2020年02月07日
旅のめっけもん⑤
●旅のめっけもん 「アオバト」
宿から3kmほど入った山の中。
巨岩の間から、温泉が湧き出ていた。
ご主人が造った観察小屋の中で、息を殺して待つこと1時間……。
かすかな羽音がした。
1羽、2羽……と数えようとした瞬間だった。
突如、バタバタバタ、バタバタバタと激しい疾風が起こり、あっという間に目の前の泉が、何十羽という鳥の群れで覆われていった。
その光景に、しばし呆気にとられていた。
全身が緑色で、羽根のあたりがワイン色に赤い。
胸元が黄色いところから、地元では 「キバト」 とも呼ばれている。
その鮮やかな極彩色の容姿は、どう見ても南国の鳥である。
海岸の岩礁に飛来して、海水を飲むことで知られる鳥だが、ここでは、しきりに温泉を飲んでいる。
野栗沢に姿を見せるのは、5月から10月の半年間。
冬期は温暖地へ移動する。
1~2分間隔で群れは飛び立ち、入れ替わり別の群れがやって来る。
まるでリーダーがいて、交替の合図を送っているかのようだ。
5、6回繰り返されたところをみると、数百羽のアオバトの群れに囲まれていたことになる。
小屋から出ると、周辺に淡緑色の羽根が散在していた。
青い鳥に出合えた記念に、一枚もらって帰ることにした。
<2004年12月 野栗沢温泉>
●旅のめっけもん 「仙人窟 (せんにんくつ)」
関所跡のある 「大戸」 の信号から、県道を中之条方面へわずかに向かった左手。
「仙人窟」 の矢印に誘われて、長い参道を上り始めた。
たかだか200mの道程だが、あまりの急登に息が切れる。
突然現れた洞窟は、入口の高さ8m、幅14m、奥行26m。
魔物が大口を開けて、私を飲み込もうとしているかのように立ちはだかった。
たしかに仙人でも住んでいそうな岩屋である。
仰ぎ見上げていると、その巨石が覆いかぶさってくる恐怖心にかられる。
一説には先住民族の穴居の跡ともいわれているが、洞内には江戸時代の修行僧が造ったとされる石像の十八羅漢や聖観世音像が安置されている。
手前の分岐を左に行くと、ポッカリと岩肌に穴のあいた石門をくぐる。
胎内窟を通り抜け、突き当たったところに 「奥の院」 と呼ばれる復窟がある。
耳をすますと、真下を流れる温川(ぬるがわ) の瀬音が仙人窟に谺(こだま) している。
往時の、信仰の盛んなりし頃を物語っているようである。
<2005年1月 鳩ノ湯温泉>
2020年02月05日
『上州湯めぐり ものがたり』 開催中
「文書館」 と聞くと、敷居が高いと思ってしまいませんか?
