2020年11月24日
無表情の時代
「うるさいな! 今、やっているところだよ!」
老婆がバッグから財布を取り出しながら突然、大声を上げました。
叫んだ相手は、レジ脇にある機械です。
依然、機械は言葉をくり返しています。
<オ金ヲ入レテ下サイ>
コロナ禍の影響でしょうか、今年になってレジでの支払いを精算機で行うスーパーマーケットが増えています。
「3密」 を避けた無接触の精算は、理にかなっているし、とても便利です。
しかし一方で、機械特有の弱点が浮き彫りになっています。
それは、やさしさや思いやりの欠如です。
もし店員が対応していたら老婆は、大声を上げることはなかったと思います。
「ごめんなさいね。もたもたしちゃって」
「いえ、ゆっくりどうぞ」
と、難なくレジを済ませたはずです。
店員には、状況を判断して、臨機応変に対応する力があるからです。
しかし、機械は一方通行です。
容赦なく、入金の催促をしてきます。
<オ金ヲ入レテ下サイ>
老婆がキレる気持ちも分かります。
最近はスーパーマーケットだけではありません。
ファーストフード店やコンビニエンスストアでも順次、精算機の導入が進んでいます。
先日、某コンビニに寄った時のことです。
同じコンビニの他の店では精算機での支払いだったので、レジ周りをキョロキョロとしてしまいました。
「あれ、ここは機械じゃないの?」
「ええ、うちは、まだなんです」
「このまま入れなくて、いいんじゃないの?」
「こっちのほうが、いいですか? はい、○○円のお返しです」
「僕はね。こうやってお姉さんと話ができるし(笑)」
「私も本当は、お客様とコミュニケーションがとれるので、このままのほうが、いいんですけどね」
なーんていう会話を楽しんできました。
でも次に、あのコンビニに行ったときは、僕の相手をしてくれるのは無表情の機械なんでしょうね。
昭和の時代には考えられなかったことです。
Posted by 小暮 淳 at 10:35│Comments(0)
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