2020年04月16日
源泉ひとりじめ(29) 旅情と人情が、山と盛られていた。
癒しの一軒宿(29) 源泉ひとりじめ
忠治温泉(赤城温泉) 「忠治館」 前橋市
ドーン! ドーン! ドーン!
湯上がりに、部屋でくつろいでいる時だった。
磨き込まれた木の廊下を伝って、空きっ腹に太鼓の音が響いてきた。
時計を見れば、午後6時ちょうど。
それは、夕食を知らせる合図だった。
「宴の間」 の前に、「きょうのおごっつぉ」 と書かれた野趣に富んだ食材たちが並んでいる。
どれも山の幸ばかりだ。
竹の子、こごみ、つる菜、わらび、まいたけ、こしあぶら……。
山女の塩焼きと鹿肉のたたきに舌鼓を打ちつつ、乾いた喉に生ビールを流し込めば、甘露、甘露!
何よりも夕げの席に顔を見せた、女将のあいさつと板長の料理解説に、旅情と人情を感じた。
前橋市街地から車で、わずか40分。
身近なれど山深い赤城山麓の地に、ひっそりと一軒宿はたたずんでいる。
江戸時代の民家を再現した旅籠(はたご)風の古民家造り。
蒼々と生い茂った大きな2本のモミジの樹が出迎えてくれた。
通された部屋は 「浅太郎の間」。
14部屋ある客室には、すべて国定忠治の子分の名前が付けられている。
<身のこなしがとても敏捷なうえ長槍の名手で、足も速く六十里を一日で走ったといわれている。忠治親分への忠誠心は人一倍強く、伯父勘助の子、勘太郎を背に 「赤城の子守唄」 を唱ったことでも有名>
と、部屋ごとに書かれている説明に見入ってしまった。
食後は、ひと休みして露天風呂へ。
かがり火が焚かれた幽玄な湯舟からは、崖下に落ちる勇壮な滝が見える。
風の音、水の音、森の音が、湯けむりの中を間断なく通り過ぎてゆく。
傍らでは、炎と一緒に薄紫のシャガの花が揺れていた。
ドーン! ドーン! ドーン!
翌朝、また太鼓の音で目が覚めた。
「宴の間」 へ行くと、「人情盛り」 と名付けられた山盛りご飯が待っていた。
●源泉名:赤城温泉 新島の湯
●湧出量:87.7ℓ/分 (掘削自噴)
●泉温:43.2℃
●泉質:カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩温泉
<2006年8月>
Posted by 小暮 淳 at 13:59│Comments(0)
│源泉ひとりじめ