの人生を過ごすのかと思ったら死にたくなったんです。でも、そこで初めて気づいたんですよ。死ぬくらいなら、もう一度、人生をやり直してみようって。だから家族に反対されても、中国へ行ったんです」
70歳を前に帰国。
また、「元のありふれた毎日が戻ってきてしまった」 といいます。
そんな時、知人に誘われ入った居酒屋で、僕の本と出合ったといいます。
「読み返して、改めて思いました。実によくできている小説です」
「これはエッセイですよ!」
「いや、私は小説として読みました。特にラストシーンが素敵です」
「ラストシーン?」
すでに書いた本人は忘れています。
「プンさんとの別れのシーンですよ」
「プンさんって、誰でしたっけ? ……ああ、見送りに来た旅行会社の女性ね」
おぼろげに、最後の場面を思い出しました。
「出迎えてくれた時はTシャツとジーパンだったのに、見送りの時はアオザイを着ていたんですよね。あのシーン、グッときました」
<今日は目が覚めるような鮮やかなブルーのアオザイを着ている。入国初日に出迎えてくれたときは、確かTシャツとジーンズ姿だった。その気配りに感謝するとともに、つくづくアオザイという衣装は女性をより美しく引き立てる魔法の衣装だと思った。今日のプンさんは、あの日の百倍は美しい。>
Tさんは、ビールのグラスを手に取り、かかげました。
「ヨー!」
ベトナム語で “乾杯” のことです。
「ヨー! 今年もよろしくお願いします」
と僕も応えました。
『ヨー!サイゴン』 (でくの房/500円) は、一般書店では販売されていません。
毎月、伊勢崎市で開催している 「神社かみしばい」 の会場にて、販売しています。
ご希望の方は、ぜひ伊勢崎神社へお越しください。
今月の開催は、22日(日) です。
2023年01月06日
ただ今、八合目!
山登りをする人なら分かると思いますが、登頂した瞬間よりも、下山後に振り返り、たった今登ってきた山の全景を仰ぎ見た時のほうが、感慨は無量になります。
登頂は行程の途中であり、下山後にこそ制覇の喜びを味わえるものだからです。
以前から僕は、 “本の出版は登山に似ている” と言い続けています。
また新たな出版という、長い長い山登りが始まりました。
取材をして、文章を書き、原稿にする。
ここまでが登山でいえば、山頂を目指す上りです。
原稿が出そろった時点が、登頂といえます。
現在、僕は八合目付近にいます。
もう、ひと息で原稿がそろい、山頂に立てるところまで来ています。
でも登山は上りよりも、下りのほうが慎重になります。
危険も伴いますから、ここからはチームプレーとなります。
足元を確かめながら、声を掛け合い、ルートを間違えないように、細心の注意を図ります。
ということで昨日、第1回目の出版会議が開かれました。
いわば、登頂前に下山ルートの確認を始めたことになります。
何ページになるのか?
本文は何章に分けるのか?
どのようなページ割になるのか?
グラビアは付けるのか?
まだ今の段階では、そこまでです。
すべての原稿がそろった時点で、タイトルや装丁、帯コピーの制作に入ります。
早くも活気が沸いてきました。
ワクワク、ドキドキする新年のスタートです。
春かな? 夏かな?
順調に進めば、そんなに待たずに、読者のみなさんのもとへ届けられると思います。
がんばります!
2022年12月30日
こいつぁ~、暮れから縁起がいいわい!
「『ヨー!サイゴン』 から読んでます」
「えっ!」
開口一番の、その言葉に絶句しました。
暮れも押し詰まった一昨日、突然、フリーのアナウンサーを名乗る女性から電話がありました。
なんでも東京のラジオ番組で、僕の著書や僕のことを紹介したいのだと言います。
もちろん快諾したのですが、その読書歴に驚きました。
『ヨー!サイゴン』 とは、僕が平成11 (1999) 年に自費出版した紀行エッセイです。
自費出版ですからね、書店では販売されませんでした。
友人知人および親類縁者に配ったり、イベント等で販売したくらいのものです。
そんな本を、なんで彼女は持っているのだろうか?
「20年以上前に出した本ですよ? しかも自費出版です。どうして、お持ちなんですか?」
僕の驚きに対して、アナウンサーらしく筋道を追って、丁寧に話してくれました。
『ヨー!サイゴン』 は、僕と友人である画家の久保繁とのベトナム珍道中を、面白おかしくつづった旅行記であります。
帰国後、彼の個展に合わせて僕が書き下ろし、本にして、販売しました。
彼女の話によれば、僕の本との出合いは、それ以降に開催された久保繁の個展会場だったそうです。
たまたま入った会場で、彼の絵画を見て一目惚れし、即日、購入したとのこと。
その時、粗品 (?) として、僕の著書をもらったようです。
「素晴らしい本だったので、著者名を覚えていたんです」
と、その後に出版した僕の温泉本や民話本も購入してくださっているとのことでした。
いゃ~、正直、感動しました。
23年も前に書いた本をですよ!
