温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2024年10月23日

円相 ~たかが丸、されど丸~


 あまり人気がないのでしょうか?
 平日の夕方ということもありましたが、上映5分前だというのに劇場に観客は、ポツンと僕一人だけ……
 「こりゃいい、ひとり占めじゃないか!」
 と客席の中央でデーンと大股開きで、くつろいでいると、上映ギリギリになって、若い女性が一人入って来て、一番後ろの席にポツネンと座りました。

 ふたり占めも悪くありません。


 映画 『まる』 を観てきました。


 地味な作品なので賛否分かれるかもしれませんが、僕は嫌いじゃありませんね。
 地味だけどキャストが、いいんです。

 主人公を演じる堂本剛の隣人を綾野剛、アパートの大家を濱田マリ。
 そして脇を、柄本明、吉田鋼太郎、片桐はいり、小林聡美らのベテランが固めます。
 だから堂本剛と綾野剛のドタバタ劇も、安心して観ていられるんですね。


 こんなストーリーです。

 美大卒だがアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをしている男・沢田。
 ある日、通勤途中に事故に遭い、腕のケガが原因で職を失ってしまいます。
 部屋に帰ると、アリが一匹。
 そのアリに導かれるように描いた○ (まる) が知らぬ間にSNSで拡散され、正体不明のアーティスト 「さわだ」 として一躍有名になってしまいます。

 そして、彼の絵は、「さわだの円相」 として美術館に展示されるほどのブームを起こします。


 「円相」 とは、禅における書画の一つ。
 図形の丸 (円形) を、一筆で描いたものです。
 「円」 は丸くて角がなく、終わりも始まりもない形。

 最高の悟りをあらわす究極の形なんですね。
 
 沢田は現代美術界の寵児として、もてはやされます。
 しかし、一方では、 
 「ただの丸じゃねーか!」
 「誰だって描けるよ」
 と否定派も多く、ついにはネット上には “偽さわだ” が何人も現れ、世の中は 「まる」 だらけになります。


 僕なんて、ちょっと身につまされてしまうわけです。
 “創作” に手に染めた者は、必ずや通る “真偽” との葛藤です。

 それは本物か? 偽物か?
 自分は本物か? 偽物か?


 創作や表現に携わっている人には、観ていただきたい映画です。
 (監督・脚本は、『かもめ食堂』 『彼らが本気で編むときは、』 の荻上直子監督) 
  


Posted by 小暮 淳 at 11:55Comments(0)シネマライフ

2024年09月25日

便利×お得=ZERO


 過日観た映画 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 の中で、突然、群馬県庁の昭和庁舎が出てきてビックリしました。
 なんだか近年、やたらと映画やドラマの舞台に群馬県内が登場すると思いませんか?

 テレビ局や制作会社が集まる東京から近いという利便性が大きいと思いますが、それだけではないようですね。
 いわゆるフィルム・コミッショナーという撮影を支援する団体の熱心な誘致活動の賜物のようです。

 今話題の映画 『ラストマイル』 にも、見知った群馬の風景が出てくるというので、遅ればせながら劇場へ足を運んで来ました。


 開始早々、いきなり見たことのある風景が!
 あれ、どこだっけかな?
 あ、遠くに榛名山が見えるじゃんか!
 そーだよ、そうそう、高崎市の 「Gメッセ群馬」 であります。

 主人公の満島ひかりさんと岡田将生さんが出会い、階段を上るシーンは、1階のエントランスホールです。
 そして、多くの派遣社員が出勤するシーンは、2階の展示ホールコンコース。

 行ったことあるぞ! 見たことあるぞ!
 と、テンション上げ上げで画面に釘付けになりました。


 脚本は野木亜紀子さん、監督は演出家の塚原あゆ子さん。
 2人が手掛けたTBSドラマ 『アンナチュラル』 『MIU404』 と同じ世界線上で物語が展開する作品として、話題を呼んでいるのだそうです。
 でも僕は、どちらのドラマも見ていないので、逆に純粋に作品を楽しめたかもしれませんね。

 物語は、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が次々と爆発するサスペンスです。
 なぜ、狙われたのか?
 犯人の目的は何なのか?

 次第に謎が明かされていくのですが、僕は終始、腑に落ちない何かを感じていました。


 僕はスマホも持たず、ネットショッピングもしません。
 だからでしょうね、現代の物流と配送の世界が、こんなにも “便利” と “お得” の 「お客さまファースト」 に振り回されていることを知りませんでした。
 スクリーンに映し出される物流倉庫の中の風景は、まるで未来の世界でした。
 コンピューター制御により、次々が商品がベルトコンベアーの上を流れていきます。
 1秒の遅れが、何十万、何百万、何千万の損失になるといいます。

 でも、これが令和の今の現状なんですね。


 恐ろしい映画です。
 人間を人間として雇用しない世界
 血が通っていない人間関係に、だれもが疲れ切っている社会

 人と人が手渡しで物を売り買いしていた昭和の商店街の、なんと温かかったことか……

 令和人のみなさん!
 そろそろ、便利とお得な世の中に、ノーって言いませんか!?
  


Posted by 小暮 淳 at 12:18Comments(0)シネマライフ

2024年09月08日

殺人鬼のクンクン


 コミックが原作だったんですね。
 知りませんでした。

 映画 『夏目アラタの結婚』 を観てきました。


 観に行った理由は、主演が黒島結菜ちゃんだったからです。
 地味な子ですが、演技はしっかりしています。
 テレビドラマ 『行列の女神 ~らーめん才遊記~』 を観てからの推しであります。


 さて、今回の映画ですが、終始 “におい” を感じる不思議な感覚がありました。
 黒島結菜ちゃん演じる殺人鬼の 「品川ピエロ」 こと品川真珠は、いつでもどこでもクンクンと鼻を鳴らしています。

 これって、伏線だっんですね。


 ストーリーは、ホラーから始まり、サスペンスの装いで展開し、なーんだ最後はラブロマンスかよ!?
 と、少々ガッカリしながらエンディングロールを眺めていました。

 ところが!
 してやられました!


 ネタバレになってしまうので、これ以上のことは書けませんが、本当のラストで、すべての謎は解けます。
 ので、最後の最後まで気を抜かず、席を立たないで観てくださいね。

 これから観る方は、オープニングから何度も映し出される 「X」(エックス) の文様に注意しながら、ご覧ください。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:10Comments(0)シネマライフ

2024年08月04日

己に期待せよ!