かく言う僕も、そうでして、図書館の利用頻度に比べると、過去に数えるほどしか行ってません。
でも、テーマ展示があるときは、覗くようにしています。
しかもテーマが温泉となれば、必見です。
昨年夏に開催された 『群馬の温泉』 に続き、今年も群馬県立文書館では、新年から温泉をテーマにした展示をしています。
題して、『上州湯めぐり ものがたり』。
前回が明治~昭和初期の資料が中心でしたが、今回は江戸時代の温泉に関する古文書や絵図が展示されています。
また、草津・伊香保・四万などの主要温泉地だけではなく、温泉と文化の関わりや温泉地に向かう街道や交通、温泉に関係する産業、さらには温泉地で起きた事件なども紹介しています。
正面玄関に入って、最初に目に付くのは、文化14年(1817) に発行された 「諸国温泉功能鑑」 です。
いわゆる江戸後期の温泉番付表です。
最上位の東の大関には、ご存じ草津温泉が書かれています。
次いで前頭には、伊香保、川原湯、四万、老神といった群馬県民には馴染みの温泉地が並んでいます。
特筆すべきは、勧進元(興行の世話人) として沢渡温泉が名を連ねていることでしょうか。
温泉地の規模でいえば、大健闘だと思います。
さすが、昔から 「草津のなおし湯」 といわれるだけあります。
興味深いのは、当時の沢渡温泉の効能書です。
「瘡毒(さくどく)」(梅毒)、「皮癬(ひぜん)」(疥癬) といった皮膚病の類いが列記されていることです。
現在でも 「美肌の湯」 「美人の湯」 といわれるゆえんなんですね。
個人的には、当時の旅人が役所や関所へ湯治のために提出した文書の展示に、大変興味をひかれました。
もちろん、古文書は読めませんが、解説が書かれていますので、当時の様子は分かります。
それほどまでして温泉地へ向かった江戸時代の人たちにとって、湯治は、ただ単に病気を治す療養目的だけではなく、世の塵を洗うバカンスだったのでしょうね。
そう考えると、1泊2日で帰って来てしまう現代人より、昔の人のほうが贅沢なレジャーを楽しんでいたということです。
楽しみ方はいろいろです。
昔の温泉事情に興味がある人は、文書館に足を運んでみてください。
『上州湯めぐり ものがたり』
●期間 令和2年1月8日(水)~3月22日(日)
午前9時~午後5時 (観覧無料)
●休館 月曜日、祝日、月末
●会場 群馬県立文書館 (前橋市文京町3-27-26)
TEL.027-221-2346
2020年02月04日
謎の生物 「ヘイサラパサラ」
相変わらず僕は、“ケサランパサラン” を追いかけています。
ケサランパサランとは、江戸時代以降に民間伝承により伝わるナゾの生物です。
調査により、新たな事実が判明しました。
ケサランパサランは、少なくとも3種類が存在するということです。
先日、ケサランパサランを飼育しているという男性にお会いして、話を聞くことができました。
彼は酒を呑んだ帰り道に、川のほとりを歩いている時に舞い降りてきたところを捕獲したといいます。
自宅で大切に保管されているということで、まだ実物は見ていませんが、僕がケサランパサランの資料を見せると、「このタイプです」 とタンポポの綿毛のようなものが写っている写真を指さしました。
いわゆる 「植物性ケサラン」 といわれる、もっともポピュラーなタイプです。
一説では、アザミやオキナグサなどの花の冠毛ではないかとされています。
直径は2~3cmですが、飼育により枝毛が伸びて、倍以上の大きさにもなるようです。
エサは一般には、おしろいの粉とされています。
資料を眺めていた彼が、こんなことを言いました。
「こっちのタイプは珍しいんだよ。なかなか、お目にかかれません」
彼が指さしたのは、いわゆる 「動物性ケサラン」 です。
“毛ん玉” ともいわれ、直径は5~6cmあるケサランパサランです。
色は、白、茶褐色、白と茶のまじりとバリエーションがあり、球形です。
一説には、ウサギやタヌキやキツネの毛玉ではないかともいわれています。
僕が子供の頃に見たケサランパサランは、このタイプです。
白いマリモのような物体でした。
※(当ブログの2020年1月8日 「求む! ケセランパサラン」 参照)
で、調査を進めていると、第3のケサランパサランを飼育している人がいることが分かりました。
資料の写真を見ると、まったく別の物体です。
直径は8~10㎝もあり、色はクリームがかった乳白色で、重量も30g以上あるといいます。
大きめのリンゴやナシ1個分に相当します。
見た目、毛の無い球体で、磨いた白い石の玉のようです。
飼育している人によれば、この物体はケサランパサランとは言わず、「ヘイサラパサラ」 または 「ヘイサラパーサラ」 と呼ばれているとのことです。
語源はポルトガル語で 「馬の結石」 という意味だそうで、そのため 「馬ん玉」 「うまだま」 とも呼ばれています。
また東北地方では、この馬ん玉は、雨乞いの儀式にも使われるらしい。
神前に供え物を捧げ、前に水を張ったタライを置く。
「オンコロコロ、センダーリマタ、アニソワカ」
神主が呪文を唱えながら、馬ん玉をタライの中に落とすと、不思議や不思議、ザーッと天から雨が降ってくるのだといいます。
ということで、僕は今、このヘイサラパサラに会いたくて仕方ありません。
どなたか、飼育していませんか?
