2020年02月03日
旅のめっけもん④
●旅のめっけもん 「おっきりこみ」
縁側のある和室で、大女将がうどんを打っていた。
来年、傘寿を迎えるとは思えない若々しさ。
とりわけ肌の張りと艶は、大正生まれとは、とても思えない。
やはり、温泉の美肌効果の恩恵なのだろうか。
「顔は心の遊びどこ……、ここに美人がいるわけじゃないよ。わたしは心の美人だよ」
そう言って、快活に笑ってみせた。
地元農家で採れた小麦をひいて粉にして、清水でねる。
寝かして、なじませ、手で打つ。
「小さい時から子守をしながら、うどんをぶって (打って) たからね。かれこれ70年は、ぶってるよ」
かど半旅館に嫁いで、50年。
大女将の打つ 「おっきりこみ」 は、いつしか宿の名物になっていた。
その味を、現在は息子さんが継いでいる。
いんげん、にんじん、里いも、なす、みょうが……
採りたての野菜が10種類も入った自然度100%のおっきりこみが、夕げの膳におふくろの味を添えていた。
<2004年10月 川中温泉>
●旅のめっけもん 「索道(さくどう)」
草津へ向かう国道から狭い急坂を下ると、左手に平地の駐車場がある。
ここが湯の平温泉の玄関口だ。
人はここで車を降り、徒歩で山道のアプローチを行くことになる。
まず到着したら、駐車場脇のインターホンを押してみよう。
宿の人の声がして、歓迎の言葉と、荷物の有無を訊いてくれる。
その後の山歩きを考えれば、多少の荷物でも預けたほうが良いだろう。
で、その荷物は……。
駐車場の奥にあるロープウェーの荷台に乗せると、ひと足先に宿に着いているという仕組み(サービス) である。
これは架空索道と呼ばれる鋼索(ワイヤーロープ) に搬器を吊るして物を運搬する設備で、鉱業や林業など深山での作業には欠かせない運材施設である。
戦時中、ここ入山地区には鉄山があり、湯の平は採掘を請け負った軍需会社の保養宿舎だった。
索道も、その頃に造られたらしい。
今春、内風呂が真新しくリニューアルした。
工事に使用したすべての資材は、この索道により運ばれた。
<2004年11月 湯の平温泉>
Posted by 小暮 淳 at 11:57│Comments(0)
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