 「マジ、キモいんだけど~」
 と、次女にドン引きされてしまいました。

 素直に、女優の浜辺美波ちゃんに対する気持ちを伝えただけなのにね。
 「大好き」 って。
 すると次女は、
 「ほぼ私と同い年だからね。気色悪すぎる~」
 だって。

 まあ、娘としては素直な気持ちだろうと思いますが、父としてではなく、一人の男として素直な気持ちを述べただけなんですけどね。


 ということで、彼女が出演している話題の映画を観てきました。
 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』

 予告等で、なんとなくストーリーは知ってましたけどね。
 予想していた以上に楽しめました。


 舞台設定は2020年のコロナ禍。
 内閣にクラスターが起こり、現職の総理大臣が死亡。
 そこでAIにより生成された偉人たちを集めた1年間限定の内閣が発足されます。
 その名も 「偉人ジャーズ」。

 総理大臣の徳川家康を筆頭に、官房長官は坂本龍馬、経済大臣は織田信長、財務大臣は豊臣秀吉、といった具合。
 さらに時代に関係なく、聖徳太子や紫式部、北条政子などバラエティー豊かな面々が揃います。


 まぁ、織田信長役のGACKTさんが、カッコよかったですね。
 『翔んで埼玉』 ばりの派手さでした。

 赤楚衛二さんの坂本龍馬は、ちょっとカッコよすぎ?
 龍馬史上、一番のイケメンでは?


 やはり圧巻は、豊臣秀吉の竹中直人さんと、徳川家康の野村萬斎さんの演技でしょうな。
 ラスト20分間、息を呑む舌戦がくり広げられます。
 ネタバレになってしまうので、内容は語れませんが、胸を打たれました。

 令和の現代人、特に政治家には、耳をかっぼじって聴いていただきたい演説です。


 で、個人的に僕の心に響いたフレーズがあります。
 坂本龍馬が、テレビ局の記者である浜辺美波ちゃんに向かって言ったセリフです。

 「己に期待せよ!」

 たぶん、記者に対して 「本当のことを伝えよ」 という意味で言ったのだと思いますが、この言葉が、後々まで余韻を残します。
 ラストシーンでも、徳川家康が同じこの言葉をくり返します。

 「己に期待せよ!」


 他人は自分ほど自分のためには動かない。
 環境も都合のよいようには変わらない。

 僕は、そう解釈しました。
 信じるべきは、己であると!


 まだの人は、ぜひ、この夏に劇場へ。
 前より自分のことを好きになれるかもしれません。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:28Comments(0)シネマライフ

2024年05月06日

そのとき鹿はどこへ行く


 『ドライブ・マイ・カー』 は、観てないんですけどね。
 濱口竜介監督がテレビ番組か何かで、自身の作品のことを、こんなふうに言っていたんですよ。

 「1回では分からないけど、3回観たら分かる映画だと言われた」


 ああ、『怪物』 (是枝裕和監督) みたいな映画なのかな?
 でも監督自身が言うのも変だなって……。
 だったら、この目と心で観てから判断しよう!

 ということになり、『悪は存在しない』 を観てきました。


 <長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚染しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。> (チラシより)


 チラシには、こんなコピーが添えられています。
 《これは、君の話になる》
 《観る者誰もが無関係でいられない、心を揺さぶる物語》

 実際、映画を観ていて感じたのは、終始 「誰かに見られている」 ような感覚です。
 長まわしのカメラワークのせいかもしれませんが、ときどき、「あっ?」 という映像が入ります。

 「今のシーンって、誰から目線なの?」


 映画は、観た人のものです。
 監督が何を言いたいかを見つけ出すものではありません。
 素直に観たままを感じればいいわけです。

 だとすれば、僕が感じた “目線” は、自然だったのかもしれません。


 巧は東京からやって来た芸能事務所の社員に、こう言います。
 「あそこは鹿の通り道だ」

 もしグランピング場ができれば……

 「そのとき鹿はどこへ行く?」


 この言葉が、小骨のように心のどこかに刺さったまま、映画はクライマックスを迎えます。
 そして、あの衝撃的なラストシーンは、観る者の度肝を抜きます。
 途方もない余韻に包まれて、終演後、しばし席を立ちあがることができませんでした。

 文句なしに、面白かった!



 ●第80回ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(審査員グランプリ)/国際批評家連盟賞
 ●第67回BFIロンドン映画祭 最優秀作品賞
 ●第16回アジア太平洋映画祭 審査員特別賞
 ●第15回ウランバートル国際映画祭 観客賞
 ●第28回ケララ国際映画祭 最優秀作品賞
   


Posted by 小暮 淳 at 12:00Comments(2)シネマライフ

2024年04月06日

19歳のユーカラ ~SONGS of KAMUI~


 涙が止まりません。

 上映開始から2時間20分間。
 あふれ出る涙のしずく。
 そして、頬を伝う自分の涙が、温かいと感じました。


 遅ればせながら、映画 『カムイのうた』 (監督・脚本/菅原浩志) を観てきました。


 すべてにカムイ (神) が宿ると信じ、北海道の厳しくも豊かな自然と共存してきたアイヌ民族。
 この物語は、差別と迫害に満ちた民族の史実の歴史です。

 知里 幸惠 (ちり・ゆきえ)
 明治36(1903)年生まれ。北海道登別市出身。
 アイヌ民族である両親の間に生まれる。
 6歳で旭川市内のコタン (集落) に住む伯母のもとに引き取られ、尋常小学校に通う。

 15歳の時、伯母を訪ねて来た言語学者の金田一京助と出会う。
 アイヌ民族の文化を研究していた金田一は、アイヌの口承文学であるユーカラ (叙情詩) を後世に残すため、アイヌ語と日本語が堪能な幸惠に翻訳することを勧める。
 (パンフレットより)


 知里幸惠は、主人公・テルのモデルです。
 演じるのは若手女優の吉田美月喜さん。
 兼田教授役 (金田一京助) を加藤雅也さんが熱演します。

 そして全編にわたり心に響く、ユーカラの調べ。
 文字を持たず、文化を口伝えで伝承するアイヌ民族の唄。

 ユーカラをアカペラで歌う、伯母役のミュージカル歌手・島田歌穂さん。
 その歌唱は、圧巻でした。


 大正11(1922)年9月18日に、翻訳本は完成します。
 しかし、その日の夜、19歳の幸惠は……。


 気が付くと、僕の周りからは、すすり泣く声がします。
 終演後も、鼻をすする音が、あちこちから聞こえてきました。
 歳をとると涙もろくなるといいますが、それだけではないようです。


 ●カルカッタ国際映画祭 (インド) インターナショナル映画部門 最優秀賞作品賞 
 ●モントリオール・インディペンデント映画祭 (カナダ) 優秀作品賞
 ●グランド・シネ・カーニバル・モルディブ (モルディブ) 優秀作品賞
 ●ハーキュリー・インディペンデント映画祭 (スペイン) 優秀作品賞
   


Posted by 小暮 淳 at 13:02Comments(2)シネマライフ

2023年12月29日

H納め ~静かなる日々~


 タイトルを見て、良からぬ想像をした人はいませんか?

