2022年06月07日
人生の追加メニュー
親友と呼べるかは分かりませんが、学生時代から付き合っている腐れ縁の旧友なら何人かいます。
そのうちの一人、T君から久しぶりに “差し呑み” の誘いがありました。
「富山に行けなかったからさ。その代替ということで」
富山とは、富山市で毎年春に開催されるチンドンフェスティバルのことです。
一緒に行く予定でしたが、コロナの影響で今年も開催が中止となってしまいました。
T君は中学~高校の同級生。
互いに夢を語り合い、共に夢を追いかけて、花の都・東京へ出ました。
恋をして、恋に破れ、夢に振り回され、夢に破れ……
そのたびに、酒を酌み交わして、早や半世紀。
夢も仕事も別々の2人ですが、一度だけ神様が、人生にいたずらを仕掛けてくれたことがありました。
それは彼が、僕の本の出版担当者になったことです。
「あの時は、驚いたな」
「いや、なんだか照れくさくて、やりにくかったよ」
「でも楽しかった」
「ああ、仕事で温泉に行って、夜通し酒を呑んだのなんて、後にも先にも、あの時だけだ」
※2014年4月刊 『新ぐんまの源泉一軒宿』 (上毛新聞社)
呑むほどに、酔うほどに、昔話に花が咲きます。
河岸を変えて、思い出の居酒屋へ行くことに。
30代に2人でよく通った、夫婦だけで商っている小さな店です。
でも10年ほど前に移転したと聞いていたので、街中を探し回りました。
暖簾をくぐると、懐かしいママと主人の顔が……
ちゃんと、僕らのことを覚えていてくれました。
それが嬉しくて、酒のピッチも上がります。
気が付けば、僕らも60代。
T君は一度、定年退職をして、現在、再雇用期間中。
それも、あと数年で終わります。
「小暮は、いいな」
「何がさ?」
「定年がなくて」
「ということは、死ぬまで働けってことだよ」
「俺、何しようかな……」
人生100年時代の大きな課題が、話のテーマとなりました。
就職をして、結婚して、子供も生まれ、家も建て、子供も育って……
「人生のメニューは、ほぼほぼ終えたよな」
とT君。
だから僕は、言ってやりました。
「また夢を追うか?」
「あの頃のように?」
「そう、こうやって拳を振り上げてさ、『世の中を変えてやる~!』 って(笑)」
程なくして、僕らの “人生の追加メニュー” が決まりました。
「また旅をしようよ」
「だな」
「あの頃のように、知らない街で待ち合わせて、酒を呑んで、知らない街で別れる」
かつて僕らの旅は、小説となり新聞に掲載されたことがありました。
※(当ブログの2019年5月21日 「掌編小説 <浅田晃彦・選>」 参照)
「では、そういうことで、よろしく!」
「こちらこそ!」
旧友って、いいもんですね。
いつでも、どこでも、会えばすぐに、あの頃に戻れるのですから。
Posted by 小暮 淳 at 12:05│Comments(0)
│酔眼日記