2019年06月17日
恩送り
10年が “ひと昔” ならば、“よつ昔” も前のことです。
当時、僕は両手に抱えきれないほどの大きな夢をたずさえて、大都会の片隅で生きていました。
まだ10代でした。
親からの仕送りは家賃と学費だけだったので、昼間はひたすらバイトに精を出して、夜学の音楽専門学校に通っていました。
夜学ですから、生徒の年齢はまちまちでした。
クラスでは僕が一番年下で、20代の会社員やOL、30代の主婦、なかには40歳以上のお父さんやお母さんのような人も音楽の勉強に来ていました。
もちろん、歌手の卵や売れないミュージシャン、ピアノ講師など、その道のプロを目指している人も数人いました。
「さ、ジュン! 行くぞ」
授業が終わると、毎日必ず誰かしらが僕を誘ってくれました。
喫茶店や居酒屋へ流れ込むのですが、その都度、僕は、
「あ、はい、……でもオレ、金ないっす」
と言葉を返すのでが、先輩たちは、
「お前に、金を払わせたことがあるか!?」
と言って、強制的に僕を夜の街へ連れ出してくれました。
また、休みの日には、
「おい、ジュン坊、あたしたちの荷物持ちしてくれよ。ランチ、おごってやるから」
と、お姐さまたちに誘われて、新宿や渋谷へ買物のお供として出かけたものでした。
卒業の日、僕は先輩やお姐さまたちに、感謝を込めて書いた手紙を手渡しました。
「このご恩は一生、忘れません。いつかビッグになって、必ずお返します」
と……。
その時、先輩の1人に言われた言葉が、生涯の宝となりました。
「俺に返してくれなくてもいいんだよ。この先、今のジュンと同じような境遇の後輩に会ったら、同じことをしてあげなよ。俺たちも、そうされて来たんだから」
恩を受けた人ではなく、別の誰かに返す?
このことを仏教用語で 「恩送り」 というのだそうです。
そのことを知ったのは、それからだいぶ時が経って、大人になってからのことでした。
恩を与えてもらった人に直接返すのは、「恩返し」 です。
その恩を知らんぷりする人を 「恩知らず」 と言います。
ともすれば、「恩知らず」 になりかねない僕を救ってくれた素敵な言葉でした。
親から子へ、子から孫へ。
これも「恩送り」 なんですね。
人生100年時代!
そろそろ僕も、受けるばかりでなく、送る人になりたいと思います。
Posted by 小暮 淳 at 12:01│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
恩送りという言葉とは知りませんでした。
私も(なるべく)そう心掛けています。
特に飲み屋で…。
先輩にはちつも奢ってもら、様々な勉強をさせてもらいました。ですから、
「いいよここは。お前は次の後輩に奢ってやれよ」
「俺たちもそうだったんだから」
「楽しい時間をつないでいけよ」
ってね。
カッコつけてるわけじゃないんですよね
私も(なるべく)そう心掛けています。
特に飲み屋で…。
先輩にはちつも奢ってもら、様々な勉強をさせてもらいました。ですから、
「いいよここは。お前は次の後輩に奢ってやれよ」
「俺たちもそうだったんだから」
「楽しい時間をつないでいけよ」
ってね。
カッコつけてるわけじゃないんですよね
Posted by T課長 at 2019年06月17日 14:01
T課長さんへ
恩は、返すだけではないんですね。
たとえば恩を返す相手が亡くなっている場合など、この「恩送り」が心の支えになってくれます。
送る相手がいるということ、それ自体が幸せなことだと感じます。
恩は、返すだけではないんですね。
たとえば恩を返す相手が亡くなっている場合など、この「恩送り」が心の支えになってくれます。
送る相手がいるということ、それ自体が幸せなことだと感じます。
Posted by 小暮 淳 at 2019年06月18日 10:55