 「H」 とは、僕が通っている呑み屋の頭文字です。
 日々の暮らしの中で、頑張った自分へのごほうびとして与えているルーティン。
 かれこれ15年以上も続いています。


 2023年も残り少なくなりました。
 今年は、思いのほか忙しい年でした。
 サプライズあり、出会いあり、飽きることのない充実した一年だったと思います。

 まだ年内にやるべき仕事は残っているのですが、ここらで小休止。
 昨日は一日オフにして、自分へごほうびを上げることにしました。


 まずは映画。
 カンヌ国際映画祭で、主演の役所広司さんが最優秀男優賞を受賞した 『PERFECT DAYS』。
 監督はドイツの名匠、ピム・ベンダース。
 トイレ清掃員の男の日常を描いた人間ドラマです。

 古いアパートに一人で暮らし、同じ時間に目覚めて、仕事道具を積んだ車に乗り、洋楽のカセットテープを聴きながら、いくつもの公衆トイレを黙々と丁寧に清掃して回る毎日が、淡々と描かれています。
 大きな事件は起こりません。
 ドラマチックな展開もありません。
 同じルーティンを繰り返しているだけの日々。

 「何が楽しくて生きているのだろうか?」
 そんな疑問は、映画を観ているうちに消えていました。
 いつしか、彼のような生き方を 「うらやましい」 と思っている自分がいたのです。

 舞台は日本の東京。
 登場する主要人物もすべて日本人。
 なのに、どこか古い洋画を見ているような懐かしさを覚えました。


 映画館を出ると、僕は主人公のように風呂屋へ向かいました。
 湯に浸かり、外を眺めると、青空が見えました。
 主人公の平山は、仕事の合間や休憩の際に、よく空を眺めます。
 そして木々の間からこぼれる光を、フィルム式のコンパクトカメラに収めていました。

 「こもれび」 です。

 僕もまた、湯舟の中で木漏れ日を探していました。


 湯から上がり、その足で 「H」 の暖簾をくぐりました。
 カウンターに座れば、黙っていてもおしぼりと生ビールが出てきます。

 「ジュンちゃん、一年間、お世話になりました」
 「こちらこそ、いい一年をありがとうございました」
 そう言うと、僕はグラスをひと息で飲み干しました。

 「もう一杯」
 「この後は何にする? 焼酎? ウィスキー?」
 「う~ん、焼酎からのウィスキー、締めに日本酒で」


 いつもの僕のルーティンが始まりました。
 そして、これが今年の “H納め” となりました。

 ママ、常連客のみなさん、来年もよろしくお願いいたします。
 よい(酔い)お年をお迎えください。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:19Comments(0)シネマライフ

2023年12月19日

   G 


 泣けた、泣けた。
 不覚にもラストシーンで、涙があふれ出た。
 まさか、ゴジラを観て泣くとは思いませんでした。

 映画 『ゴジラ-1.0』 を観てきました。


 思えば、物心ついた頃からゴジラ映画を観て育ちました。
 第1作目の 『ゴジラ』 は1954年ですから、まだ僕は生まれていません。
 記憶に残っているのは、7作目の 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966) や8作目の 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967) あたりからです。
 大人になってから、それ以前の作品もくまなく観てきました。
 (ただしメカゴジラを除く)

 来年は、ゴジラ誕生から70周年を迎えます。
 そして今作品は、ちょうど30作目になります。

 前作の 『シン・ゴジラ』 から7年ぶりのゴジラ映画です。
 前回は 「新世紀エヴァンゲリオン」 の庵野秀明が総監督ということで話題になりました。
 そして今回は、「ALWAYS 三丁目の夕日」 の山崎貴監督がメガホンを取ったということで、個人的には大変期待していました。
 彼は、日本のVFX (実写とCGを合わせた特殊効果) の第一人者ですからね。
 その技術がゴジラ映画に、どう効果的に使われているか?
 それが興味の対象でした。

 なのに……
 まさか……


 山崎監督は、脚本家としても天才だったのですね。
 あのラストの展開は何ですか?
 想定していたエンディングを裏切る2段オチ、さらには3段オチに、涙腺を破壊されてしまいました。
 間違いなく、ゴジラ映画の最高傑作だと思います。

 この 『ゴジラ-1.0』 は、海の向こうでも大絶賛されているとのこと。
 すでに全米興収が、歴代邦画実写作品1位に輝いているといいます。
 海外のコメントを見ると、やはり描かれている人間ドラマに泣かされたようですね。


 でもね、正直なことをいうと、僕がこの映画を観に行った一番の理由は、浜辺美波ちゃんが出演しているからなんですよ。
 そして、前作の 『シン・ゴジラ』 は、石原さとみちゃんが出ているからでした。

 すみません!
 相変わらず、昔取った杵柄の 「美少女研究家」 の肩書が取れなくて (笑)


 まだの人は、だまされたと思って、観てみてください。
 ゴジラも最高に怖いですから!
   


Posted by 小暮 淳 at 13:26Comments(0)シネマライフ

2023年11月13日

2時間20分の抑尿


 過日、中学時代のクラス会でのこと。
 六十路を折り返し地点まで生きてきた初老男たちの話題は、御多分に漏れず、健康と老化話に花が咲きました。

 さすがに、まだ病気自慢をする年齢ではありませんが、老化は避けて通れません。
 最初は、酒の席ならではの “ハメマラ” で盛り上がりました。

 「ハ」 =歯、「メ」 =目、「マラ」 =男性生殖器であります。
 50代あたりから、この順序で肉体の衰えが始まります。
 中には見栄を張って、「俺はまだ現役だ!」 なんていう輩もいましたが、一様にして、“ハメマラ” どおりに老化が進行していました。


 一番多かった意見が、“頻尿” でした。
 「トイレが近くなった」 「夜中に何回も起きる」
 との意見に、誰もがうなずました。

 もちろん、僕も大きくうなずきました。
 若い頃からトイレは近い方でしたが、加齢とともに、そのサイクルは年々短くなっているような気がします。
 何か行動を起こすたびに、「とりあえずトイレ」 が習慣になっているのが実情です。


