2024年06月24日
不自然な暴力
書庫なんていう大それたものじゃないんですけどね。
僕の仕事部屋を出た廊下の右側に、小さな納戸があるんです。
一畳半ほどの細長い、物置部屋です。
ドアを開けるのもやっとぐらい、床には廃棄物同然の不用品が転がっています。
でも、僕が時々、こうやって、この部屋を訪れるのは、やはりここが自称 “書庫” だからなんです。
壁には一面、書棚が配されています。
先日、読み終えた本を仕舞いに、入った時でした。
書棚の上のまた上の方に、あずき色をした背表紙に、ひらがな三文字の文庫本が目に留まりました。
背伸びをして、取り出しました。
『こころ』 夏目漱石
なつかしい!
ページをめくると中は、すでにセピア色に変色していました。
いったい、いつ読んだのだろう?
奥付を開きました。
昭和二十七年二月二十九日 発行
昭和五十五年二月二十五日 八十七刷
とあります。
ほほう、40年以上前の本だ。
僕は20代前半です。
いったい、いくらだったんだ?
定価220円
安かったんですね。
今は文庫本でも、平気で7~800円しますものね。
で、どんな話だったっけ?
と、裏表紙の解説に目を通しました。
そうそう、鎌倉の海岸で出会った “先生” という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の話でした。
出会いのシーンは、おぼろげに覚えていますが、その後、どうなったんだっけ?
結末は?
あー、もう、気になって気になって、仕方がありません。
これは、一気に読破するしかない!
と、仕事部屋にもどり、1ページ目を開きました。
が、……ダメです。
字が小さ過ぎます。
今の文庫本の文字に比べると、半分ほどのサイズしかありません。
いつも読書に用いているお気に入りの老眼鏡をかけてみましたが、ダメです。
クッキリ見えるだけで、やはり字が小さ過ぎて読めません。
ということで、近くの100円ショップまで行って、「拡大鏡メガネ」 とやらを購入してきました。
"らくらく読める1.5倍” です。
これなら60代の僕にも読めます。
さて、みなさんは若い日に 『こころ』 は読みましたか?
大人になってから読むと、若い頃には感じ取れなかった細かい主人公の心情が読み取れて、面白いものですよ。
ことのほか今回、僕は、“先生” が冒頭で “私” に出会う早々に投げかけた言葉が、終始、胸に引っかかりながら読んでいました。
それは 「不自然な暴力」 です。
<新潮文庫 P59より引用>
「よくころりと死ぬ人があるじゃありませんか。自然に。それからあっと思う間に死ぬ人もあるでしょう。不自然な暴力で」
「不自然な暴力って何ですか」
「何だかそれは私にも解らないが、自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょう」
この言葉、気になりませんか?
気になった人は一読を、いや、若い日の感性と比べながら再読をおすすめします。
Posted by 小暮 淳 at 11:31│Comments(0)
│読書一昧