2021年04月15日
温泉考座 (82) 「群馬にうまいものあり」
いったい、いつからでしょうか?
温泉旅館に泊まると、食べきれないほどの豪華な料理が並ぶようになったのは。
これも戦後の日本が築き上げた “豊かさ” の象徴なのかもしれません。
“質” から “量” への変化は、そのまま “湯治場” だった温泉地が “観光地” に移行した時期と重なります。
また、温泉地へ行く目的も “保養” から “レジャー” に変わりました。
美味しいものをお腹いっぱい食べることは、確かに旅の楽しみの一つです。
でも旅の基本は、あくまでもふだん食べられない、その土地のものを味わうこと。
なのに海から遠い山中の旅館で、刺し身の盛り合わせが出てきたり、カニの食べ放題が人気と聞いたりすると、がっかりしてしまいます。
いくら流通事情が良くなったといえ、それでは旅をしている意味がありません。
やはり海へ行ったら海のものを、山へ行ったら山のものを、美味しくいただきたいものです。
以前、県外のご婦人から、こんなことを言われました。
「温泉が好きだから群馬には時々行くんだけど、必ず旅館でうどんが出るわよね。あれが楽しみなの」 と。
これぞ群馬が他県に誇る粉食文化です。
粉食はうどん以外にも 「おっきりこみ」 や 「すいとん」、「おやき」 など多彩で、土地土地で味も呼び名も異なります。
すいとんも片品村では 「つめっこ」、旧六合村 (中之条町) や嬬恋村では 「とっちゃなげ」 と方言で呼ばれています。
「だんご汁」 「おつけだんご」 などと呼ぶ地域もあり、鍋料理として客人をもてなしています。
温泉地にも、客人をもてなす美味しいものがあります。
上牧温泉 (みなかみ町) では、地域に伝わる川魚や野菜を炭火で焼く 「献残焼(けんさんやき)」。
下仁田温泉 (下仁田町)」 では、昔から祝いの席に出される 「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」。
老神温泉 (沼田市) の 「山賊鍋」、梨木温泉 (桐生市) の 「キジ料理」 など、滋味豊かな山や川の幸をふんだんに盛り込んだ郷土料理が旅館の名物となっています。
群馬には海はありませんが、それに代わる美味しい食材が、たくさんあります。
ぜひ、湯めぐりをしながら郷土の味を楽しんでください。
<2015年3月11日付>
Posted by 小暮 淳 at 09:44│Comments(0)
│温泉考座