 そんな僕の大敵が、映画鑑賞です。
 映画は、大きなスクリーンで見たい!
 しかも還暦を過ぎてからは、シニア割引を利用できるので、安価で観ることができます。

 ところが……

 問題は、トイレです。
 今までにも何度か上映時間中に観客席を抜け出して、トイレへ駆け込んだことがありました。
 当然、その間のストーリーは分からなくなってしまいます。

 ああ、憎むべき頻尿……


 そして先週、どうしても観たかった映画が、やっと観られるチャンスが到来しました。
 森達也監督 『福田村事件』
 追加上映のこの機会を逃したら、次はいつ観られるか分かりません。

 でも……
 問題がありました。
 上映時間が2時間20分もあるのです。

 ダメだ…
 ムリだ…
 僕の膀胱は、とてもじゃないけど2時間以上は持たない。

 それでも見たい!


 ということで当日の午前中は極力、水分摂取を控え、上演時間ギリギリまでトイレで絞り出し、もしもの時を考えて出口近くの通路側の席に座り、鑑賞に臨みました。

 結果、セーフ!
 終演と同時にトイレに駆け込みました。

 やったー!
 すごいぞ!
 新記録だ!

 自分で自分をほめてやりました。
 そして、ご褒美に、いつもの居酒屋へ向かいましたとさ。
 めでたし、めでたし。
   


Posted by 小暮 淳 at 09:45Comments(2)シネマライフ

2023年07月27日

僕はどう生きてきたか


 人生100年時代、といわれます。

 「そんなには生きられないよ」 と思いつつも、現実味を帯びてきました。
 だって、僕の両親も90歳以上生きましたもの。

 下手すると僕は、それ以上生きてしまうかもしれません。


 思えば、すでに長い長い人生の3分の2を生きてしまいました。
 還暦を過ぎたあたりからでしょうか、無性に人生を振り返るクセがつきました。

 今までの人生は間違っていなかったのか?
 このままで良いのか?
 まだ出来ることはあるのか……と。


 最近、富に思い出す言葉があります。
 それは10代の頃、オヤジに口酸っぱく言われた言葉です。

 「人生は何をするかではなく、どう生きるかだ」

 僕が、この言葉の重さを知るのは、もっともっと先のことです。
 若き僕は、夢を追いかけることに懸命で、“何かを残す” ことだけに気を取られていました。


 これは後から知ったことですが、オヤジのこの言葉は、思想家・内村鑑三の受け売りだったんですね。
 『人生、何を成したかより、どう生きるか』 という著書がありました。

 そして、この言葉の意味を還暦過ぎた今、つくづく噛みしめています


 たとえ、お金を残しても有効に使われなければ、何の意味もありません。
 絵画や書物や音楽も同じことです。
 作ることに意味があるのではなく、そこに作者の生きる姿勢があるからこそ、人々に感動を与えるのだと思います。

 人生の残り3分の1を、どう生きるか?
 目下の僕の課題であります。


 ということで、オヤジの言葉とタイトルが似ているというだけで、宮崎駿監督の最新作 『君たちはどう生きるか』 を観てきました。

 まだ観てない人もいるでしょうから、ここでは内容については触れません。
 感想だけを述べさせていただきます。

 ひと言、賛否両論に分かれる映画だと思います。
 ジブリファンと、そうでない人で見方が変わると思いました。

 僕は、そうでない人なので、ちょっぴり難解でした。
 ファンタジーではなく、もう少し説教くさい哲学的なものを期待していたようです。
 でも、いくつか腑に落ちない箇所がありましたので、もう一度、観てみたいと思います。


 宮崎監督、これが最後だなんて言わないで、死ぬまで映画を作り続けてくださいな!
  


Posted by 小暮 淳 at 11:54Comments(2)シネマライフ

2023年07月15日

『さよならの夏』 が聴こえる②


 ♪ 光る海に かすむ船は
   さよならの汽笛 のこします
   ゆるい坂を 下りてゆけば
   夏色の風に 逢えるかしら ♪


 誰にでも1曲や2曲、そのメロディーを聴いただけで胸が締め付けられ、目頭が熱くなる歌というものがあるものです。

 古い読者ならば、覚えている人もいるかもしれませんね。
 12年前の夏、やはり同じタイトルのブログを書いたことがありました。
 (当ブログの2011年7月28日 「『さよならの夏』 が聴こえる」 参照) 

 その年は、アニメ映画 『コクリコ坂から』 が公開された年でした。
 そして、その映画の主題歌が 『さよならの夏』 でした。
 昭和51(1976)年に、森山良子さんが歌った名曲です。


 翌52年、僕は夢を抱えて、花の都・東京へ出ました。
 そこで出会った2人の女性。
 J子ちゃんとKルちゃん。
 ともに地方から上京してきた予備校生でした。

 2人とも歌が好きで、週末になると僕のアパートに足しげく通っていました。
 僕がギターを弾いて、彼女たちが美しいハーモニーを奏でます。
 翌年、2人の大学合格を機に、本格的に音楽活動をスタートしました。

 コーラスデュオ 「Hamo Hamo」 の誕生です。
 僕は2人のプロデュースと、楽曲の提供をしました。


 2人との出会いのきっかけが、『さよならの夏』 でした。
 「歌のとっても上手い2人がいるから紹介したい」
 と知人からデモテープを渡されました。

 ♪ 光る海に かすむ船は
   さよならの汽笛 のこします
   ゆるい坂を 下りてゆけば
   夏色の風に 逢えるかしら ♪

 声とハーモニーの美しさもさることながら、その旋律に魅了されてしまいました。


 あれから47年……
 昨晩、またテレビで 『さよならの夏』 を聴きました。
 アニメ映画 『コクリコ坂から』 が放送されたのです。

 何度も観て、物語は知っているはずなのに、やはりラストシーンでは涙がこぼれました。
 「来るぞ、来るぞ……」
 エンディングに近づくにつれ、僕は身構えます。

 そして、あのメロディーが流れた途端、一瞬にして、“あの夏の日” がよみがえってきました。


 暑い暑い夏の日。
 大都会の真ん中のビルとビルに挟まれた小さなアパートの一室。
 扇風機もない六畳一間の部屋で、汗だくになって練習した日々。

 でも、僕らには夢がありました。


 J子ちゃん、Kルちゃん、どこで何をしているのかな?
 あの遠い夏の日を覚えていますか?

