2012年11月04日
貯金箱の中の夢
ある日のこと。
夜遅く、僕が台所で、酒のつまみを作りながら、晩酌をしていると、大学生の息子がやってきました。
なにやら、ガサゴソと手当たり次第、引き出しを開けています。
「何を探しているんだ?」
「缶切りって、どこだっけ・・・あっ、あったあった!」
と、脱兎のごとく、2階の自分の部屋へ上がって行ってしまいました。
しばらくして、パックリと大きくフタの開いた、缶製の貯金箱を手にして下りてきました。
ゴミ袋に投げ入れるなり、ため息をついています。
「どーした?」
「金が足りない」
「何に使うんだ?」
どうせマンガかゲーム、友人との交友費だろうと思っていました。
ところが、彼の口からは予想外の答えが返ってきました。
「オーストラリアへ留学しようと思って……」
ぬわ、ぬわ、ぬわんだとーーーーーッ!
オーストラリアだ~~~ッ!
いいじゃ、ないの。とっても、いいことだ。
若い時に海外へ出て、見聞を広げることは、大いに価値のあることだよ。
お父さんだって、若い頃はな・・・・
と、言いかけて息子を見ると、もう台所にもリビングにも姿がない。
去り際に、「お母さんに相談してみる」 と言った言葉だけが、耳に残っていました。
それから数日後の雨の夜のこと。
僕は、呑みに出ることになっていました。
でも、この雨では歩いて行くのは、やっかいです。
「誰か、お父さんを飲み屋まで送ってくれる人?」
といっても、長女は嫁いでしまっているので、現在、我が家で車の免許を持っているのは、家内と息子だけです。
家内は、聞こえていても、聞こえないふりをしています。
「ああ、いいよ」
と息子が名乗り出てくれました。
「すまないな、送ってくれ」
と言って、彼の車に乗り込みました。
「留学の話、どうなった? 母さん、なんと言っていた?」
「うん、子供の頃からお年玉を貯めていてくれた、僕名義の貯金があるって」
「そーか、それは良かった」
と、ホッとする僕。
「でも、それだと短期しか行けないんだよ。できれば、もう少し長く行きたいんだけど……」
「で、あと、いくら必要なんだ?」
「11万」
「そーか・・・、えっ、11万!」
みなさんは、たかが11万円と思われますか?
とーんでもない。
僕には、そんな余分なお金は、ありませんって。
家のローンと息子の学費、もう、手一杯であります。
(呑みに出る金は、交際接待費ですから別)
息子に送り届けてもらった飲み屋にて。
「なーに、小暮さんなら11万円なんて、簡単じゃないですか!」
と、仲間のひとりが言い出した。
「だって、著書を110冊売れば、いいだけでしょ」
なるほどなぁ~、って、そんな簡単なわけがありません!
それって、売り上げ額だけの計算じゃありませんか。
印税として、僕の手元へ入ってくる金額は、その数パーセントですよ。
要は、その10倍以上売り上げなくては、ならないということです。
息子よ!
そんなにオーストラリアへ行きたかったら、明日から父の本を売り歩いてきなさい!
それが自分のためでもあり、ひいては親孝行にもなるのだよ。
Posted by 小暮 淳 at 19:56│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
若いうちに、海外に出て世界を見てくる事は素晴らしい事だと思います。
「書を捨て町へ出よう」「百聞は一見に如かず」のように、実際を自分の目で確かめる事が、その後の人生に大いに役立つ事は、全ての大人が経験している事。
読書が悪いというのではないですから(汗)
息子が留学資金を稼ぐために親父の本を売りに書店に行けば、必ず買ってくれる人はいるはず。
都内に行けば、1100冊ぐらい売れると思うんだけど?
「書を捨て町へ出よう」「百聞は一見に如かず」のように、実際を自分の目で確かめる事が、その後の人生に大いに役立つ事は、全ての大人が経験している事。
読書が悪いというのではないですから(汗)
息子が留学資金を稼ぐために親父の本を売りに書店に行けば、必ず買ってくれる人はいるはず。
都内に行けば、1100冊ぐらい売れると思うんだけど?
Posted by ヒロ坊 at 2012年11月06日 10:55
ヒロ坊さんへ
ありがとうございます。
そんなに、売れますかね?
実は、このブログは、思わぬところで反響を呼んでいます。
なかには、「息子さんの11万円を出して差し上げましょうか!」 という殊勝なお方まで現れましたよ。
でも、ご心配はいりません。
現在、息子は日々、バイトに励んでおります。
金のない僕は、ただ見守っているだけですが・・・。
ありがとうございます。
そんなに、売れますかね?
実は、このブログは、思わぬところで反響を呼んでいます。
なかには、「息子さんの11万円を出して差し上げましょうか!」 という殊勝なお方まで現れましたよ。
でも、ご心配はいりません。
現在、息子は日々、バイトに励んでおります。
金のない僕は、ただ見守っているだけですが・・・。
Posted by 小暮 at 2012年11月07日 13:42