2019年07月04日
ブリカマのごほうび
先週から講演と講座が続き、さらに週末には泊まりの出張が重なったため、さすがに還暦過ぎの老体は音を上げています。
とはいえ、フリーランスの身。
“締め切り” という絶対条件は待ってくれません。
週明けから、原稿の執筆に取りかかっていました。
「終わったーーーーッ!」
思わず、仕事部屋で一人、大声を上げてしまいました。
時計を見れば、まだ午後の4時……
「ごほうびを上げますか?」 「上げましょう!」
なんて、自問自答のひとり芝居を演じながら、いそいそと家を出たのであります。
こんな時、頑張った自分へのごほうびは、酒処 「H」 と決めています。
カウンター8席だけの小さな居酒屋です。
従業員は、ママが1人だけ。
でも、いつ行っても満席です。
だから絶対に座りたいときには、事前予約を入れるか、オープン前に滑り込むのが得策です。
常連客には、「月曜日の男」 とか 「火曜日の令嬢」 とか 「水曜日のダンディー」 など、必ず、その曜日に来る人がいて、顔ぶれがカレンダー代わりとなっています。
さて、今日は、どんな顔ぶれなのでしょうか?
「あら、ジュンちゃん!」
ママのかん高い声が、カウンターの奥から出迎えてくれました。
早くも初老の男性が、入口近くの席で、一人飲みしています。
迷わず一番奥の席へ。
先客がいない限り、僕は決まって、この席に座ります。
「お2人は、初めてだっけ?」
10年以上通っていても、一度も会ったことのない客というのが、この店にはいるのです。
それだけ客層が広く、ファンが多いということです。
「こちら、画廊オーナーの○○さん」
「はじめまして。小暮です」
「こちらはジュンちゃんね。ライターさん。本書いている人」
とかなんとか、ママの紹介があり、とりあえず乾杯!
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ジュンちゃん、お疲れさまでした。講演で出かけていたんでしょ?」
「だから今日は、ごほうびなんです」
「そうだよね、頑張ってるんだもの。はい、カンパイ!」
マ、マ、ママーーーー!!!!!
そんなこと言ってくれるのママだけだよ。
毎度のことですが、今にもママのやさしさに涙腺がブチ切れそうになります。
1杯、2杯……
いつもは生ビールは2杯と決めているのですが、解放感からか 「ビールをもう1杯だけ」。
「あら、珍しい」 と言いながらもママは、ちゃんと客の好みを心得ていて、その次に僕が飲む冷酒の用意を忘れません。
「はい、ごほうび!」
目の前に出されたのは、な、な、なんと!
大好物のブリのカマ焼きではありませんか!
焼き加減といい、塩加減といい、絶品の味であります。
「大当たりだ!」
そうなんです。
一切メニューのない、おまかせ料理の 「H」 で、ブリカマが出たら大当たり。
おみくじで、大吉を引いたようなものです。
1杯が2杯、3杯、4杯……
ブリカマを突きながら、あわただしく過ぎ去った日々を見送ったのでした。
おお~、“命の水” が五臓六腑に染み渡る~~!
Posted by 小暮 淳 at 11:56│Comments(0)
│酔眼日記