 『さよならの夏』 を歌った夏を……
  


Posted by 小暮 淳 at 11:32Comments(3)シネマライフ

2023年06月24日

宿題の答え合わせ


 100点満点で200点を期待して観たものの、自己評価は150点だった映画 『怪物』。
 ストーリーが少々難解で、伏線の回収に戸惑ってしまい、腑に落ちない箇所が多々ありました。
 仕方なく、その日は宿題として持ち帰ることになりました。
 (当ブログの2023年6月20日 「死んだ眼をした校長」 参照)


 あの日から4日間、僕は頭の中でストーリーを反芻し、腑に落ちなかった箇所をチェック。
 僕なりに仮説を立てて、再度、映画館へ。

 残り50点を回収すべく、宿題の答え合わせをしてきました。


 そしたら、まったく違う映画になっていました。

 前回話しましたが、この映画は3章の構成で作られています。
 第1章は母親目線、第2章は教師目線、そして第3章が子どもたち目線です。

 「怪物、だーれだ?」
 のセリフにミスリードされてしまうため、観客は、どうしても謎解きに走ってしまいます。
 怪物捜しを急ぐあまりストーリーを追いかけることに夢中になり、伏線として描かれているディテールになかなか気づきません。

 僕も1回目は観終わってから 「そういうことだったのか!」 と回収できた箇所がいくつかありましたが、それでも腑に落ちない箇所が残りました。
 今回は、その箇所を徹底チェックするつもりで、映画館の座席に座りました。。


 すると……

 すでにストーリーは頭の中に入っていますから視線に余裕が生まれ、、スクリーンの中の主要人物以外の映像までが入って来ました。
 「あっ、あんなところに居たんだ!」
 と、1回目では見落としていた人物が、スクリーンの奥のほうに映っていたりするのです。

 また、風景や音楽、効果音がハッキリと聴こえてきました。
 「あれ、この場面で、こんな音が流れていたっけ?」
 というように、1回目では完全に聴き逃していた音が、2回目では確認できました。

 そして、エンディングに流れる坂本龍一の美しいメロディー……


 観終わったときの余韻の長さといい、まったく1回目と2回目の視聴では、別の映画になっていました。
 そのとき分かったのです。
 「完全に、してやられた」 と。

 監督の是枝裕和と脚本の坂元裕二よる二重三重にも仕組まれたように見せかけた、実は、単純で純粋な良質のラブストリーであることに……

 それに気づいたとき、込み上げるものがあり、目頭が熱くなりました。


 まだの人は、ぜひ一度。
 一度観た人は、ぜひ、もう一度。
 劇場へ足を運んでみてください。

 きっと依里くんの可愛さに、メロメロになりますよ!
   


Posted by 小暮 淳 at 12:52Comments(0)シネマライフ

2023年06月20日

死んだ眼をした校長


 ちょうど10日前のことでした。
 いつもの店のいつものカウンター席で、隣に居合わせた常連客と雑談をしているときでした。
 トイレに立った見知らぬ男性客が、僕ら2人の後ろで立ち止まって言いました。

 「さっき、怪物の話をしていたでしょう?」


 “怪物” とは、是枝裕和監督の映画 『怪物』 のことです。
 カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で、脚本賞を受賞したことでも話題になりました。
 男性客は、映画を観た常連客が僕に話している様子をカウンターの奥で聞いていたようです。

 すると常連客と男性客は、夢中になって映画の話を始めました。
 「最後のシーンだけどさ、あれ、どう解釈しました?」
 男性客はトイレへ行くことさえ、忘れています。

 僕は蚊帳の外にされて、ちょっぴり不機嫌になりました。


 ということで昨日、映画 『怪物』 を観てきました。
 まあ、話題の映画ですからね、すでに観た人もいるでしょうが、まだの人のために、ここではネタバレにならないように、サラリと僕の感想だけ述べさせていただきます。

 ひと言でいえば、期待が大きすぎて、感動する場面を逃してしまいました。
 100点満点で200点を期待してしまったんですね。
 そしたら150点だった。

 残りの50点が見つからず、観終わった後もモヤモヤしながら頭の中で、もう一度最初から映画を反芻していました。
 それでも解けない謎が、いくつもありました。


 舞台は、大きな湖のある郊外の町。
 登場人物は、息子を愛するシングルマザーと学校の教師、そして無邪気な子供たち……。
 物語は、よくある子ども同士ケンカから始まります。

 第1章では、母親の視線。
 第2章では、教師の視線。
 第3章では、主人公の子どもたちの視線で描かれます。

 1つの真実が多方面から描かれることにより、いくつもの解釈がされることを観客は知ります。
 被害者は加害者となり、加害者だと思っていた人が実は被害者だったり。
 その展開は、まるでトリックを暴く、謎解きのよう。

 いくつもの伏線が散りばめられていて、観客の頭脳は、その回収が間に合いません。
 「あの時の行動は、そういうことだったのか!」
 と気づいたそばから、新たな伏線が気になり始めます。

 結局、僕は観終わった後も回収されないままの伏線を、まるで宿題のように家まで持ち帰ることになりました。


 怪物って、だれ?
 みんな怪物で、みんな怪物じゃない?

 僕は、すべての謎を解くガキは、校長を演じた田中裕子さんのセリフにあったように思います。
 暗い過去を持ち、一見、偽善者のような態度を見せる校長先生の眼は、いつも死んでいます。
 その校長先生が主人公の少年に、ポツリと言います。

 「誰かにしか手に入らないものは、幸せって言わないの。誰もが手に入るものを幸せっていうの」


 樹木希林さん亡き後の田中裕子さんの怪演ぶりが、是枝監督作品を際立てています。
 もちろん、坂元裕二さんの脚本については、カンヌの折り紙付きです。
 そして、音楽は今作が最後の映画作品となった故・坂本龍一さん。

 エンディングロールでは、「ご冥福をお祈りいたします」 のテロップが流れました。


 さて、映画を観終わった僕には、宿題が残されました。
 答え合わせのために、もう一度、映画館へ足を運ぼうと思います。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:45Comments(0)シネマライフ

2023年03月09日

温泉という名の銭湯


 その昔、まだ僕が温泉本を出版していない頃。
 JR東日本が発行している 『駅からさんぽ 両毛線』 という冊子の取材で、両毛線沿線の銭湯をすべてめぐったことがありました。

