2021年09月18日
オオカミに乗って
目が覚めると、そこは薄暗い洞窟の中だった。
ウッとむせ返るような獣臭が、鼻孔を突いた。
寝床を手で探ると、フカフカの毛皮の上だった。
やがて洞窟の入り口から朝日が射すと、状況が分かってきた。
何頭ものオオカミの群れ……
そのオオカミの群れの真ん中に、僕は横たわっていた。
突然、群れが一斉に洞窟の入り口を向いた。
一頭の若いオオカミが、息を切らしている。
そして話し声がする。
なぜか僕は、オオカミの言葉が分かるらしい。
「人間が、すぐそこまで来ている。森が荒らされている」
すると、ムクッと寝床が動き、僕は地面に振り落とされてしまった。
僕が寝ていたのは、群れの中でも一番大きなオオカミの腹の上だったのだ。
「ロボ、どこへ行くの?」
僕は、なぜか一番大きなオオカミの名前を知っていた。
たぶん、子どもの頃に読んだシートン動物記の 『オオカミ王 ロボ』 から勝手に付けた名前だと思うけど……。
「行く」
「どうして?」
「この森は人間のものじゃない」
そう言うとロボは、洞窟を飛び出した。
「まってよ、僕も行くよ!」
僕はロボの背中に飛び乗った。
後からオオカミの群れも続いた。
ロボは疾風のごとく、森の中を走り抜けた。
ここで夢から覚めました。
なぜ、こんな夢を見たのかは分かっています。
寝る前に、柴田哲孝・著 『WOLF』 という本を読んだからです。
舞台は埼玉県の奥秩父。
両神山周辺で次々と家畜が襲われる不可思議な事件が発生します。
昔から “山犬伝説” が残る地で、その山犬らしき大型動物の群れが徘徊しているという目撃談が警察に寄せられていました。
という柴田哲孝氏お得意のネイチャーミステリーであります。
山犬とはオオカミのことです。
日本にはかつて 「ニホンオオカミ」 が生息していましたが、明治時代に絶滅しています。
でも僕は、この絶滅したニホンオオカミが、今でも日本のどこかで生き延びているのではないかと思っています。
そう思うようになったのは、かれこれ15年以上も前のこと。
取材で “幻の犬” を見てからです。
群馬県上野村に、十石犬 (じっこくいぬ) という犬が保存会により守られています。
柴犬のルーツといわれる土着犬です。
昭和の初め、長野との県境にある十石峠で、「すごい犬を見た!」 というウワサが広がりましたが、やがてウワサはなくなり、昭和30年代には絶滅したといわれています。
ところが上野村で十石犬の血を受け継ぐ犬の交配を繰り返し、復活させたというニュースを知り、僕は取材に飛んで行きました。
そのとき見た、十石犬の “目” が今も忘れられません。
“クサビを打ったような沈んだ目”
保存会の人は、十石犬の目のことを、そう言います。
確かに見つめていると、深い沼のようで吸い込まれそうになる独特の目をしていました。
だもの、きっとニホンオオカミも、どこかにいますって!
たとえ絶滅したとしても、血を受け継ぐ山犬が生きていると思うんです。
夢の中で見た夢が叶う日を、僕は夢見ています。
※(十石犬については、当ブログ2010年11月9日、12日の 「十石犬を追え!」 上・下を参照)
Posted by 小暮 淳 at 17:27│Comments(0)
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