2024年12月12日
緑なき島
ここに一冊の写真集があります。
『軍艦島 海上産業都市に住む』 岩波書店
写真/伊藤千行 文/阿久井喜孝
発行は1995年2月。
約30年前に購入しました。
今年10月からTBS系テレビドラマ 『海に眠るダイヤモンド』 が始まりました。
舞台は昭和30年代の長崎県端島。
通称、軍艦島です。
世界遺産にもなっているので、誰もが、その奇怪な島の形には見覚えがあると思います。
僕も、そうでした。
「あっ、知っている」
くらいなものです。
でも……
ドラマの視聴回を重ねるほど、デジャヴュ (慨視体験) のような感覚がよみがえってくるのです。
「あれ? もしかして……」
そう思い、我が家の小さな書庫へ。
1時間かけて、引っ張り出してきたのが、この写真集です。
本の帯には、こう書かれています。
<初めて見る 「軍艦島」 の暮らし>
<高度経済成長の直前、日本の西端の超高密度空間に 生活の熱気と産業の力強さが溢れていた。>
端島は海底炭鉱です。
最初は小さな岩礁でしたが、鉱区の拡張とともに埋め立てをくりり返し、護岸が拡張されました。
長さ約480メートル、幅約160メートル、面積約6.3ヘクタールの人工島に成長します。
明治23(1890)年開山、昭和49(1974)年閉山。
84年間、石炭を掘り続けました。
人口は昭和30年代のピーク時には、5,300人を超えたといいます。
“世界一の人口密集地” と呼ばれました。
なぜ30年前、僕は、この本を買ったのでしょうか?
理由は覚えていませんが、今、ページをめくるとワクワク感が止まりません。
白黒写真の中から小さな人工島で暮らす、活気ある生活の声が聞こえてきます。
コンクリートのアパートが立ち並び、狭い路地と階段を人々は行き交います。
スーパーも映画館も銭湯も床屋も食堂も、なんでもあります。
居酒屋やバーだってありました。
まるで島全体が大きなコンビニのよう。
小さな未来都市です。
戦中戦後を乗り越えた高度成済成長前の活気ある日本の姿があります。
不思議なのはページをめくっていると、ワクワク感の先に物悲しさを覚えるのは、なぜなのでしょうか?
ページを閉じたとき、一本の映画を観終わったような充足感と寂寥感がありました。
※ 『緑なき島』 は、端島を舞台にした映画のタイトルです。
Posted by 小暮 淳 at 11:34│Comments(0)
│読書一昧