2012年09月06日
『みなかみ18湯』上巻、完成祝勝会!
「カンパ~~~イ!」
4つのジョッキがぶつかり合い、小部屋にガラス音が響き渡ります。
そして、
「おめでとう!」「おめでとうございます」「大変お疲れ様でした」「ご苦労さまです」
の言葉が飛び交う。
この世で一番うまい酒を飲む、宴の始まりです。
“終わらない旅はない”
辛いとき、苦しいとき、僕はいつも自分に、そう言い聞かせます。
「好きなことを仕事にしているんだから、辛いことなんてないでしょう?」
と良く言われますが、そんなことは、ありませんって。
確かに、好きな温泉に入り、好きな文章を書くことは、決して苦痛ではありません。
でもね・・・
問題は、体力と忍耐力なんです。
年々、加齢とは反比例して、出版のスピードが速くなっているんですよ。
今回の新刊本は、10ヶ月間で34軒の宿を取材しています。
次回本の 「下巻」 については、9ヶ月間で42軒の宿を取材します。
と、いうことで、今回は新刊の完成を見る前に、すでに先月から次回本の取材が始まっています。
「キーーーッ、う、う、うまい!」
まるで水のごとく、生ビールがグイグイとノドから胃の中へ、落ちていきます。
そして、僕らの前には、できたてホッカホッカの新刊本 『みなかみ18湯〔上〕』 が置かれています。
4人が4人とも、この日のこの酒を楽しみに、苦楽を共にしてきました。
いわば、僕らは戦友です。
では、ここで僕の戦友をご紹介します。
●アートディレクター 桑原 一
●カメラマン 酒井 寛
●デザイナー 栗原 俊文
の3人であります。
いくら僕が、一人で我武者羅(がむしゃら) に頑張っても、彼らがいなければ、本を世に出すことはできません。
「今日は、祝勝会ですな。大いに飲みましょう!」
と、リーダー格である桑原氏が音頭を取り、日本酒に切り替わったところで、またまた乾杯であります。
祝勝会か・・・
「なるほどね」 と、全員納得してしまいました。
共に戦った戦友だからこそ、同じ喜びを分かち合えるというものです。
確かに、これは “祝勝会” であります。
そして昨晩は、この世で一番うまい酒を、存分に浴びました。
※新刊 『みなかみ18湯〔上〕』(上毛新聞社) は、9月15日の発行です。
書店での販売は、それ以降となります。
詳しくは、上毛新聞社事業局出版部 TEL.027-254-9966 まで。
2012年09月05日
ちょっとインドまで⑩ 「ゆっくり流れる時間の中で」<最終回>
⑩「ゆっくり流れる時間の中で」<最終回>
昨年から今年にかけて、海外で日本人が殺害されるという事件が頻発している。
インドでも、僕が行った1ヶ月ほど前に、ラージャスターン州の観光地で日本人旅行者の女性イが、男にドライバーで顔をメッタ突きにされるという痛ましい事件が起きていた。
インドは、比較的治安の良い国だ。
町を歩いていて、置き引きや引ったくりにはあったとしても、命を狙われるようなことは、まずない。
しかし、どうだろうか?
