2024年03月11日
山は富士、酒は……
≪酒の名のあまたはあれど今はこはこの白雪にます酒はなし≫ 若山牧水
「おーい、ジュン! ちょっと、来い!」
子どもの頃、晩酌をしているオヤジに、ときどき呼ばれました。
居間に行くと、奇妙な恰好をしているオヤジがいました。
片手の親指と人差し指で、自分の鼻をつまんでいるのです。
「何してるの?」
と問えば、
「つまみが無いから、鼻をつまんでいるんだ!」
と、立腹の様子。
察するに、酒を呑み出したがオフクロの料理が、なかなか出て来ないことにイライラしているようです。
そして僕に、こう言うのでした。
「塩、持って来い!」
台所に行って、オフクロに告げると、
「まったく、しょうがないね。これを持って行って」
と言って、塩が盛られた小皿を渡されました。
オヤジは、この小皿の塩をつまむと、上手に手の甲に乗せ、ペロッと舐めました。
そして、酒をキュー。
たま、塩をペロッ。
酒をキュー。
子ども心に、大人とは不思議な生き物だと思っていました。
が、大人になると、やっぱり僕も、その不思議な生き物になっていたのです。
先日、スーパーマーケットに立ち寄った時のこと。
日本酒の棚に、驚きの商品を見つけました。
「白雪 樽酒」
ほほう、牧水が愛した酒じゃないか~!
と手に取ると、あまり見かけないコピーが書かれていました。
<塩付きキャンペーン 実施中>
なに?
塩付きだ?
と、コップ酒を模した容器のフタを、のぞき込むと……
おっ、おおおおおおーーーー!!!
本当だ、確かに塩の小袋が入っています。
しかも、ブランド品の 「伯方の塩」。
さらに、焼塩です。
キャンペーンの但し書きには、丁寧にもイラスト入りで、こんなことが書かれていました。
【ちょっとイキな飲み方】
手に塩をのせて、少しずつなめながらお楽しみください。
ということで即行、買って帰り、遠い日のオヤジを真似て、塩をつまみに呑み始めました。
ペロッ、キュー、ペロッ、キュー……
うまい!
うま過ぎる!
こりゃ、やっぱ、クセになるわ!
もしかしてオヤジは、オフクロの手料理で呑む酒よりも、この “塩呑み” が好きだったのではないでしょうか!?
きっと牧水さんだって、そう。
世の吞兵衛たちは、一番おいしく酒を呑む術を知っていたんだと思います。
まだの人は、ぜひ、お試しください。
Posted by 小暮 淳 at 11:13│Comments(0)
│酔眼日記