2015年11月23日
今日のニュース
“47歳三女、介護を苦に無理心中”
“殺人および自殺幇助の疑い”
今朝、テレビのニュースで流れたテロップ。
画面には、どこかの河原の映像が映し出されています。
なんでも認知症の母親の介護を父親とともにしていた娘が、「死にたい」 と父親に言われたとかで、3人して川に身を投げたらしいのですが、自分だけ助かってしまったようです。
「だってよ、じいさん。よかったね、じいさんは、オレとかアニキに殺されなくてさ」
僕は、一緒にテレビを見ていたオヤジに話しかけました。
ま、見ていたのは僕だけで、オヤジは目も耳も不自由ですから。
ただ、ボーっとこたつに入っているだけですけど。
「なんか、口に入れるモノはないかな~」
「キャラメルならあるけど、食うか?」
「ああ、おくれよ。キャラメル、好きなんだ」
しばらくすると、今度は、
「風に当たりたいな~」
と言い出しました。
これは、いつもの “散歩へ連れて行け” の合図です。
「散歩、行くか?」
「えっ? 聞こえない」
「さ、ん、ぽっ!」
耳元で大声で叫ぶと、今度は、
「行くよ、行く行く! 連れてっておくれよ」
そう言って、さっさと立ち上がり、身支度を始めました。
この条件反射、愛犬のマロ君とまったく同じです。
「ちょっと、オヤジと散歩に行ってくるよ」
階下の部屋で、ベッドに横たわっているオフクロに声をかけました。
「ありがとうね。おとうさん、喜ぶよ。ああ、その前に、すまないけどトイレを換えてってくれないかね」
オフクロは足が不自由なため、ベッドの脇に簡易トイレを置いています。
1日1回、排泄物を捨てるのですが、その交換が今日はまだだったのです。
「じいさん、そこに腰かけて、ちょっと待っていてくれ」
そう言って僕は、慣れた手つきで、オフクロの排泄物を処理して、タンクを洗い、テキパキと交換しました。
「いつも、ありがとうね。感謝しています」
オフクロは実の息子に対しても、いつも丁寧にお礼を言ってくれます。
間違っても 「死にたい」 なんて、言ったことは一度もありません。
「さ、じいさん、お待たせ! 散歩へ行こう!」
「行こう、行こう~!」
「今日は、どこまで歩こうか?」
「どこでも、いいよ。お前の後をついて行くよ」
「あれ、まだキャラメルなめてるの?」
そう言うと、子どものように口の中から舌で押し出して見せるのです。
「うん、だって美味しいんだもの」
その笑い顔には、もう僕が知っている昔の恐かったオヤジの面影なんて、微塵もありません。
「そうか、美味しいのか! また買っておいてやるね」
どうして、死を選んでしまったのだろう……。
そんなに急がなくっても、いつかは必ず別れが来るのに……。
「さ、じいさん。風が冷たいから、今日はここまでで帰ろう」
お寺の境内で、僕はオヤジのやせ細った肩を強く抱き寄せました。
Posted by 小暮 淳 at 21:44│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
いつも心温まる内容に癒されています。
73歳になって娘たち夫婦と同居を始めて3ヵ月が過ぎました。
ブログを読んでいて他人事とは思えない親近感を覚えます。
・・・・・・・・(元群馬渋川OB)
73歳になって娘たち夫婦と同居を始めて3ヵ月が過ぎました。
ブログを読んでいて他人事とは思えない親近感を覚えます。
・・・・・・・・(元群馬渋川OB)
Posted by 気まぐれ爺さん at 2015年11月25日 09:13
気まぐれ爺さんへ
いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
いずれ自分も行く道です。
オヤジとオフクロに、“正しい老い方” を教わっているところです。
いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
いずれ自分も行く道です。
オヤジとオフクロに、“正しい老い方” を教わっているところです。
Posted by 小暮 淳 at 2015年11月26日 13:23