情報をお寄せください。
2020年02月03日
旅のめっけもん④
●旅のめっけもん 「おっきりこみ」
縁側のある和室で、大女将がうどんを打っていた。
来年、傘寿を迎えるとは思えない若々しさ。
とりわけ肌の張りと艶は、大正生まれとは、とても思えない。
やはり、温泉の美肌効果の恩恵なのだろうか。
「顔は心の遊びどこ……、ここに美人がいるわけじゃないよ。わたしは心の美人だよ」
そう言って、快活に笑ってみせた。
地元農家で採れた小麦をひいて粉にして、清水でねる。
寝かして、なじませ、手で打つ。
「小さい時から子守をしながら、うどんをぶって (打って) たからね。かれこれ70年は、ぶってるよ」
かど半旅館に嫁いで、50年。
大女将の打つ 「おっきりこみ」 は、いつしか宿の名物になっていた。
その味を、現在は息子さんが継いでいる。
いんげん、にんじん、里いも、なす、みょうが……
採りたての野菜が10種類も入った自然度100%のおっきりこみが、夕げの膳におふくろの味を添えていた。
<2004年10月 川中温泉>
●旅のめっけもん 「索道(さくどう)」
草津へ向かう国道から狭い急坂を下ると、左手に平地の駐車場がある。
ここが湯の平温泉の玄関口だ。
人はここで車を降り、徒歩で山道のアプローチを行くことになる。
まず到着したら、駐車場脇のインターホンを押してみよう。
宿の人の声がして、歓迎の言葉と、荷物の有無を訊いてくれる。
その後の山歩きを考えれば、多少の荷物でも預けたほうが良いだろう。
で、その荷物は……。
駐車場の奥にあるロープウェーの荷台に乗せると、ひと足先に宿に着いているという仕組み(サービス) である。
これは架空索道と呼ばれる鋼索(ワイヤーロープ) に搬器を吊るして物を運搬する設備で、鉱業や林業など深山での作業には欠かせない運材施設である。
戦時中、ここ入山地区には鉄山があり、湯の平は採掘を請け負った軍需会社の保養宿舎だった。
索道も、その頃に造られたらしい。
今春、内風呂が真新しくリニューアルした。
工事に使用したすべての資材は、この索道により運ばれた。
<2004年11月 湯の平温泉>
2020年02月02日
源泉ひとりじめ(11) 「神の啓示だった」 と、泉主は言った。
癒やしの一軒宿(11) 源泉ひとりじめ
五色温泉 「三楽旅館」 伊勢崎市
県道を通るたび、いつも気になっていた。
物見やぐらのように屋上高くそびえる貯水タンク、異彩を放つ唐破風の瓦葺き屋根をもつ玄関。
さらに大きく書かれた 「五色温泉」 の文字……。
私には、まるで伝奇の中に現れる魔宮の楼閣に見えていた。
人づてに聞けば、「市街地の秘湯」 だという。
伊勢崎市街地の東端、工業団地に隣接した立地条件は、あまりにも “秘湯” のイメージからかけ離れている。
しかし必ずしも秘湯は、深山幽谷の風光明媚な地になくてはならないわけではない。
読んで字のごとく、「人に知られていない温泉」 のことである。
結界に足を踏み入れた気分だった。
「ごめんください」 と声をかけるが、フロントに人の姿がない。
呼び鈴を押すと、しばらくして “泉主” が現れた。
さっそく、温泉の起源や効能の高説を拝聴することになった。
昭和42年のこと。
もともと自動車の修理販売業をしていた主人が、中古車の展示場を開設するつもりで購入したのが、ここの土地だった。
まずは水が必要と、井戸を掘ったところ、湧き出したのは鉄分を多量に含んだヘンな水だった。
