2020年07月30日
温泉考座 (14) 「いい温泉の条件」
いい湯守 (ゆもり) は、源泉に手を加えることを嫌います。
自然に湧いた温泉を、そのままの形で浴槽まで流し入れたいからです。
これを 「自然流下」 といいます。
動力を使わず、地形の高低差だけを利用して引き湯をすることです。
よって、いい湯守のいる宿の浴室は、必ず建物の階下にあります。
宿に着いて、風呂へ行こうとすると、フロントのある階よりも下へ下へと、いくつもの階段を下りた経験はありませんか?
これは、源泉の湧出地より低い場所に浴室が造られているからです。
自然湧出の温泉は、たいがい地層が露出している川のそばに湧きます。
この温泉を効率良く利用しようと思えば、浴槽を川のほとりに造ります。
しかし、宿は水害などの危険を考えて、川を見下ろす高い場所に建てられます。
浴室が建物の階下にあるのは、当然のことなのです。
草津温泉へ行くと、老舗と呼ばれる古い旅館は、「湯畑」 より低い場所に建てられていることに気づくはずです。
これも自然流下により、新鮮な源泉を浴槽へ引き入れるために考えられた先人たちの知恵です。
ところが大きな観光旅館やリゾートホテルへ行くと、建物の最上階に展望風呂なる大浴場を見かけることがあります。
これなどは、まったくもって自然の理に反している給湯方法といえます。
動力によりポンプアップし、一度、屋上のタンクに温泉をためてから各浴槽へ給湯するわけですから、湯は空気に触れ酸化し、時間の経過とともに劣化します。
温度も下がるので、加温し直してから浴槽へ送ることになります。
これでは、絶景は望めるかもしれませんが、温泉の質は望めません。
「自然湧出」 「自然流下」 「完全放流(かけ流し)」、これが、いい温泉を見極める3条件です。
今や全国でも、この条件を満たしている温泉は希少な存在ですが、温泉ファンなら探す価値は十分にあります。
ぜひ、宿に着いたら源泉の湧出場所を聞いてみてください。
湯守のいる宿ならば、丁寧に浴槽までの温泉の給湯方法を教えてくれるはずです。
<2013年7月10日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:26│Comments(0)
│温泉考座