2020年04月06日
源泉ひとりじめ(26) 湯を浴みながら、月の光を浴びた。
癒しの一軒宿(26) 源泉ひとりじめ
月夜野温泉 「つきよの館」 みなかみ町
「そろそろ始まりますよ」
女将に、そう言われて、窓辺に寄った。
レモン色の太陽が遠くの尾根に触れると、途端にオレンジ色に空を染め出した。
影絵のように稜線が際立って見える。
ふと、南の空に目をやると、白い三日月が夕陽を追うように昇り始めていた。
赤い屋根の宿が、崖の上に見える。
直下の穴観音と呼ばれる僧の修行場だった洞窟の前に、源泉小屋はあった。
あふれ出た湯は、小川に流れ出る岸で、黒緑色の苔をつくっていた。
「この苔を手につけて、こすってみてください。肌がツルツルになりますよ」
と、案内してくれたチーフの小林さんが教えてくれた。
平成元(1989)年、同館の社長が、この湯を掘り当てた。
以来、地元では立ち寄り風呂として、また遠方の常連客からは三峰山と大峰山に抱かれた絶景の宿として親しまれている。
夕刻、窓枠いっぱいに描かれた風景画に誘われて、そのまま大浴場へ。
夕焼けの赤が、湯舟の向こうで燃えている。
見る見るうちに帳(とばり) がおりて、天空の主役は月にかわった。
まるで湯の中から、全天周映画の投影を観ているよう。
それも貸しきりでだ。
思えば、ここは 「月の夜の野」 である。
なんて美しい地名なのだろうか──。
残念ながら昨年の合併で町名は消えてしまったが、ここには温泉名にも宿名にも、この美しい名前が残っている。
脱衣所に出て、一枚の貼り紙に気づいた。
「月の出ている夜は、浴室の電気を消して月光浴をお楽しみください」
と書かれている。
夕食のあとで、もう一度、湯を浴(あ)むことにした。
●源泉名:みねの湯
●湧出量:26.3ℓ/分 (動力揚湯)
●泉温:28℃
●泉質:アルカリ性単純温泉
<2006年5月>
Posted by 小暮 淳 at 11:15│Comments(0)
│源泉ひとりじめ
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