2023年01月13日
曼珠沙華のごとく
「売れない詩ばかり書いて! 詩では、お腹はいっぱいになりません」
「売れるものが、世の中で大切なものだとも限りません」
いつかどこかで、交わされたような会話に、我が身がつまされました。
詩人・萩原朔太郎の没後80年を記念して、企画展 「萩原朔太郎大全2022」 が全国52か所の文学館や美術館、大学等で開催中です。
映画 『天上の花』 も、記念事業として制作されました。
原作は、萩原朔太郎の娘である萩原葉子の同名小説 『天上の花 ―三好達治抄―』。
監督/片嶋一貴、主演/東出昌大、入山法子
すでに原作を読んでいたため、さっそく映画館に足を運んできました。
見終わった感想は、“原作以上”。
これは、あくまでも僕個人の感想ですが、誤解を承知でコメントするならば、「美しい映画」 だったということ。
昭和になってすぐのこと。
萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治は、朔太郎家に同居する美貌の末妹・慶子と運命的に出会い、たちまち恋に落ちてしまいます。
しかし達治は慶子の母に、「貧乏書生」 とあなどられて拒絶され、失意の中、佐藤春夫の姪と見合い結婚をします。
時は過ぎ、昭和17年に朔太郎が病死をして2年後。
三回忌で再会した達治は、慶子に16年4か月の思いを伝え、妻子と離縁し、慶子を家に迎えます。
ここまでの話だと純愛のようにですが、その後、壮絶なる苦悩の日々が2人に訪れます。
達治のDV (ドメスティックバイオレンス) です。
これが僕が “誤解を承知で” と付け加えた、美しさなのであります。
「愛しているから殴る」 という、到底、現代社会では理解されない作家特有の理論を達治は振りかざします。
「殴られることに慣れていく自分が怖い」 と、慶子もおののきます。
さらに、貧困が2人の亀裂に拍車をかけていきます。
どうにもならない負のスパイラルから抜け出せない2人がもどかしくもあり、時に羨ましくも映るのはなぜでしょうか?
実は僕、上映中、終始、自分の過去と重ね合わせていました。
三好達治と僕では、比較にはならないのですが、“貧困” には苦しんだ時期がありましたからね。
さすがに、暴力には走りませんでしたが、酒には逃げました。
そして、追い打ちをかけるように浴びせ続けられる 「売れるもの」 という幻想のような現実。
現在、朔太郎や達治よりも、はるかに長生きをして、いまだ文筆の仕事にしがみついている自分がいます。
答えの出ない人生という点では、偉人たちも同じなのだと思えた映画でした。
ちなみに 「天上の花」 とは曼珠沙華 (彼岸花) のことで、“天から降りてきた花” の意。
花言葉は 「想うはあなただけ」。
Posted by 小暮 淳 at 11:43│Comments(0)
│シネマライフ