2022年04月06日
西上州の薬湯 (13) 「奥多野の深い谷に湧く秘境のいで湯」
このカテゴリーでは、2016年12月~2018年2月まで 「生活info(くらしインフォ)」 (関東新聞販売) に連載された 『西上州の薬湯』(全15話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
塩ノ沢温泉 「やまびこ荘」 上野村
西上州には、“塩” の名の付く温泉が多い。
八塩温泉 (藤岡市) が有名だが、かつては磯部温泉 (安中市) は 「塩の窪(くぼ)」、坂口温泉※ (高崎市) は 「塩ノ入(いり)」 と呼ばれていた。
名前通りの塩分を含んだ塩辛い温泉 (鉱泉) が湧いている。
海なし県で塩分とは不思議に思うが、太古の昔、そこが海の底であった証しと知れば、温泉へのありがたみも倍加するというものだろう。
塩分の多い温泉は保温効果が高いため、別名 「あたたまりの湯」 とも 「熱の湯」 とも言われている。
湯冷めをしにくいので、気温の低い冬にこそ入りたい温泉といえる。
また殺菌力があるため、昔から切り傷ややけどに効く薬湯として親しまれてきた。
群馬県最南端の地、上野村も昔から塩分の多い温泉が湧いていることで知られていた。
開湯は不明だが、古くから 「塩ノ沢」 という地名はあったという。
宿から200メートルほど奥まった岩盤の裂け目から塩辛い泉が湧いていた。
昭和43(1968)年7月、「やまびこ荘」 は国民宿舎として開設された。
神流川の支流、塩ノ沢川の渓流沿い。
まさに “山びこ” が響き渡る、四方を山に囲まれた深い谷の底に一軒宿はある。
平成13(2001)年7月に現在の本館が増築され、リニューアルした。
館内は “木工の里” にふさわしく、テーブルやイスなど村内在住作家の作品が配され、いつ訪れても木の香りとぬくもりに包まれている。
大浴場には内風呂と露天風呂のほかに、石に囲まれた洞窟風呂がある。
のぼせない配慮からか湯舟は浅く、湯もぬるめなので、ゆっくりと半身浴が楽しめる。
目をつむっていると、時おり、ポトン、ポトンと湯気が天井からしずくとなって落ちてくる音がする。
日常の邪念を捨てて、瞑想(めいそう)にふけるのもいい。
湯上りの食事は、山菜や川魚などの素朴な里山料理が並ぶ。
なかでも特産品のイノブタ料理は、ここでしか食せない上野村限定の味。
豚肉に比べ、タンパク質と鉄分が多く、逆に脂肪が少なく、甘みとコクがある滋味あふれる美食である。
夏は陶板焼き、冬は鍋でいただける。
もう一つの名物、十石みそとの相性も抜群だ。
<2017年12月1日付>
※坂口温泉は閉館しました。
Posted by 小暮 淳 at 11:59│Comments(0)
│西上州の薬湯