2020年02月28日
旅のめっけもん⑦
このカテゴリーでは、現在、ブログ開設10周年を記念して不定期掲載をしている 「源泉ひとりじめ」(2004年4月~2006年9月に 「月刊 ぷらざ」 で連載されたエッセー) に併載されたショートコラム 「旅のめつけもん」 を紹介しています。
温泉地で見つけた旅のエピソードをお楽しみください。
●旅のめっけもん 「千明(ちぎら)牧場」
腰まである残雪の中、かろうじて門柱に書かれた 「千明牧場」 の文字が読めた。
加羅倉館(からくらかん) のオーナーが経営する牧場である。
1周1,600メートルある馬場は、今はただ一面の銀世界が広がるだけだ。
案内された管理棟の壁に掛かる一枚の写真に、彼はいた。
父はトウショウボーイ、母はシービークイーン。
彼の名は、ミスターシービー号。
1983年の皐月賞、日本ダービー、そして菊花賞の三冠を制し、歴史に残る三冠馬の1頭に名を連ねた名馬である。
彼は1980年4月に、北海道で生まれた。
翌年、オーナーブリーダーの千明大作氏が経営するここ千明牧場に移され、育てられた。
千明牧場の歴史は古く、サラブレッドの生産を始めたのは昭和初期のこと。
戦前には 「マルヌマ」 で帝室御賞典(現・天皇賞) を、「スゲヌマ」 で日本ダービーを制覇している。
戦後になってからは、「コレヒサ」 で天皇賞優勝、そして 「メイズイ」 で皐月賞と日本ダービーの二冠を制した実績をもつ。
個人経営の小さな牧場でありながら、ダービー馬を何頭も輩出している全国的にも類のない伝統ある牧場である。
2000年12月、ミスターシービーは蹄葉炎による衰弱のため、千葉県の千明牧場で死去した。
享年21歳(数え年) だった。
今でも競馬ファンが、この地を訪ねて来るという。
<2005年4月 白根温泉>
●旅のめっけもん 「瀬戸の滝」
「あっ、滝だ!」 と思ったのも束の間、そのまま通り過ぎてしまった。
国道144号沿い、長野原町から嬬恋村へ向かう途中のことだった。
国道まで水しぶきを散らす勢いで、突如と現れた姿に一瞬、ブレーキを踏みそうになったくらいだ。
宿の主人に訊くと、「瀬戸の滝」 と教えてくれた。
なんでも冬場の渇水期には姿を現さない “まぼろし” の滝らしい。
翌朝、滝つぼまで行ってみた。
と言っても、国道脇の駐車スペースに車を停めて、徒歩0分の距離。
車窓からも見られるが、やはりじっくりと観賞したい。
見上げると、細い樋状の落ち口から吹き出した水が、岩盤の上を二度三度と跳びはねるように滑り落ちてくる。
最後は、すそを広げながら岩の切れ目で、そり返るようにジャンプして、滝つぼへ。
そのまま国道をくぐり、吾妻川へ流れ込んでいる。
目測で30メートル以上はあるように見えたが、調べた資料によれば10~50メートルと、その落差の表記はさまざま。
これもまた、“まぼろし” の名にふさわしい気がした。
<2005年5月 つま恋温泉>
Posted by 小暮 淳 at 10:54│Comments(0)
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