日本ですら連日、新聞の片隅に、殺人事件の記事を見つけることができる。
治安が良ければ、何をしても安全ということではないだろう。
今、日本人は金を持っている。
我々個人にその意識がなくても、訪れる国の人たちには、“豊かな国から来た旅人” として映っていることは事実なのだ。
妬(ねた)みや嫉妬(しっと)を挑発するような行動だけは、旅人のマナーとして、つつしみたいものである。
インドでは、前述の事件をふくめ、外国人のトラブルは圧倒的に女性が多い。
それも安易な目的や服装でやって来てしまった若い女性だ。
婚前交渉が禁止されているわけではないが、結婚が神聖化されているため、インドでは未婚の男女に対する管理が厳しい。
特に女性への風当たりは強く、恋人同士でも、なかなか手をつなげない国と考えたほうがよい。
よって、インドの若者たちは、常に性的欲求不満状態にあるのだ。
彼ら(若いインド人男性)からみると、どうも欧米人や日本人は “フリーセックスの国から来た人” という、おかしな妄想があるらしい。
だから、やたらと外国人女性は、痴漢に狙われる。
現に、僕が在住の日本人女性とショッピングへ行ったとき、何度となく彼女の 「ドント・タッチ・ミー!」「ゴー・アウェイ!」 という悲鳴を聞いた。
どうしたことかと近寄ると、「この男が私の尻をなでた」 とか 「胸をつかんだ」 ということだった。
中には 「あなたはバージンか?」 とか 「セックスしよう!」 と露骨に迫ってくる場合もあるという。
いずれにせよ、ハッキリとした態度をとることが大切である。
さて、インドの旅も、そろそろ終わりに近づいてきた。
デリーを発つその日、僕は半日早くインドを発ちタイに向かう連れを見送り、午後は散歩に出かけることにした。
ニューデリー郊外の、まだ舗装されていない道を歩いていると、豚の親子が僕の前を横切って行く。
相変わらず背中に白いコブのある牛たちは、我が物顔で路上に寝そべっていた。
あと数時間で、自分もインドを離れるのだと思ったとき、言い知れぬ悲しみが込み上げてきて、寂寞(せきばく)感に包まれてしまった。
これには、自分でも驚いた。
「帰りたくない……」
駄々をこねる子どものように、夕日を見つめながら何度も心の中で、そうつぶやいていた。
この国には、果てしない時間があると思った。
日本の何倍もの、ゆっくりとしたスピードで、時は流れているようだ。
今日も駅のホームでは、“その日来る” 電車を誰もがひたすらに待っていた。
色と音と臭いと砂ぼこりの中で・・・
< 『ちょっとインドまで』 完 >
2012年09月04日
ハイ、こちら無料温泉相談所!
「○○です。大変ご無沙汰しています」
なーんて電話を突然もらうと、大抵は身構えてしまうものです。
それも、何年も疎遠になっていた友人・知人だったりすると、いや~な予感もしたりして・・・。
だって、卒業以来まったく交流がなかった昔の同級生からの電話って、たいがいは何かの勧誘だったりしませんか。
で、このところ(といっても何年か前からですが)、登録のない(ケータイに名前が表示されない)着信が増えています。
「こんなときだけ電話してすみません。でも女房が小暮さんに聞いてくれっていうものですから・・・」
なんてね。
要は家族で温泉へ遊びに行くことになって、どこの旅館に泊まるか?という家族会議の最中の電話のようです。
なんでも、奥さんが僕の読者なんですって。
こんなとき、僕は必ず 「何を目的に行くのか?」「何人で?」「家族構成(メンバー構成)は?」 などの条件を聞き出します。
お湯の良い宿、料理の良い宿、宿泊料金の安い宿、小さな子供連れでも気をつかわなくて済む宿、などなど・・・。
だいたい、今までにハズレはなかったと思います。
だって、後日に必ず、お礼のメールや電話をいただいていますからね。
で、そのとき必ず訊かれることが、「小暮さんの名前を出してもいいですか?」です。
まあ、宿の悪口を言っているわけではなくて、その逆に紹介しているわけですからね。
「別に、どうぞ」 と応えていますが、何か特典があったかどうかは知りません。
先日も、名前の着信表示のない電話がありました。
「××です。お久しぶりです」 と言われても、よくある名字なので、すぐには顔が浮かんで来ませんでした。
「今、●●村に居るんだけどさ、どこかいい温泉を教えてもらえないかなぁ~?」
はいはい、分かりましたよ。
その声、その口調は、以前講演等で大変お世話になったKさんです。
なんでも、一人旅をしていて、今夜は●●村に宿を取りたいのだと言います。
うれしいじゃ、あ~りませんか!
