2024年11月16日
逃げるが勝ち
<つらいときは、逃げてもいいんだ―――。
そんな認識がだいぶ広がりをみせている。命より大事なものなど、この世にはない。つらいときは、誰にも気兼ねすることなく、その状況からの脱出をはかるべきである。>
( 「はじめに」 より)
思えば、僕の人生も逃げてばかりでした。
学校の勉強と規則から、社会の常識と偏見から、家族の束縛と責任から……
そして、今でも世間のしがらみから逃げ続けています。
でもね、僕の逃避癖なんて、かわいいものですよ。
文豪たちに比べればね。
真山知幸・著 『逃げまくった文豪たち』 (実務教育出版)
まあ、笑っちゃいます!
勉強、学校、恋愛、家族、仕事、お金……
とにかく、逃げて逃げて逃げまくる文豪たちに、開いた口が塞がりません。
完全に社会人失格の面々。
でもね、文豪たるもの、そのくらい我がままじゃなければ、名作を世に残せないといことなんですね。
たとえば、石川啄木は、自分の結婚式をドタキャンして、逃亡します。
5日後に、一人で式を挙げた妻の前に、ひっこり顔を出します。
ところが妻は啄木に、こう言うんですね。
「私はあくまでも愛の永続性を信じたい」
まー、良くできた妻です。
でも凡人は、マネしないほうがいいですね。
たとえば、壇一雄は、自殺願望の強い友人の太宰治を置いて、逃げます。
寒い晩のこと。
店で呑んだ後、いつものように2人はアパートで、呑み直しながら、「自殺するなら、どんな方法が簡単か?」 について語り合います。
結果、酩酊状態の2人は、ガス管をくわえて寝てしまいます。
途中で壇は目が覚め、太宰を置いて、自転車で女のところへ逃げてしまうんですね。
この時、太宰は助かったのですが、太宰は太宰で、壇を置いて逃げたことがありました。
これが有名な 「熱海事件」 です。
壇は太宰の妻に頼まれて、熱海の旅館まで、お金を届けるのですが、2人は大酒を呑んで、遊女屋にくり出して、金を使い果たしてしまいます。
これでは、せっかく壇がお金を届けた意味がありません。
話し合った結果、今度は太宰が東京へ金を借りに行くことになり、壇が旅館に残りました。
ところが、太宰は、そのまま戻らなかったといいます。
のちに、この事件が 『走れメロス』 を書くきっかけになったといいますから、何が功を奏するか分かりませんね。
本書では、こんな45人の文豪たちの逃亡劇が、満載です。
夏目漱石、志賀直哉、芥川龍之介、島崎藤村、田山花袋、森鴎外、江戸川乱歩、幸田露伴、坂口安吾、室生犀星、萩原朔太郎、中原中也、宮沢賢治……
もう、みんなみんな、逃げて、逃げて、逃げまくります。
でも、この本の秀逸なところは、巻末に、まるで付録のように付いている 「逃げなかった文豪たち」 なんですね。
「文豪=だらしない」
そんなイメージとは、ほど遠い、真面目で、勤勉で、責任感があり、最後まで逃げなかった文豪たち。
彼らのほうが、よっぽどヘンタイなのかもしれませんけどね。
興味を持った人は、ぜひ、ご一読を!
Posted by 小暮 淳 at 11:15│Comments(0)
│読書一昧