2023年06月20日
死んだ眼をした校長
ちょうど10日前のことでした。
いつもの店のいつものカウンター席で、隣に居合わせた常連客と雑談をしているときでした。
トイレに立った見知らぬ男性客が、僕ら2人の後ろで立ち止まって言いました。
「さっき、怪物の話をしていたでしょう?」
“怪物” とは、是枝裕和監督の映画 『怪物』 のことです。
カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で、脚本賞を受賞したことでも話題になりました。
男性客は、映画を観た常連客が僕に話している様子をカウンターの奥で聞いていたようです。
すると常連客と男性客は、夢中になって映画の話を始めました。
「最後のシーンだけどさ、あれ、どう解釈しました?」
男性客はトイレへ行くことさえ、忘れています。
僕は蚊帳の外にされて、ちょっぴり不機嫌になりました。
ということで昨日、映画 『怪物』 を観てきました。
まあ、話題の映画ですからね、すでに観た人もいるでしょうが、まだの人のために、ここではネタバレにならないように、サラリと僕の感想だけ述べさせていただきます。
ひと言でいえば、期待が大きすぎて、感動する場面を逃してしまいました。
100点満点で200点を期待してしまったんですね。
そしたら150点だった。
残りの50点が見つからず、観終わった後もモヤモヤしながら頭の中で、もう一度最初から映画を反芻していました。
それでも解けない謎が、いくつもありました。
舞台は、大きな湖のある郊外の町。
登場人物は、息子を愛するシングルマザーと学校の教師、そして無邪気な子供たち……。
物語は、よくある子ども同士ケンカから始まります。
第1章では、母親の視線。
第2章では、教師の視線。
第3章では、主人公の子どもたちの視線で描かれます。
1つの真実が多方面から描かれることにより、いくつもの解釈がされることを観客は知ります。
被害者は加害者となり、加害者だと思っていた人が実は被害者だったり。
その展開は、まるでトリックを暴く、謎解きのよう。
いくつもの伏線が散りばめられていて、観客の頭脳は、その回収が間に合いません。
「あの時の行動は、そういうことだったのか!」
と気づいたそばから、新たな伏線が気になり始めます。
結局、僕は観終わった後も回収されないままの伏線を、まるで宿題のように家まで持ち帰ることになりました。
怪物って、だれ?
みんな怪物で、みんな怪物じゃない?
僕は、すべての謎を解くガキは、校長を演じた田中裕子さんのセリフにあったように思います。
暗い過去を持ち、一見、偽善者のような態度を見せる校長先生の眼は、いつも死んでいます。
その校長先生が主人公の少年に、ポツリと言います。
「誰かにしか手に入らないものは、幸せって言わないの。誰もが手に入るものを幸せっていうの」
樹木希林さん亡き後の田中裕子さんの怪演ぶりが、是枝監督作品を際立てています。
もちろん、坂元裕二さんの脚本については、カンヌの折り紙付きです。
そして、音楽は今作が最後の映画作品となった故・坂本龍一さん。
エンディングロールでは、「ご冥福をお祈りいたします」 のテロップが流れました。
さて、映画を観終わった僕には、宿題が残されました。
答え合わせのために、もう一度、映画館へ足を運ぼうと思います。
Posted by 小暮 淳 at 12:45│Comments(0)
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