しかも流通に乗らない、超マニアックなレア本であります。
どこで誰が読んでいるか、分からないものですね。
たった一本の問い合わせ電話です。
本来なら承諾返事だけで終わる内容なのに、思わず長電話をしてしまいました。
お電話いただき、ありがとうございました。
ライター冥利に尽きる知らせでした。
こいつぁ~、暮れから縁起がいいわいの~!
来年の展開が、とても楽しみになりました。
2022年11月26日
落款は楽観の印
「あっ、これ、見たことあります」
先日の講演会終了後のこと。
著書にサインを求められ、いつものように応じていた時でした。
僕は必ず、サインの下に似顔絵のスタンプを押しています。
書家や画家が作品に押印する落款(らっかん) とは、ちょっと違うんです。
そんな大それたものではありません。
だって似顔絵ですからね。
クスッと笑っていただければ、というサービス精神から押しています。
でも、この似顔絵、けっこう人気があるんですよ。
もちろん僕の名刺にも印刷されていますが、僕が代表理事を務めるNPO法人 「湯治乃邑(むら)」 のマークにもなっています。
でも、講演会で 「見たことある」 と言った方は、高崎市在住だったのでしょうね。
高崎市のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 に、『小暮淳のはつらつ温泉』 というコラムを連載しています。
このコラムのタイトル下には毎回、僕が温泉に入っているスタンプと同じ似顔絵が描かれています。
だから高崎市在住の読者なら、見たことがあるはずなんです。
サインを求められた方は、大変よろこんでくださり、「家宝にします」 とまで言ってくださいました。
実は、このイラストは11年前のコンテストから誕生した作品なんです。
「小暮淳キャラクターデザインコンテスト」 なるイベントが、地元の出版業界内で開催されました。
その時のグランプリ作品が、この似顔絵でした。
作者は、その後、僕の温泉本の装幀を手がけることになったデザイナーの栗原俊文氏です。
彼は、拙著 『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』 の、あの妖怪変化の表紙画を描いてくれたイラストレーターでもあります。
そんなわけで、サインを求められるであろう講演やセミナーの時は、このゴム印を持ち歩いています。
先日も講演会の主催者スタッフの女性が、駐車場まで追いかけて来て、こんなことを言いました。
「先生のサインを拝見しました。かわいいですね。ぜひ、私の本にもサインしてください」
いいですね。
たかがサインなのに、初めて会った人をほっこりさせるなんて!
これも、ひとえに栗原氏の画力の賜物であります。
才能に感謝!
ということで、僕のサインに押されているのは “落款” ではなく、「物事の成り行きが、うまく行きますように」 と願う “楽観” なのであります。
出会った人すべてに、福が来ますように!
2022年06月13日
読者様は神様です
数年前のさる会合の席でのこと。
年配の男性に声をかけられました。
「私は小暮さんの文章が好きでしてね。表現がいい」
唐突に褒められると、こちらも構えてしまいます。
「はっ? ……ああ、ありがとうございます」
とりあえず、お礼を言いました。
すると男性は、なんと20年以上前に書いた処女エッセーのタイトルを言いました。
それ自体が驚きだったのですが、さらに男性はエッセーの中の一節をそらんじました。
「『小さな雨が降っていた』、あの表現は感動しました」
そう言われても、書いた本人が忘れています。
後で読み返してみると、その言葉が収録されているのは、女子少年院をルポした章でした。
重苦しい取材を終えて、建物の外へ出た時の描写です。
「読んでいて、“小さな雨” が見えたもの。“小雨” ではなかった」
御見それしました!
著者が気づいていない所に、読者は気づいていたんですね。
深い! 深すぎる!
ピーンと背筋が伸びた瞬間でした。
これは、さる講演会でのこと。
講演終了後、何人かの著書を持参した読者に、サインをしている時でした。
30代とおぼしき男性は、手にしたバッグを開けて、中を見せてくれました。
おったまげーーー!!!
ビッシリと僕の著書で埋まっています。
「すごいね」
「ええ、全部持っています」
そして、こんなことを言いました。
「先生の本には、たびたび同じ温泉宿が出てきます。その宿を見つけて、読み比べるのが好きなんです」
ゲッ、マニアック~!
そんな読み方をしているの?
読者の深層心理とは、複雑で奥が深いものですね。
これまた、ピーンと背筋が伸びてしまいました。
いやはや、なんとも、著者冥利に尽きるエピソードではあります。
ただただ、感謝!
そして、読者様は神様です。