しかし、主人は 「これは天啓だ」 と、この水を溜めて加熱した。
すると透明な源泉が白濁色から黄土色に変色した。
さらに茶色から赤レンガ色へと、五色に色を変えた。
これが温泉名の由来である。
その “天啓の湯” は、地下道のような廊下の突き当たりにあった。
一歩足を踏み入れて、驚いた。
浴槽もタイル張りの床も、鉄サビで赤褐色に染まっている。
伊香保温泉の5倍の含有量にあたる鉄分を目の当たりにした。
湯舟はレンガ色のあつ湯42度、茶褐色のぬる湯36度、透明な源泉17度に分かれている。
これらを交互に入ると、より効能があるらしい。
鉄のにおいを嗅ぎながら、まずは肌まで染まりそうな赤い湯の中へ。
体を動かすたびに沈殿している鉄サビが、舞い上がってくる。
まるで大地に抱かれているようで、不思議な安堵感に包まれてゆく。
まさに温泉は地球からの贈り物である。
こんな町の中に突如湧き出したのも、やはり神の啓示だったのだと納得した。
●源泉名:宏泉の湯
●湧出量:40ℓ/分 (動力揚湯)
●泉温:16.7℃
●泉質:単純鉄冷鉱泉
<2005年2月>
2020年02月01日
巡回展第2弾、本日より開催!
もちろん著者としては、うれしい限りなのですが、こうやって著書たちが著者の手を離れて、独自の展開をしていく様子を不思議な気持ちで眺めていました。
昨年夏、拙著 『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん) の出版1周年を記念して、戸田書店高崎店で開催された 「栗原俊文 表紙画展」。
イラストレーレーターの栗原氏による表紙の原画作製から装丁ができ上がるまでの詳細を事細かに解説したパネル展示です。
おかげさまで盛況に終わり、著書の販売も記録的な数字となりました。
ということで、この表紙画展が、戸田書店様と出版元のご厚意とご協力により、“巡回展” という形で県内の書店で順次開催されることになりました。
その第2弾として戸田書店前橋本店にて、本日より展示会が始まりました。
昨日、会場作りの現場に、著者として立ち会ってきました。
自分の本のことなのに、他人の手によりディスプレーされていく様子は見ていて、やはり不思議な感覚になります。
過去には、僕の本を一堂に集めた “フェア” なるものを開いてくれた書店がありました。
また特設会場を設けて、サイン会まで開いてくださいました。
著者としては、この上ない喜びであります。
でも今思えば、1回限りのイベントです。
そして、あくまでも主役は僕でした。
でも、表紙画展は違います。
主役は表紙画を描いた栗原氏であり、栗原氏の手により命を吹き込まれた妖怪や獣たちであります。
そして、その主役たちが県内の書店をまわり、僕の本を売ってくれているのです。
不思議でたまりません!
ただ分かったことが、1つだけあります。
著書とは、著者1人のものじゃないということです。
編集者やデザイナー、カメラマン、イラストレーター……
そして出版社や書店のたくさんの人たちの力により、やっと読者の元に届けられていることを、あらためて知りました。
そんな、たくさんの人たちの思いが込められた表紙画展です。
ぜひ、お立ち寄りください。
『ぐんま謎学の旅 民話と伝説の舞台』
栗原俊文 表紙画展
●会期 2020年2月1日(土)~3月7日(土) 10:00~22:00
●会場 戸田書店 前橋本店 (群馬県前橋市西片貝町4-16-7)
●問合 ちいきしんぶん TEL.027-370-2262