だって、何年も会っていないのに、旅の途中で僕のことを思い出して、しかも僕のケータイ番号も登録されていたなんて。
あの時だけの仕事の付き合いだと思っていた人から相談を受けたのですから、それは親身になって応えてさしあげましたよ。
「料理はこだわりますか? 宿泊の予算は? 小さな宿でもいいですか?」
すると彼は、「豪華な料理はいらないので、お湯の良い、素朴な宿がいい」 と言いました。
「だったら決まり! △△温泉の□□屋さんですね」
と、即座に紹介しました。
「ありがとうございます。助かりました!」と彼。
「お気をつけて、いい旅を!」 と僕。
こんなときです。
ああ、この仕事をしていて良かったなぁ~っと思えるのは・・・
だって、過去にたった一度しか会ったことのない人や、疎遠になっていた古い友人や知人たちと、こうやって声だけとはいえ再会ができるんですからね。
こんな僕でも、誰かのお役に立っていることが、うれしいんですよ。
ぜひ、僕の友人・知人のみなさーん!
気軽に僕を利用してくださいね。
知っている限りの温泉情報は、お話しいたしますよ。
「ハイ、こちら無料温泉相談所です!」 ってね(笑)
2012年09月03日
北軽井沢温泉 「御宿 地蔵川」②
“宿の数だけ 物語がある”
この言葉は、今月15日に出版される僕の新刊 『みなかみ18湯 〔上〕』(上毛新聞社・刊) の帯に書かれているコピーです。
実は、僕がフリーのライターになった理由も、ここにあります。
編集者のままでは、どうしても温泉地の旅館を、ガイドブック以上の記事として表現することが不可能だったのです。
旅館の設備や料理、サービスの紹介記事ではなく、その温泉地の歴史や湯を守り継いできた人々の話を書きたい!
それには、編集者として組織の中にいては書けないと思ったのです。
だからフリーのライターとして、時間に制約されずに、何度でも宿に通い、自分の納得行く文章が書ける人生(みち)を選びました。
このことは、間違っていなかったと、今、実感しています。
と、いうことで、今日も今日とて、足しげく温泉旅館を訪ねてきました。
北軽井沢温泉の一軒宿、「御宿(おやど) 地蔵川」 です。
僕が最初に北軽井沢温泉を訪ねたのは、今から7年前のこと。
雑誌の取材で、泊まりました。
そのとき話を聞いたのは、先代主人の土屋勝英さんでした。
そして宿名もまだ、「地蔵川ホテル」 でした。
3年前、本の取材で訪れたときは、3代目主人の土屋基樹さんに話を聞きました。
そのときは、玄関ロビーも客室も、すっかりリニューアルされていて、宿名も 「御宿 地蔵川」 と改名されていました。
そして今年の7月には、僕が講師を務める野外温泉講座で受講生らと訪ね、またまた今日は、新聞社の依頼取材で行ってきました。
勘の良い読者なら、もうお分かりですね。
そうです、朝日新聞に連載中の 『湯守の女房』 の取材です。
と、いうことで、今回は女将の土屋幸恵さんと、大女将の民子さんに、じっくりとお話を伺ってきましたよ。
温泉旅館というのは面白いもので、男目線(主人)で語られる話と、女目線(女将)で語られる話では、同じ旅館でも、だいぶイメージは違うものです。
男の苦労と女の苦労の違い・・・
湯への思いと客への思い・・・
旅館のこだわりは機微にいたるまで、その代、その人ごとに異なり、話を聞けば聞くほどに、奥深い味わいがあるものです。
やっぱり、宿の数だけ、人の数だけ、物語があるんですね。
2012年09月02日
色いろいろ変わり湯温泉
温泉は、そのほとんどが湧出時は無色透明です。
(一部、腐植質が温泉水に混ざったモール泉など、湧き出た時から色が付いているものもあります)
透明な温泉が空気に触れ、含有成分が酸化すると、色づきます。
その色の付き方は、成分によって異なりますが、季節や天候、気温、気圧、さらには湯舟の広さや温泉の使い方によっても変わります。