 新前橋駅 (群馬県)~栃木駅 (栃木県) まで、当時、営業していた全駅の全銭湯を調べ上げ、何カ月もかけて入浴してきました。
 当然、取材ですから風呂に入るだけではなく、経営者に苦労話なども聞いて書きました。


 その後、僕は温泉へと惹かれ、平成21(2009)年に初の温泉本 『ぐんまの源泉一軒宿』(上毛新聞社)、翌年に 『群馬の小さな温泉』(同) を出版しました。
 すると時を同じくして抜井諒一さんが、『群馬伝統 銭湯大全』(クレインダンス) を出版しました。

 抜井さんはWebサイト 「めっかった群馬」 の編集長で、当時 (平成22年2月現在) 群馬県内に29軒あった銭湯を、すべて取材して、一冊の本にまとめました。


 “温泉” と “銭湯”
 似て非なる、非して似ている2つの伝統文化。
 その本を書いた2人の対談を企画した新聞社があり、初めて抜井さんとお会いしました。

 僕よりは、かなりお若い方でしたが、並々ならぬ銭湯愛にあふれていました。
 2時間以上にわたる対談でしたが、温泉と銭湯に共通していたのは、日本人の “湯” へのこだわり。
 まさに、そこには柔道や剣道、茶道や華道に相通ずる 「湯の道」 があったのです。


 と、いうこで、今話題の映画 『湯道』 を観てきました。
 湯の道と書いて、「ゆどう」 と読みます。

 監督は、「HERO」 や 「プリンセス トヨトミ」、「本能寺ホテル」 などの鈴木雅之。
 企画・脚本は、「おくりびと」 でアカデミー賞外国映画賞を受賞した小山薫堂。
 そして主演は、生田斗真と濱田岳。
 その他、小日向文世、吉田鋼太郎、柄本明ら豪華キャストが脇を飾ります。

 ストーリーは、亡き父が残した実家の銭湯 「まるきん温泉」 に突然帰ってきた長男と、跡を継いだ次男とのマンション建て替えをめぐるドタバタ劇。
 そこに下町人情たっぷりのお節介な面々が加わり、さまざまな人間模様が繰り広げられます。


 まだ観ていない人のために、内容の解説はここまでにしますが、特筆すべきは、とにかくリアル!
 僕は完全に、現存する銭湯でのロケだと思っていたのですが、すべて一から作り上げたセットだったんですね (観終わってから知りました)。

 でもね、確かに違和感はあったんです。
 まず、風呂場のデザイン。
 浴槽が洗い場の中央にありました。
 ということは、設定は関西?
 (関東では、ふつう浴槽は奥にあります)

 それとタイル絵の富士山。
 こちらは、関東の定番です。
 (東西折衷のようです)

 極めつきは、屋号の 「まるきん温泉」 です。
 (関東ならば、「○○湯」 ですもの)
 銭湯のことを “温泉” と名乗るのは、完全に関西です。


 まあ、映画の楽しみ方は、いろいろです。
 温泉ファンも銭湯ファンも、また両方好きな方も、みんなが楽しめミュージカル仕立てのエンターテインメントお風呂ムービーです。

 ぜひ、ご覧ください。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:08Comments(2)シネマライフ

2023年01月13日

曼珠沙華のごとく


 「売れない詩ばかり書いて! 詩では、お腹はいっぱいになりません」
 「売れるものが、世の中で大切なものだとも限りません」

 いつかどこかで、交わされたような会話に、我が身がつまされました。


 詩人・萩原朔太郎の没後80年を記念して、企画展 「萩原朔太郎大全2022」 が全国52か所の文学館や美術館、大学等で開催中です。
 映画 『天上の花』 も、記念事業として制作されました。

 原作は、萩原朔太郎の娘である萩原葉子の同名小説 『天上の花 ―三好達治抄―』。
 監督/片嶋一貴、主演/東出昌大、入山法子


 すでに原作を読んでいたため、さっそく映画館に足を運んできました。
 見終わった感想は、“原作以上”。
 これは、あくまでも僕個人の感想ですが、誤解を承知でコメントするならば、「美しい映画」 だったということ。


 昭和になってすぐのこと。
 萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治は、朔太郎家に同居する美貌の末妹・慶子と運命的に出会い、たちまち恋に落ちてしまいます。
 しかし達治は慶子の母に、「貧乏書生」 とあなどられて拒絶され、失意の中、佐藤春夫の姪と見合い結婚をします。
 時は過ぎ、昭和17年に朔太郎が病死をして2年後。
 三回忌で再会した達治は、慶子に16年4か月の思いを伝え、妻子と離縁し、慶子を家に迎えます。


 ここまでの話だと純愛のようにですが、その後、壮絶なる苦悩の日々が2人に訪れます。
 達治のDV (ドメスティックバイオレンス) です。
 これが僕が “誤解を承知で” と付け加えた、美しさなのであります。

 「愛しているから殴る」 という、到底、現代社会では理解されない作家特有の理論を達治は振りかざします。
 「殴られることに慣れていく自分が怖い」 と、慶子もおののきます。
 さらに、貧困が2人の亀裂に拍車をかけていきます。

 どうにもならない負のスパイラルから抜け出せない2人がもどかしくもあり、時に羨ましくも映るのはなぜでしょうか?


 実は僕、上映中、終始、自分の過去と重ね合わせていました。
 三好達治と僕では、比較にはならないのですが、“貧困” には苦しんだ時期がありましたからね。
 さすがに、暴力には走りませんでしたが、酒には逃げました。

 そして、追い打ちをかけるように浴びせ続けられる 「売れるもの」 という幻想のような現実。


 現在、朔太郎や達治よりも、はるかに長生きをして、いまだ文筆の仕事にしがみついている自分がいます。
 答えの出ない人生という点では、偉人たちも同じなのだと思えた映画でした。


 ちなみに 「天上の花」 とは曼珠沙華 (彼岸花) のことで、“天から降りてきた花” の意。
 花言葉は 「想うはあなただけ」。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:43Comments(0)シネマライフ

2022年12月02日

今の姿をさらしたい


 「はい、これで」
 カウンターの上に、そっとカードを差し出しました。
 「今日は “映画の日” ですので、必要ありません」
 と、差し戻されてしまいました。

 うれし恥ずかしシニアカードは、60歳以上の割引特典です。
 本来ならば、1,200円で映画が観られるのですが、昨日は “映画の日” だったのですね。

 シニアカード < 映画の日

 ということで、さにら200円も安く、1,000円で映画を観てきました。


 『土を喰らう十二ヵ月』
 監督・脚本:中江裕司
 主演:沢田研二

 えっ、沢田研二? 大丈夫なの?
 と思った人は、きっと僕だけではなかったと思います。

 往年のジュリーは、カッコよかった!
 小学生の時に、初めて買ったレコードは、ザ・タイガースの 『モナリザの微笑』 でした。
 ソロになってからも、出す曲出す曲が大ヒット!
 そして大人の魅力も増して、セクシーな歌手でした。

