2022年08月01日
ぐんま湯けむり浪漫 (17) 高崎観音山温泉
このカテゴリーでは、2017年5月~2020年4月まで 「グラフぐんま」 (企画/群馬県 編集・発行/上毛新聞社) に連載された 『温泉ライター小暮淳のぐんま湯けむり浪漫』(全27話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
高崎観音山温泉 (高崎市)
時の要人たちに愛された高級旅館
平成の大合併までは、高崎市で唯一の温泉宿であった。
市街地とは烏川をはさんだ目と鼻の先。
それなのに観音山丘陵の中腹にたたずむ 「錦山荘(きんざんそう)」 は、竹林と赤松林に囲まれた静寂に包まれている。
その名のとおり、錦織り成す自然美の中にある風光明媚な宿は、昔より時の要人たちが足を運び、「高崎の奥座敷」 として利用されてきた。
新渡戸稲造や犬養毅なども訪れたという。
観音山山頂へ向かう羽衣坂を上り始めると、やがて左手に 「錦山荘」 と書かれた黒い大きな門が見えてくる。
門をくぐる手前で、小さな橋を渡る。
橋のたもとには、昔ここにあった旧橋の親柱が残されていて、こう刻まれている。
<錦山荘橋 昭和六年四月廿九日開通>
<高崎館 田中富貴壽架橋>
高崎館とは、明治から昭和初期まで高崎駅前にあった旅館である。
錦山荘は昭和4(1929)年、「鉱泉旅館割烹 高崎館別館」 という高級料亭旅館として創業。
それ以前は、大正時代に開湯した清水(きよみず)鉱泉と呼ばれる共同浴場があり、地域の人たちに親しまれ、大変にぎわっていたという。
市街地を見渡す絶景の展望風呂
昭和63(1988)年に改築され、錦山荘は現在の展望風呂を持つ温泉旅館としてリニューアルオープンした。
現在は宿泊客のみならず、日帰り入浴や食事、宴会ができる地元の人たちの憩いの場として利用されている。
創業当時をしのぶ客室が、本館の2階に残されている。
「桐」 「竹」 「桜」 「楓(かえで)」 の間には、室名どおりの銘木をぜいたくに使った長押(なげし)や回り縁、網代(あじろ)天井など、日本建築の粋を極めた内装が施されていて、歴史の重みが感じられる。
古き良き時代の息吹と昭和のロマンが漂う客室は今でも人気があり、あえて指名して宿泊するファンも少なくない。
宿自慢の展望風呂は、昔ながらの丸太を組んだ湯小屋風。
全面ガラス張りの大きな窓からは、眼下に高崎の街を一望することができる。
烏川越しに高崎市役所、その奥に群馬県庁舎がそびえる。
そして借景として、あたかも屏風絵(びょうぶえ)のように長く裾野を広げる赤城山の雄姿を見渡す。
何度訪れても、飽きることのない絶景である。
<2019年2・3月号>
※錦山荘は現在、休業中です。
Posted by 小暮 淳 at 11:23│Comments(0)
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