これらの温泉は、一般的には 「にごり湯」 と呼ばれています。
「にごり湯」 というと、群馬県では白濁した万座温泉や草津温泉、茶褐色や赤褐色に色を変える伊香保温泉、赤城温泉が有名ですが、この場合、白濁するのは硫黄分であり、赤褐色になるのは鉄分です。
ところが群馬県内には、白色や赤色以外にも、さまざまな色の温泉があります。
たとえば同じ硫黄泉でも、万座温泉には黄緑色になる源泉があります。
また、鉄分を含む温泉でも、濃度が薄ければ緑色がかって見えますし、濃度が増すと黄土色→茶褐色→赤褐色と色を変えます。
実は、いま挙げた例は、化学的な分析により判明している色の変化です。
しかし、温泉には、まだまだ人間が分からないことがいっぱいあるんですね。
その1つに、「変わり湯」 があります。
「にごり湯」 の一種ですが、1つの色に留まらず、日によったり、時間の経過によって色を変える温泉です。
前述したように、気温や気圧、天候によって色を変える温泉です。
なかには、昔から湯の色によって、天気を占った温泉もあるんですよ。
ということで、僕がコメンテーターを務める次回の群馬テレビ 「ニュースジャスト6」 では、訪ねた日や訪ねた時間で色が異なる不思議な温泉の話をします。
興味のある人は、ぜひ、ご覧ください。
●放送局 群馬テレビ(地デジ3ch)
●番組名 「ニュースジャスト6」
●放送日 (月)~(金) 18:00~18:45
●出演日 9月6日(木)
●テーマ 色いろいろ変わり湯温泉
2012年09月01日
たった3日間の展覧会
初代・海パンカメラマンのタケチャンマンこと、竹沢佳紀くんが写真展を開いているというので、陣中見舞いに行ってきました。
場所は、前橋市の旧市街地、中央アーケード通りにある 「ミニギャラリー千代田」 という、小さなギャラリーです。
僕が入口から中を覗き込んだだけで、彼は気が付いて、「小暮さ~ん、うれしいです」 と店の中から飛び出てきてくれました。
『接合/亀裂』
竹沢佳紀(写真) × 新井隆人(言葉) EXHIBITION
なんとも難解なタイトルですが、展示されてい12点の写真は、彼らしいシュールな世界を表現しています。
彼はかつて、2002年に、矢印のある風景ばかりを撮影した「意志と指示の方向性」という作品で、富士フォトサロン新人賞を受賞している写真家であります。
今回は、湾岸戦争の頃から撮り続けている独特な手法で作り上げた作品を出展しています。
まず、彼が撮影したデジタル写真をテレビのモニターに映し出します。
そして、その画像を撮影するという過程を繰り返します。
テレビモニターという粗いドット(点) によって造られた映像を、ふたたび撮影することにより、不確かな画像が浮かび上がります。
画面いっぱいに映りこんだ、カラフルな走査線の縞模様が、なんとも幻想的であり、また見るものにメッセージを送ってきます。
写真の横には、写真からイメージした詩人・新井隆人さんの言葉が添えられています。
「いゃ~、ビックリしましたよ。まさか小暮さんが来てくださるとは思いませんでした。ありがとうございます」と、タケちゃんは喜んでくれましたが、僕がタケちゃんの作品展へ顔を出すのは、当たり前じゃありませんか。
だって、彼は僕の著書 『群馬の小さな温泉』 の、あの旅情あふれる表紙写真を撮影したカメラマンですからね。
当然のことですよ。
「僕はね、頑張っている人のところには、必ず現れるんだよ」
そう彼に告げて、ギャラリーを後にしました。
たった3日間の、小さな小さな展覧会です。
時間のある人は、覗いてみてください。
『接合/亀裂』
竹沢佳紀(写真) × 新井隆人(言葉)
●日時 2012年8月31日(金)~9月2日(日)
11:00~18:00
●会場 ミニギャラリー千代田
前橋市千代田町2-8-12
(中央アーケード通り)
入場無料
●問合 TEL.090-8048-1664(新井)