 「ジュリ~~~!!」
 とドラマの中で、樹木希林が壁のポスターに向かって叫ぶシーンも有名になりました。


 でも晩年のジュリーは……
 まあ、みなさんも、ご存じのように、だいぶ恰幅(かっぷく)が良くなられ、かつてのスターの面影は、だいぶ薄れてしまいました。
 そのジュリーこと沢田研二が、主役だというで大変興味がありました。


 「昔の沢田研二を期待していると思いますが、今の私は、こんな姿です」
 監督が出演交渉に行くと、そう応えたそうです。
 ただ監督は、「絶対に沢田さんだ」 と決めていたようです。
 理由は、ただ一つ!
 60代後半で、色気のある人。
 沢田研二は役の設定よりも少し上だと思いますが、色気のある人には違いありません。

 そして、配役が決まった時、監督に、こう言ったといいます。
 「今の姿を画面にさらしたい」


 その言葉どおり、ありのままの老いた沢田研二が映し出されていました。
 もう、そこに居るのは歌手のジュリーではなく、俳優、沢田研二でした。

 原作は、水上勉の 『土を喰らう日々 ―わが精進十二ヵ月―』

 原作は料理エッセイですから、ストーリーはありません。
 脚本では、多少のフィクションを加えながらもカメラは、たんたんと原作に忠実に、十二ヵ月の季節を追い続けます。

 <長野の山荘で暮らす作家のツトム。山の実やきのこを採り、畑で育てた野菜を自ら料理し、季節の移ろいを感じながら原稿に向き合う日々を送っている。時折、編集者で恋人の真知子が、東京から訪ねてくる。食いしん坊の真知子と旬ものを料理して一緒に食べるのは、楽しく格別な時間。悠々自適に暮らすツトムが、13年前に亡くした妻の遺骨を墓に納められずにいる…。>
  (パンフレットより)


 観終わっての印象は、音楽が少ないということでした。
 川の音や鳥の声、川のせせらぐ音、雪を踏みしめる足音……
 家の中では、竈(かまど)の薪のはぜる音や釜が吹く音、野菜をきざみ、炒める音……

 「あ、こんな音だったんだ」
 と、改めて日常の中で聞き逃していた音だったことを知りました。


 料理の指導は、料理研究家の土井善晴が行い、劇中の料理の多くを沢田研二自身が実際に作ったといいます。


 物書きって、いいな~。
 僕も、物書きで良かったな~。
 どんなに歳を重ねても、衣食住のすべてが言葉として、つむげるのですから。

 老いることへの勇気をもらった映画でした。
 そして、

 太ったジュリーも、い~んです!
     


Posted by 小暮 淳 at 14:12Comments(5)シネマライフ

2021年11月26日

坂道の古本屋


 秋の夜長、みなさんは、どのように過ごしていますか?
 僕は、もっぱら音楽を聴きながら読書、ときどき映画鑑賞です。

 便利な世の中になりました。
 自宅に居ながらネットで、しかも無料で映画が観られるのですからね。
 必ずしも観たい映画がアップされているわけではありませんが、それでも過去に観逃した名作を探しては、酒を呑みながら観ています。


 『D坂の殺人事件』

 江戸川乱歩の作品が目に留まりました。
 まだ観ていませんでした。
 「確か監督は、実相寺昭雄だったのでは……」
 とスタッフ欄をみると、違いました。

 2015年のリメイク版でした。
 しかも、舞台となる古本屋の妻は、グラビア女優の祥子さんです。
 (ときどき週刊誌を立ち読みしていましたから、彼女のことは知っていました)
 演技は、そこそこでしたが、とにかく色っぽい!
 そして官能的であります。

 夫は、名バイプレーヤーの木下ほうかさん。
 大正時代という時代設定と、ほうかさんの得体のしれない存在感が、なかなかマッチしていました。

 約2時間の映画でしたが、飽きることなく、最後まで観終えることができました。


 でも、見終わってから、どこか消化不良を起こしている自分に気づきました。
 「あれ、こういう話だったっけ? 原作は少し話が違ったはずだが……」
 そう思ったら、居ても立っても居られません。

 深夜だというのに、僕は書庫 (という名の納戸ですが) へ向かいました。 
 書架の奥の奥の方に、ありました!
 すでにセピア色にあせた 「江戸川乱歩推理文庫」。
 その第1巻 『二銭銅貨』 の中に、短編 『D坂の殺人事件』 は収録されていました。


 話は、D坂 (東京都文京区本郷の団子坂) の喫茶店で、“私” と探偵が、向かいの古本屋の妖艶な女 (古本屋の女房) の行動が気になってしまい、様子を見に行くと……
 そんな始まりです。

 この “探偵” こそが、明智小五郎であり、乱歩作品の初登場です(大正14年)。


 一気に読み終えてみて、分かりました。
 映画と、どこが違うのか?
 長さです。
 簡潔に展開する短編小説と、2時間たっぷりと映像で観せる映画とでは、まずテンポが違い過ぎます。
 となれば、登場人物も多くなり、エピソードも足されます。

 「な~んだ、小説とは別物だったんじゃないか」
 と、観終えた時の違和感を払拭することができました。


 その昔、角川映画に、こんな宣伝コピーがありました。
 <読んでから見るか、見てから読むか>

 得てして、人は原作至上主義になりがちです。
 そもそもファンとは、そういうものですが、やはり概念を捨てることも大切なのですね。

 でないと小説も映画も、“作品” として楽しめませんものね。


 今さらながら秋の夜長に、学びました。
  


Posted by 小暮 淳 at 10:09Comments(0)シネマライフ

2020年12月21日

見慣れた歩道橋


 遅ればせながら、沼田まほかる原作の映画 『ユリゴコロ』 を観ました。

 まほかるさんは好きな作家の一人で、以前から小説は読んでいました。
 たまたまYouTubeで、映画 『彼女がその名を知らない鳥たち』 を見つけて観たのがきっかけで、『ユリゴコロ』 にたどり着いたのです。


 まほかるさんの作品は、ミステリーでも、ちょっとオカルトぽかったり、サイコパスなところもあり、好き嫌いが分かれる作家さんですが、僕は第5回ホラーサスペンス大賞を受賞した 『九月が永遠に続けば』 以来のファンです。
 (個人的なオススメは、ペットの死を描いた 『猫鳴り』。ただただ泣けます!)

