2022年04月19日
西上州の薬湯 (15) 最終回 「『高崎の奥座敷』 と呼ばれた浮世離れの別天地」
高崎観音山温泉 「錦山荘」 高崎市
JR高崎駅から、わずか3キロ。
観音山丘陵の中腹にたたずむ一軒宿は、市街地から近い場所にありながら、豊かな自然に囲まれた静寂の中に立つ。
昔より、時の要人たちに愛されてきた別天の地だった。
開湯は大正4(1915)年。
当時は清水(きよみず)鉱泉と呼ばれる共同浴場があり、地域の人たちに親しまれ、大変にぎわっていたという。
宿は昭和4(1929)年に、和風建築の高級料亭旅館として創業した。
特に秋の紅葉は美しく、その錦織り成す風光明媚な景色から 「錦山荘」 と名付けられた。
かつては新渡戸稲造や犬養毅などの政治家や実業家が足を運び、「高崎の奥座敷」 とまで言われた。
平成の大合併がされるまでは、高崎市で唯一の温泉宿だった。
昭和63(1988)年に改築され、装いも新たに展望風呂を持つ旅館に生まれ変わった。
現在は日帰り入浴や食事、宴会ができる温泉施設として、宿泊客のみならず地域の人たちの憩いの場として利用されている。
しかし大正、昭和、平成と時代は移り変わっても、ここだけは今も昔も変わることのない深い自然に包まれている。
市街地との距離を考えると、奇跡とも言える清閑を保っている。
本館の2階には、創業当時の客室が残されている。
「桐」 「竹」 「桜」 「楓(かえで)」 の間には、客室名どおりの銘木を贅沢に使った長押(なげし) や回り縁、網代(あじろ)天井など、日本建築の粋を極めた内装が施されている。
その美しさは、一見の価値あり。
あえて、この4部屋を指名して宿泊するファンもいるほどだ。
自慢の露天風呂へは、渡り廊下のような階段を上って別館へ。
浴室は昔ながらの丸太を組んだ湯小屋風。
湯舟の中からは高崎市街地を一望することができる。
眼下の烏(からす)川越しに市役所、その奥に県庁舎を望み、遠く赤城山の全景を見渡す大パノラマが広がる。
♪ 秋の日脚は観音山に 落ちて夕闇立田の姫も 織るが紅葉の錦山荘は 浮世離れた別天地 ♪
“ブルースの女王” と言われた大歌手、淡谷のり子が昭和初期に歌った 『高崎小唄』 のフレーズである。
冷えた体を湯の中で温めていると、歌詞が心に染みて来る。
まさに、ここは “浮世を離れた別天地” だ。
<2018年2月2日付>
※現在、錦山荘は休業しています。
このカテゴリーでは、2016年12月~2018年2月まで 「生活info(くらしインフォ)」 (関東新聞販売) に連載された 『西上州の薬湯』(全15話) を不定期にて掲載してまいりました。
ご愛読いただき、ありがとうございました。
Posted by 小暮 淳 at 11:03│Comments(2)
│西上州の薬湯
この記事へのコメント
ここ、行きたくて予約しようとしたことがあります。
友人たちと一緒に泊まろうと思ったのですが、
すでに休館となっていました。
もう少し、早く、泊まって入ればと、とてもとても悔やまれています。
友人たちと一緒に泊まろうと思ったのですが、
すでに休館となっていました。
もう少し、早く、泊まって入ればと、とてもとても悔やまれています。
Posted by センネンボク at 2022年04月20日 22:56
センネンボクさんへ
今回の休館は、ちょっと永いですね。
経営者がコロコロ変わっいるようですが、とにかくロケーションの素晴らしい宿なので、ぜひ、再開してほしいものです。
個人的には、死んだオヤジと最後に一緒に入った温泉でした。
今回の休館は、ちょっと永いですね。
経営者がコロコロ変わっいるようですが、とにかくロケーションの素晴らしい宿なので、ぜひ、再開してほしいものです。
個人的には、死んだオヤジと最後に一緒に入った温泉でした。
Posted by 小暮 淳 at 2022年04月20日 23:26