2020年01月19日
源泉ひとりじめ(7) 初めての宿なのに、思わず 「ただいま」 と言いたくなった。
癒しの一軒宿(7) 源泉ひとりじめ
川中温泉 「かど半旅館」 吾妻町(現・東吾妻町)
「日本三美人の湯」 と刻まれた立派な石柱が立っている。
三美人の湯とは、和歌山県の龍神温泉、島根県の湯の川温泉、そしてここ川中温泉である。
3つの温泉に共通している美肌作用の条件は、弱アルカリ性でナトリウム・カルシウムイオンを含むこと。
これらが肌の表面にある皮脂と結びついて、洗浄作用をもたらすらしい。
なかでも川中温泉はカルシウムイオンの量が多く、ベビーパウダーのような作用があるため、湯上がりのスベスベ感は群を抜いている。
くしくも前の週、和歌山県の龍神温泉へ行って来たばかりだった。
この歳になって、しかも男の私が 「美人の湯めぐり」 もないだろうが、今夏の猛暑に酷使された肌が癒されるなら、ありがたい。
それも三美人の湯の中で、川中温泉だけが一軒宿だ。
秘湯にのんびり浸かって、心まで癒されることにした。
つづら折りの坂道の奥に、赤い屋根の木造旅館が現れた。
ガラス窓越しに見える格子戸の連なりが、かつての湯治場のおもむを今に伝えている。
初めての宿なのに 「ただいま」、そう言いたくなるような若女将の満面の笑顔に出迎えられた。
通された部屋も、どこか懐かしさがある。
木枠の窓に、回り廊下のある開放的な空間……。
扇風機が自然の風を届けてくれる。
近代的なホテルや大旅館では、とうに排除されてしまった素朴さには、一軒宿の名にふさわしい情緒がある。
旅装を解いて浴衣に着替え、タオル一本片手に向かうは、源泉100%かけ流しの露天風呂。
泉温が低いため、2つの湯舟のうち手前は、熱交換方式で加熱してある。
交互に入るのが、本来の入浴法とのことだ。
湯の花が漂うぬるめの源泉に身を置くと、目の前の雁ヶ沢川の瀬音が小気味よいリズムを刻んでいた。
この川の中から温泉が湧出したことから名付けられた川中温泉。
以前は川の中に湯舟があったというが、今でも川底を覗き込むと湯の花が漂っている。
遠くで雷鳴が聞こえた。
ひと雨、来そうである。
ならば山あいに煙る雨を眺めながら、湯上がりのビールをいただくのも、旅の一興である。
●源泉名:美人の湯
●湧出量:108ℓ/分(自然湧出)
●泉温:35℃
●泉質:カルシウム-硫酸塩温泉
<2004年10月>
Posted by 小暮 淳 at 11:55│Comments(0)
│源泉ひとりじめ