 ということで、原作と比較しつつ 『ユリゴコロ』 を観ていました。
 主演はレストランオーナーを演じる松坂桃李さんですが、彼の母親役として回想シーンの中で吉高由里子さんと恋人の松山ケンイチさんが出演してます。

 何度か、吉高さんと松山さんが歩道橋の上で会話するシーンが映し出されます。

 「あれ、なんか見たことある風景だな~」
 なんて思いながら、目を凝らして観ると、
 「やっぱり、そうだ!」

 歩道橋の道路標識には、こう書かれていました。
 <右→大間々、大胡>
 <左→赤城山、富士見>

 いつも酔眼で眺めている歩道橋だったのです!
 このブログにも、ときどき登場する、ご存じ、酒処 「H」 から目と鼻の先の県道に架かる歩道橋です。


 映画が撮影されたのは2016~17年です。
 夜のシーンもありました。
 ということは、僕が 「H」 で、ほろほろと酔っていた時に、吉高由里子さんが、あの歩道橋に立っていたのかも知れないということではありませんか!

 実は僕、吉高さんのファンなんです。
 映画 『蛇にピアス』 を観て、その体当たり演技に、度肝を抜かれてしまいました。


 いや~、映画って、いいですね。
 まして身近な場所が舞台だったりすると、ますます感情移入してしまいます。

 吉高さん、ぜひ、今度は 「H」 をロケ場所にした映画に出演してください。
 もちろん、脚本と監督は僕です!
   


Posted by 小暮 淳 at 11:44Comments(0)シネマライフ

2020年04月02日

老化と自粛とパラサイト


 かくかくしかじか、のっぴきならない事情がありまして、遅ればせながら、やっと話題の映画 『パラサイト 半地下の家族』 を観てきました。
 案の定、映画館は、ほぼ貸切状態でした。


 まず、なぜ、ここまで鑑賞が遅れたのか?
 事情その一は、“老化” が原因です。

 カンヌ映画祭で最高賞のパルムドール受賞のニュースを聞いたときから、上映されたら、すぐ観に行くつもりでいました。
 でも、そこには、大きな障害が立ちふさがっていたのです。
 そうです、“字幕スーパー問題” です。

 かれこれ10年くらい前から僕は、映画館で洋画を観ることをやめました。
 理由は、「字が小さくて読めない」 「1回のテロップが読み切れない」 「字幕に集中するあまり画面が見られない」 から!
 ひと言でいえば、老化です。

 「パラサイトって、字幕スーパーですよね?」
 「はい」
 「これって、吹き替え版の上映はないの?」
 「はい」
 「今後も?」
 「ちょっと、お待ちください……」
 僕の質問に、店員はカウンターから離れ、他のスタッフとヒソヒソ話をすると、戻ってきました。
 「はい、予定はないようです」


 ということで、1ヶ月以上が過ぎました。
 そして事情その二が、新型コロナウイルスの感染拡大です。
 自粛、自粛、自粛……

 もちろん僕の仕事も例外ではありません。
 わずかな連載の執筆はあるものの、講演や講座、イベント関係は、すべて中止になりました。
 毎日、毎日、やることがなくて、困ってしまいます。

 そうだ!
 映画を観に行こう!
 今なら空いているぞ!

 と、映画館へ。
 えーと、えーと、上映作品の一覧を見ても、観たい映画がありません。
 そして、目に飛び込んで来たのが、「パラサイト」 の5文字だったのでした。

 仕方ない、老化と闘うしかない!


 劇場に入ると、客は僕の他に、たった3人。
 しかも若い人たちのようで、後ろのほうにパラ、パラ、パラ。
 「いいなぁ~、あんなに遠くても見えるんだ」
 と、ひとりごちながら、思いっ切り前方の席に座りました。

 結果、字は読めたものの、スクリーンが大き過ぎて、映像が追いきれず、首が疲れてしまいました。


 この自粛、いったいいつまで続くのでしょうか?
   


Posted by 小暮 淳 at 10:59Comments(0)シネマライフ

2020年02月27日

いつも真実は闇の中


 <この国のメディアはおかしい。ジャーナリズムが機能していない。>

 始まって、わずか5分。
 気がついたらスクリーンが涙で、ゆがんでいました。
 「なんでだろう?」
 自分でも分からないぐらい動揺しています。
 熱い思いが胸の奥の方から湧き上がり、目頭を熱くしていたのです。


 遅ればせながら映画 『i 新聞記者ドキュメント』 を観てきました。
 主人公は、映画 『新聞記者』 の原案者としても話題を集めた、あの官邸記者会見で鋭い質問を投げかけることで有名な東京新聞社会部記者の望月衣塑子。
 監督は、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした 『FAKE』 などで知られる映画監督で作家の森達也。

 カメラは時に監督自身をも映しながら、ノートとペンとスマホを手にキャリーバッグを転がしながら全国を飛び回る記者を追い続けます。
 辺野古埋立地、もりかけ問題、そして官邸記者会見の場へ……

 真実は、どこへ?
 政治家や官僚の圧力と忖度を追究する彼女は、時には仲間である新聞社という組織へも歯向かいます。


 僕も同じ記事を書くライターですが、ジャーナリストではありません。
 追いかけているテーマは温泉や民話や地酒などですから、世の中に無くても生活には支障のない娯楽性の高いものばかりです。
 それでも 「真実を伝えたい」 というジャーナリズムのような感情は、いつも持ち合わせています。
 だからでしょうか、数々の弊害や妨害にはばまれながらも、それに屈することなく全速力で駆けずり回る彼女の姿に、涙が流れました。


 はて、タイトルに付いている 「i」 とは?
 映画館を出てから考えました。

 <あなたが右だろうが左だろうが関係ない。保守とリベラルも分けるつもりはない。メディアとジャーナリズムは、誰にとっても大切な存在であるはずだ。だから撮る。>
 これは、新聞記者と映画監督のガチンコバトルなのです。

 だから 「i」 は一人称の 「i」、「私自身」 のことではないかと?
 組織の中の記者とフリーランスの映画監督が、巨大な国家と闘うドキュメントなのだと……


 日本という国に暮らす、すべての人たちに問うテーマです。
 ぜひ、観て、考えて、悩んでみてください。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:07Comments(0)シネマライフ