2020年04月03日
旅のめっけもん⑪
このカテゴリーでは、現在、ブログ開設10周年を記念して不定期掲載中の 「源泉ひとりじめ」(2004年4月~2006年9月に 「月刊ぷらざ」 に連載) に併載されたショートコラム 「旅のめっけもん」 を紹介しています。
温泉地で見つけた旅のエピソードをお楽しみください。
●旅のめっけもん 「赤城神社の御神水」
赤城山の 「アカ」 は色の赤ではなく、仏教語の 「閼伽(あか)」 に由来するもので、特に仏や貴賓に献上する水を意味しているという。
「ギ」 は囲いや器を意味し、赤城の語源は 「高貴な水の湧くところ」 にあるらしい──。
鳥居をくぐるり石段を上ると、杉の巨木が林立する荘厳な境内に出た。
左手に石の水槽があり、石樋から惜しみなく、とうとうと水が流れ出ている。
そぼ降る雨の中、台車にポリ容器をいくつも載せた老夫婦が、水を汲んでいた。
「今日は平日だから空いているね。土日はいつも行列ができるよ」
と、奥さんが言った。
コップが置いてあるので、一口飲んでみる。
無味無臭、サラリとした軽い水である。
「うちの嫁は、この水じゃないとコーヒーを淹れないんだ。それくらい味が違うらしい。毎日、汲みに来るそば屋の主人もいるよ」
と、台車を押しながら、ご主人は言った。
確かに、赤城山には湧き水が多い。
太古の昔から、こんこんと湧き出している恵みの水は、我々の先祖が見つけ、そして残してくれた自然遺産のように思えてならなかった。
<2006年1月 滝沢温泉>
●旅のめっけもん 「干俣の諏訪神社」
若女将との雑談の中で、不思議な話に出合った。
宿から少し下ったところに、深い杜に抱かれた村社がある。
なんでも地元では、とにかく願い事が叶う神様らしい。
同宿では毎年、繁忙期になると、アルバイトの募集をかけている。
例年は断るほどの応募があるのに、なぜか去年に限って1人の雇用もなかった。
困り果てた若女将は、昔から頼りにしている信州のとある寺の僧侶に相談した。
すると僧侶は、この村社の名を告げてきたという。
さっそく若女将は、酒と米と賽銭を持って詣で、願いを告げた。
すると翌日、1本の電話が鳴った。
アルバイトを希望する若い女性からだった。
「うわさは聞いていたけれど、とにかく驚きました。正月の元旦には神主が来て、その年の農作物を占います。昔から実に良く当たると評判です」
翌朝、行ってみることにした。
モミの大樹に覆われた境内は静寂のなかにあり、本殿も村社とは思えないほど立派な佇まいをしていた。
願い事が叶うと言われても、小市民の私には大それた野望も夢も浮かばない。
とりあえず、家族の健康だけを祈願して帰った。
<2006年2月 奥嬬恋温泉>
Posted by 小暮 淳 at 11:43│Comments(0)
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