2022年04月13日
西上州の薬湯 (14) 「太古の地中から湧き出る全国無比の鉱泉」
このカテゴリーでは、2016年12月~2018年2月まで 「生活info(くらしインフォ)」 (関東新聞販売) に連載された 『西上州の薬湯』(全15話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
八塩温泉 「神水館」 藤岡市
神流(かんな)川の支流、南沢の渓流沿いに、古くから鉱泉が湧いていた。
8つの塩泉があったことから 「塩の湯口八ツ所」 と呼ばれ、これが地名の由来だという。
源泉は約14~16度の冷鉱泉。
200万年以上前の新生代第三紀に地中に閉じ込められた海水が、現在も自噴している。
高濃度の塩分を含んでいるため、物資不足の戦時中は源泉から食塩を精製したこともあった。
また炭酸を含むため、菓子などの製造にも利用されてきた。
明治時代の古文書にも、<固形成分の多きこと全国無比の鉱泉なり> と記載されているほどの名薬湯だった。
八塩(やしお)の源泉は、上流にあるほど塩分が濃いともいわれ、現在は5つ源泉が川沿いに湧き、3軒の温泉宿が点在している。
入浴には加水して濃度を薄めながら使用しているが、それでも塩辛い湯がピリピリと肌を刺激する。
胃腸病、リウマチ、一般皮膚病には温浴。
また創傷、打撲、やけど、切り傷などは、局部冷浴により効果があるといわれている。
塩分が発汗を抑えるため、保温効果もある。
昭和6(1931)年創業の 「神水館(しんすいかん)」 は、「日本秘湯を守る会」 (朝日旅行) の会員宿として、温泉ファンに広く知られている老舗旅館。
桃山風建築の本館と数寄屋造りの別館が、まるで時代劇のオープンセットのような存在感をもって、旅人を出迎えてくれる。
玄関を入るとガラス張りのロビー一面に、神流川の悠々とした流れが、あたかも一幅の屏風(びょうぶ)絵のように広がる。
春のサクラ、夏のツツジ、秋のモミジ、そして冬木立と四季折々の表情を映し出している。
同館が “映し絵の宿” とも呼ばれるゆえんである。
敷地内に自家源泉が湧く。
泉質はナトリウム―塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉。
「重曹を含んでいるため、昔は、まんじゅうを作るのにも使われていたと聞いています。また切り傷や皮膚病に特効があるといわれ、医者に紹介されて通って来る患者さんもいます」
と5代目主人の貫井昭彦さん。
その効能は、アトピー性皮膚炎が治ったという報告もあるほどだ。
内風呂には、源泉を加温した 「温浴用」 と、源泉そのままの 「冷浴用」 の2つの浴槽がある。
交互に入浴することで、神経痛や筋肉痛などの効能を高めるという。
源泉の温度は約15度。
冬場の入浴は覚悟が必要だ。
ところが、これがクセになる。
湯上りは、いつまで経っても汗が引かず、体がほてり続けていた。
<2018年1月5日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:05│Comments(0)
│西上州の薬湯